多くの経営者の憧れともいえるホンダの創業者、本田宗一郎という男。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、かつて彼に「あなたのやってきたことは結局なんだったのか」という質問をぶつけた答えを、作家の小島直記氏と城山三郎氏が対談で明かしています。
本田宗一郎さんへの質問
『致知』創刊45周年を記念して出版された『一生学べる仕事力大全』。
いよいよ全国書店でも発売開始となりました。
お近くの書店で見かけられましたら、ぜひ実物を手に取って、中身をご覧いただけますと幸いです。
本書は、月刊『致知』の45年に及ぶ歴史の中から、後世に残したい珠玉の記事を選び出し、約800ページに閉じ込めた永久保存版。
『致知』読者でしか読めなかった記事に多く触れられるほか、30~40年前の秘蔵記事が収録されているのも、本書の魅力のひとつです。
本日は、伝記文学の世界で、多くの創業者たちと格闘してきた作家の小島直記氏と城山三郎氏による対談記事の一部をご紹介いたします。
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[小島]
実業界をウォッチングしていて、なんといっても魅力を感じるのは創業者ですね。
バイタリティがあってエネルギッシュで、サラリーマン経営者と比べると個性が歴然としている。男の魅力がある。
こちらの書きたい意欲をそそらずにはいないものがありますね。
[城山]
そうですね。人並みでない活力がある。ある意味では、アクの強さですね。
それと創業者には合理的判断を飛び越える部分があるでしょう。
創業者は枠をはみだし、枠を壊して創造していく人です。
その際に発揮される、長所も短所も含めた人間味。そこになんともいえない魅力があって、こちらの創造欲をそそらずにはいない。
[小島]
創業者というのは、トータルすると、やはり立派ですよ。
[城山]
本田宗一郎さんに、あなたがやってきたことは究極のところ、何なのか、とうかがったことがあるんです。するとお答えは、絶えず洪水を起こしてきたことだ、ということでした。
[小島]
洪水ね。
[城山]
ある時期、資本金の何倍もの投資をして、欧米の一級の機械を、設備した。
欧米に追いつき追い越すのが、日本の課題だったころです。
しかし、その機械設備を仕様書どおりに使っていては、追いつくことはできても、追い抜くことはできない。
で、仕様書以上の使い方をする。
すると、当然壊れるわけです。
そこで壊れないように改善する。
こうして機械がもつ十の機能を十五にして使うことを可能にした。技術力が飛躍的に向上した。
資本金の何倍も投資することも洪水なら、そうして設備した機械に仕様書以上の機能をもたせる使い方をするのも洪水です。合理的に判断したら、こういうことは出てこない。
[小島]
その合理的判断を飛び越えるもの、それが、つまりは創業者魂でしょう。
ま、ひと口に創業者魂といってしまえば簡単だが、そのなかには賭けの要素もあれば、使命感もある。
[城山]
洪水には肥沃な土壌をもたらすというプラス面もあるわけだが、半面には洪水の被害をもたらすというマイナス面も大きいので、マイナス面だけに捉われやすい。
そういう人は事業を起こしても、あまり伸びませんね。
そうではなく、マイナス面も十分に承知している。
そのマイナス面の痛みを引きずりながら、それでも洪水を起こすことに賭けていく。
そういう視野の広さ、懐の深さが創業者といわれる人にはあって、それが人間的な魅力になっていますね。本田宗一郎さんにはそれがある。
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