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ウクライナ戦争での勝利が見えたプーチン。それでも露の「戦略的敗北」が確実なワケ

昨年6月に「反転攻勢」に打って出るも効果が上げられず、劣勢が伝えられるウクライナ。戦況はロシア有利となり、プーチン大統領の「勝利」が見えてきたとの声も聞かれる状況となっています。識者はこれをどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ロシアがこの戦争に勝ったとしてもそれは「戦術的勝利」にすぎないと明言。その上で、プーチン氏が「戦略的敗北」となるのは必至、もしくはすでに戦略的敗北を喫していると判断する理由を解説しています。

ウクライナ戦争の【戦術的勝利】【戦略的敗北】

全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。今回は件名に【重要マーク】をつけました。というのも、今回の話を熟読することで、皆さんの視点がガラリと変わるかもしれないからです。
まず、読者の鳥人さまからのメールをご紹介します。

いつもお世話になっております。鳥人です。

 

昨日ウクライナで仕事をしていた友人から「ウクライナはもうダメだ。ロシアの圧勝。ウクライナはこれまで健常者だけの徴兵だったが、今や障碍者も含めて徴兵し戦場に送り込んでいる。どう考えても持たない」という話を聞きました。北野さんの収集されている情報ではどんな感じなのでしょうか?

 

ウクライナは致命的な戦略的失敗をしてしまったとのことですが、「ロシアの負けは決まっている(戦術的成功、戦略的失敗)」と仰っていた北野さんのコメントを希望にしていたのですが、今後の展開はどうなると予想されていますか?

(以下省略 つづきは、「おたよりコーナー」で)

鳥人さまありがとうございます!このメールは、非常に重要な内容を含んでいます。

まず、ウクライナの戦況をざっくりお話ししましょう。2023年1月、プーチンは、ゲラシモフ参謀総長をウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命しました。ゲラシモフは、ロシアの「ハイブリッド戦争理論」を考案した世界的に有名な戦略家です。それで世界の軍事関係者は「プーチンがいよいよ最終兵器を出してきた!」と思ったのです。

プーチンはゲラシモフに「3月中にルガンスク、ドネツク州を完全制圧しろ!」と命令しました。ところが、ゲラシモフはそのミッションを完遂できませんでした。

4月頃になると、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジンとロシア軍の対立が激しくなってきました。5月、プリゴジンは、「弾薬が70%不足している!ショイグ!(国防相)ゲラシモフ!(参謀総長)弾薬はどこだ~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!」と絶叫していました。覚えておられる方も多いでしょう。そして6月23日、彼はいわゆる「プリゴジンの乱」を起こしたのです。

ゼレンスキーは6月、「反転攻勢を開始する!」と宣言しました。上記のように、ロシア軍はボロボロに見えた。それで、「ウクライナ軍いけるのではなか??」との期待が高まりました。しかし結果として、2023年の反転攻勢は失敗に終わったのです。理由について、ここでは解説しません。ウクライナ軍は、「致命的戦略ミス」をしました。

そして、10月から「イスラエル―ハマス戦争」がはじまり、アメリカはイスラエルも支援しなければならない。欧米のウクライナ支援の情熱は2022年ほどではなくなっています。

結果、2024年は「停戦の話」がたくさんでてくるようになるでしょう。欧米は、ゼレンスキーに、「クリミア、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、へルソンを『ロシア領と認めろ』とは言わない。だが、現状維持で停戦してくれ」と迫るようになるでしょう。

そして、ウクライナにとって最悪なのはトランプさんが大統領に返り咲くことです。トランプさんは、「大統領になったら真っ先にウクライナ支援をやめる」と公言しています。そして、彼なら実際に支援をやめる可能性が高いでしょう。

というわけで、ウクライナの未来は厳しいものがあります。ここまでがウクライナ戦争の現状と展望です。しかし、ここからが本題です。

私は、何を言っていたのか?

鳥人さんのメールに戻ります。

「ロシアの負けは決まっている(戦術的成功、戦略的失敗)」と仰っていた北野さんのコメントを希望にしていたのですが、今後の展開はどうなると予想されていますか?

そうです。私は、2022年2月24日に戦争がはじまる前から、「ロシアがウクライナに侵攻すれば、戦略的敗北は不可避」と書いてきました。

しかし、それは「ウクライナ軍が勝つ」という意味ではありません。

たとえば、『現代ビジネス』2022年2月16日(@つまり侵攻がはじまる8日前)の記事。タイトルは、『全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない』です。

後半「キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない」とはどういう意味でしょうか?普通に考えたら、「キエフを制圧したら勝利ではないのか?」と考えませんか?そこで、次のフレーズ、【 戦略的敗北 】が重要になってきます。

戦術的勝利が戦略的敗北につながるとは?

皆さん、仲の悪いAさんとBさんをイメージしてください。Aさんはある日、Bさんを突然襲って、ボコボコにしました。Bさんは血まみれで道路に倒れていいます。Aさんは、「俺はBに勝った!」といいました。Aさんは、嫌いなBさんをボコすことで、【 戦術的勝利 】をおさめたのです。しかし、この【 戦術的勝利 】がAさんの苦しみの原因になります。

まずAさんは、傷害罪で逮捕されました。AさんがBさんをボコしたことは、ニュースに出てしまいました。そして、取引先から、「あなたの会社とはもう取引できない」と関係を切られてしまいました。「犯罪者の会社からはもう買わない!」とお客さんの数は激減しました。

Aさんは、確かにBさんをボコして【 戦術的勝利 】をしました。しかしその結果、前科者になり、取引先と顧客を失い、貧乏になり、社会的に孤立することになったのです。そう、Aさんは、嫌いなBさんをボコしたことで【 戦略的敗北 】を喫したのです。

ここまで、ご理解いただけたでしょうか?

プーチンとロシアの【 戦略的敗北 】

この話がわかれば、私の言いたいこともご理解いただけるでしょう。

現状が続いていけば、ロシアは、クリミアとルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、へルソンを支配したまま、停戦にもちこめるかもしれません。そして、ロシアは2022年9月に、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、へルソンを、一方的に併合しています。だからプーチンは、「ウクライナ特別軍事作戦で、ロシアの領土が増えた!だからロシアの勝利だ!」と宣言することはできます。しかし、それはしょせん【 戦術的勝利にすぎない 】ということです。

ウクライナ侵攻によって、ロシアとプーチンに何が起こったか、少し振り返ってみましょう。

国際的に孤立した

2022年3月2日、国連総会はロシア非難決議案を採択しました。これを支持した国(つまり反ロシア国)は、141か国。これに反対した国(つまり親ロシア国)は、わずか4か国でした。ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアです。ロシアの位置づけは、これら「ならず者国家の親分」です。

プーチンは、「戦争犯罪容疑者」になった。国際刑事裁判所(ICC)は2023年3月、プーチンに「逮捕状」を出しました。ウクライナの子供たちをロシアに誘拐した容疑です。そうプーチンは、ICCの「戦争犯罪容疑者」になったのです。

これでプーチンは国際刑事裁判所の加盟国124か国に行けなくなりました。行けば逮捕されるからです。ちなみにプーチンは、2度と日本にこれません。日本はICCの加盟国なので、来日したプーチンを逮捕する義務があるからです。

プーチンの近視眼的に過ぎる「戦術脳」

NATOが拡大した

「ウクライナ侵攻」の理由の一つは、「NATO拡大を阻止すること」でした。ところが、プーチンはNATO拡大を阻止するどころか、NATOを拡大させてしまいました。ウクライナ侵攻に恐怖した中立国のフィンランド、スウェーデンがNATO加盟を決めてしまったからです。

フィンランドは2023年4月、NATO加盟国になりました。スウェーデンについては、トルコやハンガリーの反対でてこずっていますが、近い将来加盟するでしょう。

ロシアは、「旧ソ連の盟主」の地位を失った

プーチンは、旧ソ連圏を「ロシアの勢力圏」と考えていました。ところが、ウクライナ侵攻でロシアは、「旧ソ連の盟主」の地位を完全に喪失しました。旧ソ連各国の動きを見ると、

現状「ロシア圏」にとどまっているのは、ベラルーシだけでしょう。

ロシアは、中国の属国になった

ウクライナ侵攻の結果、最大顧客だった欧州がロシア産原油、天然ガス、石炭を買わなくなりました。またロシアは、SWIFTから追放され、ドル、ユーロでの貿易が困難になりました。

結果、ロシアは、原油、天然ガスを中国に、大量に激安で【 人民元 】で輸出するようになりました。そう、ロシアは、人民元圏に組み込まれ、中国の属国と化したのです。

どうですか皆さん?ロシアは、完全に戦略的に敗北しています。そしてこうなることは、プーチンがウクライナ侵攻を宣言する前からわかっていたことなのです。

戦術脳と戦略脳

というわけで、ロシアが現状維持で停戦を実現したとしても、ロシアの【 戦略的敗北 】は決定済みなのです。

ちなみに最近、「中国が勝つのではないですか?」という質問が増えています。長くなるので、これについては別の機会に。

しかし、皆さん思い出してください。1940年、ヒトラーは1カ月で大国フランスを降伏させました。それを見た日本人の多くは、「ナチスドイツ勝つんじゃね?」と思った。それで、日独伊三国軍事同盟締結という大失敗を犯したのです。

今、「中国が勝つんじゃね?」と主張している人たちも、当時「ヒトラー勝つんじゃね?」と主張していた人と同じと言えるでしょう。

日本も、「満州事変」や「真珠湾攻撃」など【 戦術的大勝利 】が【 戦略的敗北 】につながる例がありました。

「戦術脳」は、短期的、近視眼的です。「戦略脳」は、長期的、大局的です。

30年代、40年代の日本の指導者は、「戦術脳」だったので、敗北したのです。今の指導者は???

「戦術脳」」と「戦略脳」。これは非常に重要なテーマなので、本を出すことにしました。皆さんも、成功と繁栄をもたらす「戦略脳」を手に入れてください。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル2024年1月24日号より一部抜粋)

image by: ID1974 / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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