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調査だけで数十億円も交付。地方の目が「核のごみ」処分場に向いている訳

原発政策を強力に推進しながら、未だ高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設予定地すら決められない日本政府。そんな中にあって、「核のごみ」により分断を余儀なくされた地域があることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、処分地選定をめぐる「文献調査」を受け入れるか否かで民意が二分した長崎県対馬市のケースを紹介。その上で、「日本に核廃棄物の処分地として適する場所はない」と断言した地球科学の専門家有志の声明を取り上げています。

プロフィール伊東 森いとうしん
ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

長崎・対馬 「核のごみ」拒否 調査だけで交付金… かつてはカドミウム汚染に苦しめられ 処分場「日本に適地なし」

原子力発電の過程で出される高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分地選定をめぐり、第1段階にあたる「文献調査」を受け入れるかどうか議論していた長崎県対馬市の比田勝(ひたかつ)尚喜市長は9月27日、市議会において調査を受け入れない意向を表明。

理由について、比田勝市長は受け入れの是非をめぐってそれぞれの主張による市民の分断が起こり、合意形成が不十分になったことや、風評被害、とくに韓国人環境客の減少など観光業に影響を与えるおそれを挙げた。

比田勝市長は、

「(賛成派・反対派)双方とも対馬市の将来を考えての議論であったと思う。私としてはこの見解をもってこの案件に終止符を打ちたい」(*1)

と語り、「核のごみ」をめぐり意見は対立した市民が再び、一体となるような施策を講じていく考えを示す。

「核のごみ」は最終処分場を設けて地下300メートルより深く埋めることを定めており、処分の選定にあたっては3つの段階で調査を行うことになっている。

このうち第1段階にあたる「文献調査」の受け入れについては、対馬市議会が9月12日、賛成派の団体が出していた受け入れの促進を求める請願を10対8の賛成多数採択。

文献調査に応じるかどうかは、最終的に市長が決めることになっていたが、比田勝市長は27日、議会最終日にて文献調査を受け入れない方針を固めた。

今回、文献調査の受け入れを求める請願を出したのは、長崎県建設業協会対馬支部や対馬市商工会(*2)。このような推進派は、今後、住民投票の実施や来春に控える市長選での候補者擁立を模索し、対立はしかし収まりそうにない。

目次

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調査だけで交付金…

再処理により取り出したプルトニウムやウランを再利用する核燃料サイクルを日本は長らく国策として位置付けてきたが、しかし停滞してきた。

その大きな要因が核のごみの最終処分場のような「バックエンド」と呼ばれる、発電が終わった後段階を担う施設の立地場所が決まらないこと。

最終処分場をめぐっては2007年、高知県東洋町が最終処分場に関する初の文献調査に着手。しかし、町長選で反対派が当選し、計画は撤回された。

一方で、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村は2020年11月、全国で初めて最終処分場に関する文献調査を開始している(*3)。

地域が調査を受け入れる背景には、人口減や産業の低迷があり、自治体の将来が危ぶまれているからだ。一方で、最終処分場のバックエンド施設に対する調査を申し込むと、多額の交付金が期待され、その交付金で地域の生き残りを狙う。

最終処分場の調査は、文献調査(2年程度)▽概要調査(4年程度)▽精密調査(14年程度)──と進むが、交付金の額はいずれも最大で、文献調査で20億円、概要調査で70億円に上る(その後の額は未定)。

中間貯蔵施設も調査段階で年間1億4,000万円、知事が建設に同意すれば、さらに年間9億8,000万円を2年間受け取れる仕組みだ(*4)。

他方、対馬の比田勝市長は風評被害を大きく気にした。市長は、

「対馬でも福島第一原発事故で韓国との水産物が取引禁止になり、韓国からの大勢の観光客が突然少なくなった。対馬の水揚げ高は168億円。10%でも16億円ぐらいの被害が出る。観光業でも消費効果額が180億円を超えている時もあったので、大きな被害が出る恐れがある」(*5)

と語る。

対馬は、昭和の時代、カドミウム鉱害に苦しんだ歴史がある。イタイイタイ病の発生も疑われた(*6)。

かつてはカドミウム汚染に苦しめられ

対馬は、かつて昭和の時代に鉱山がつくられ、カドミウム汚染の問題に苦しんできた。その過程では、イタイイタイ病の発生も疑われた(*7)。

汚染の原因となったのは、対州鉱山。この鉱山は旧厳原町に位置しており、対馬市の中でも中心的な存在。

対馬と鉱山との歴史は古く、古代から銀の産出によって地域が栄えてきた。1939年には日本亜鉛が買収し、その後も東邦亜鉛が対州鉱業所を設置し、亜鉛や鉛を採掘してきた。

一方で、地元はカドミウム汚染に悩まされてきた。カドミウムは亜鉛族元素に分類される物質であり、骨がもろくなる「イタイイタイ病」の原因とされている。実際、1969年には要観察地域に指定された。

対州鉱山は1973年に閉山したものの、長崎大学が約30年にわたって住民の健康被害の追跡調査を続けた。イタイイタイ病と同じ症状の住民が確認されたものの、しかしその原因は断定されていない。

しかし影響は今も続いており、東邦亜鉛は鉱山保安法などに基づき、発生源対策や坑廃水処理を行っている。ただ、閉山後も一度も基準値を超えていないという(*8)。

他方、対馬は、「核のごみ」の最終処分に関して長い歴史をもつ。1980年代には、動力炉・核燃料開発事業団の地質調査により、対馬の一部地域が「処分地として適している」と評価された。

さらに、最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)は2006年ごろから複数回にわたって説明会を開催する。

一方、市は、議会が8月16日に特別委員会で調査受け入れを求める請願を採択したことを受けて、同25日にエネルギー庁に13項目の質問状を送付。また、同29日にはNUMOに8項目の質問状を送付した。

これらの質問は、すでに文献調査に入っている自治体や他の関心を示す自治体の現状についてのものから、国が実施可能な手続きや安全性の確認などにわたる。一方、毎日新聞の取材によると、これらの質問に対して「ゼロ回答」だったという(*9)。

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地質学者ら300人が声明公表 「日本に適地なし」

毎日新聞の報道によれば、エネルギー庁はA4判14枚の回答書の中で、風評被害については、「何らかの対策が必要になった場合に交付金の活用が可能」と説明するものの、しかし具体的な補償内容には触れられていなかった。

避難計画に関しては、「(最終処分場を含む)廃棄物埋設施設は、国際原子力機関(IAEA)が定める国際基準によると、敷地外で放射線量が防護措置が必要とされる恐れはない」とだけ強調。

さらに「防災にかかる具体的措置は段階的に調査プロセスを進める中で整理を進める」とする(*10)。

NUMOのA4判11枚の回答書では、事故時の対応については、「最終処分施設の建設地が決定した後、地域の皆さんの安心につながるように、万が一の事態に備えた対応策については、地元自治体と相談しながら検討する」と説明するだけにとどまる。

最終的に、比田勝市長は市民の合意形成が不十分であることに加え、風評被害の懸念や将来の不安、地震などの予想外の要因による危険性などを理由に、調査受け入れを拒否すると表明。

一方、核の廃棄物の処分地をめぐって、地球科学の専門家有志が、10月30日に「日本に適地はない」という声明を発表。

とくに地殻変動が激しい日本では、地下に10万年間も廃棄物を閉じ込める場所を選ぶことは不可能であると指摘。そのため、処分方法を根本的に見直す必要があるとする。

声明には、日本地質学会の会長などを含む、研究者や教育関係者、地質コンサルタントなど300人以上の名前が連ねられている。

最終処分法では、場所を見つければ地下の「地層処分」が可能とされているが、声明では、「日本列島は複数のプレートが収束する活発な火山・地震の変動帯である」と指摘。

先行する北欧と同様に処分に先行して日本を扱い、封じ込め技術によって安全性が保証されると考えることは「論外」と批判。現在では、影響を受けない場所を10万年間選ぶことは不可能であると強調した(*11)。

引用・参考文献

(*1)「“核のごみ” 処分地調査受け入れず 長崎 対馬市長が表明」NHK NEWS WEB 2023年9月27日

(*2)岡田真実・小川崇「核のごみ調査くすぶる火だね 推進派は市長選にらみ『対抗馬立てる』」朝日新聞デジタル 2023年9月28日

(*3)土谷純一「調査だけで交付金、欲する衰退の地方 決まらぬ核のごみ最終処分場」毎日新聞 2023年9月27日

(*4)土谷純一 2023年9月27日

(*5)上月英興「『交付金では代えられぬ』 核ごみ調査を拒否、対馬市長が語った理由」朝日新聞デジタル 2023年9月28日

(*6)木原育子・西田直晃「『核のごみ』拒否した対馬 実はカドミウム鉱害に苦しんだ歴史 それでも廃棄物の苦労をかけるのか」東京新聞 2023年9月28日

(*7)木原育子・西田直晃 2023年9月28日

(*8)木原育子・西田直晃 2023年9月28日

(*9)「核ごみ拒否、国の『ゼロ回答』一因? 風評、避難対策を重視 長崎・対馬市長」毎日新聞 2023年10月1日

(*10)毎日新聞 2023年10月1日

(*11)佐々木英輔「核のごみ処分地『日本に適地はない」』 地質学者ら300人が声明公表」朝日新聞デジタル 2023年10月30日

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