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原資は税金。河井メモ「安倍スガ二階甘利」で判った大規模買収の汚いカネを工面した面々

2020年、当時現職議員だった河井克行・案里夫妻が共に逮捕・起訴され大きな話題となった、参院選広島選挙区の大規模買収事件。その捜査過程で事件の真相を物語るメモが押収されていた事実が、地元紙で大きく報じられました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、安倍政権の中枢から6700万円もの現金が河井陣営に渡っていたことを「証明」するメモと、中国新聞の記事内容を紹介。さらに事件を巡るカネの流れの調査を命じることが可能な立場につきながらも、一向に手を付ける素振りを見せない岸田首相の姿勢を疑問視しています。

安倍政権の中枢から「6700万円」もの現金。河井メモが物語る大規模買収の真相

河井克行元法務大臣と妻、案里氏(元参院議員)による参院選広島選挙区(2019年)での大規模買収事件は、すでに二人の有罪が確定し、克行氏は服役中である。

だが、本当の意味で、この事件は解決したといえない。1億5000万円もの破格の選挙資金が自民党本部から河井陣営に振り込まれたことについて、誰の指示だったのか、どんな使途に使われたのかが明確になっていないからだ。

しかも、謎の資金提供は、ほかにもあった。それ以外に6700万円が現金で渡されていたことをうかがわせる「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」のメモが河井氏の自宅から押収されていたことが、最近の中国新聞の報道でわかったのだ。

下記は、中国新聞デジタルの記事(9月8日)の一部だ。

メモはA4判。上半分に「第3 7500万円」「第7 7500万円」と書かれ、それぞれ入金された時期が付記されている。その下に「+(プラス)現金6700」と手書きで記され、さらにその下に「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされていた。

これを重要メモとみるのは、克行氏の自民党広島県第三選挙区支部に7500万円、案里氏の党広島県参院選挙区第七支部に7500万円が19年の参院選前に振り込まれ、それにプラスして、「総理」から2800万円、「すがっち」から500万円、「幹事長」から3300万円、「甘利」から100万円、4人分合わせて6700万円が現金で提供されたと読み解くことができるからだ。

言うまでもなく、現金を提供した4人は、当時の安倍晋三首相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長、甘利明党選挙対策委員長をさすに違いない。だとすれば、1億5000万円以外に、6700万円が安倍政権の中枢から河井陣営に渡っていたと推定できる。

党本部からの1憶5000万円は、うち1億2000万円が政党交付金で、あとの3000万円が党本部の自主財源だったとすでに報じられている。

しかし、現金渡しの6700万円については、安倍氏ら4人と克行氏の政治団体や政党支部の政治資金収支報告書に記載されていない。公選法違反や政治資金規正法違反に当たる可能性もあると、記事は指摘しているが、検察がこれについて捜査した形跡はない。

そのために、事件の全貌が見えない。河井夫妻だけが悪いのではあるまい。誰が何の目的で多額の資金を提供し、夫妻を買収に駆り立てたのか。それをつかまなければ、単なるトカゲのしっぽ切りであり、事件の本質にたどりつくことはできない。

中国新聞は亡くなった安倍氏をのぞく3人に、この件に関する直撃取材を敢行している。甘利氏は選対委員長として党のカネを届けたこと、他の候補者へも一律に持って行ったことを認めたが、二階氏と菅氏は資金提供そのものを否定した。

二階氏は、「幹事長には党の政策活動費が支給される。党勢拡大の名目で河井氏側への現金提供はないか」との問いに、「全然記憶にないねえ」と答え、1億5千万円について「二階さんが決めたのでは」と問われ、「そんなことするわけないじゃない」と打ち消した。

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安倍氏の意向が強く働いた自民党の案里氏擁立

政党交付金という多額の税金が入る各政党本部。そこから「政策活動費」などの名目で所属議員に資金が配られる。政治団体の収支は報告書に記載しなければならないが、個人向けの「政策活動費」には使途を公表する義務がない。

二階幹事長に流れた資金は、約5年にわたった在任期間中、計約50億円にのぼる。それがどう使われたのか総務省も、国税当局も把握していない。「幹事長3300」の原資などいくらでも都合ができるのだ。

菅氏は、「官房機密費からお金を出したということはないか」という問いに「ない」と断言した。

内閣官房機密費。何に使おうが官房長官しだい。領収書いらずで、会計検査院もノータッチ。菅氏が官房長官だった7年8か月の間に、自らに支出した「政策推進費」は約86億8000万円にものぼる。

小渕政権で官房長官をつとめた野中広務氏は、官邸の金庫から毎月、首相に1000万円、衆院国対委員長と参院幹事長にそれぞれ500万円、首相経験者には盆暮れに100万円ずつ渡していたという。「総理2800 すがっち500」も、この手の資金だった可能性がある。

いずれにしても、首相と官房長官、幹事長が一致して河井案里氏を応援していたのは間違いないようだ。そうでなければ、同じ19年の参院選広島選挙区に出た自民党ベテラン、溝手顕正候補へ支出された1500万円の10倍以上もの選挙資金が提供されるはずはあるまい。逆に言うなら、この三人が了解していさえすれば、資金の使い道について誰も文句を言える者がいないということだ。

自民党は1億5000万円について、案里氏の陣営が広報紙を広島県内に複数回、配るための費用だったなどと主張していたが、それほど多額を要するとは考えられず、全く説得力はない。

それに加えて、当時の首相、官房長官、幹事長らが個々に、ひそかに現金を渡していた事実を、「メモ魔」と呼ばれる河井氏が書き残していたと推測するのが妥当だろう。

19年の参院広島選挙区の戦いは熾烈だった。前回(2013年)の同選挙区では、自民党の候補者が溝手顕正氏だけだったため、2位当選者の得票の2倍をはるかにこえる圧倒的大差で勝った。19年は「自民党で2議席独占を」という名目のもと、そこに河井案里氏が割って入ったため、同じ党でしのぎを削ることになった。溝手氏はあえなく落選した。

無理を承知で、広島県議だった案里氏を自民党が擁立したのは、安倍首相の意向が強く働いたからだ。安倍氏は溝手氏の「(安倍氏は)もう過去の人」発言(2012年)など過去の言動から、溝手氏を嫌っていた。その溝手氏が安倍一強といわれる政治情勢のなかで、楽々と選挙に当選し、参院議員会長におさまっているのが許せなかったのではないか。

案里氏を絶対に当選させるという安倍政権中枢の思いが、「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」から伝わってくる。

自民党支持層の票を奪い合ったあの選挙。県議、市議、町議、市長、町長らに集票活動を依頼するため、克行氏がカネを配ってまわった。東京地裁の判決で、河井克行氏は100人に計約2871万円を提供したと認定されたが、これはあくまで証拠、証言によって裏付けられただけの数字にすぎない。県議選とは違い、これまで案里氏と関わりのなかった地方議員にも動いてもらわなければならない河井夫妻にとって、政権中枢から降ってくる大枚の資金は、ゴールめざして馬を奮い立たせるムチのように感じたのではないだろうか。

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カネの流れ巡り二階氏に異例の強い姿勢を示した岸田氏

ここでふれておきたいのは、河井事件についての岸田首相の姿勢である。19年参院選当時、政調会長だった岸田氏は、溝手氏が所属していた派閥「宏池会」の領袖であり、当然のことながら、河井案里氏の参院選出馬には抵抗した。しかし安倍首相はかねてから岸田氏に冷たい二階幹事長を味方につけ、強硬に案里氏を公認候補者として押し込んだため、岸田氏は泣く泣く了承した経緯がある。

その悔しさが表れたのが、党広島県連会長として2021年5月12日、二階幹事長と会談したさいの、「党本部から河井案里、克行夫妻の陣営に渡った1億5000万円の使途を明らかにし国民に説明してほしい」という申し入れだった。

同年秋の党総裁選への立候補を視野に入れ、「私という存在をないがしろにしてもらっては困る」とばかり、岸田氏としては異例の強い姿勢を示したものだった。

その後、念願の権力の座に就いた岸田首相は、河井陣営に渡った資金について徹底調査を命じることのできる立場でありながら、それをしてこなかった。首相にさえなれば、もう過去のことはどうでもよいということなのだろうか。

官房機密費や政策活動費といった特権的な秘密資金が動いたとしても、その原資は国民の血税である。2億1700万円にまつわる真相を闇に葬ることは許されない。

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image by: 菅義偉 - Home | Facebook

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