MAG2 NEWS MENU

5月に一斉攻撃か。攻撃準備を終えたロシアに滅ぼされるウクライナとプーチンに破壊される世界の安定

国際社会からの非難をものともせずに、ウクライナに対する侵略行為の手を緩めないプーチン大統領。ロシア軍は大規模な一斉攻撃の準備をすでに終えたとも伝えられ、ウクライナは実質的に消滅するとの見方もあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ロシアがウクライナをこれほどまでに攻め立てる理由と、「ロシアの勝利」により国際社会が失うものについて解説。さらにプーチン氏が次に狙う国の名を挙げています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

恐怖が支配する国際情勢‐戦い続ける理由と再興の鍵

「相手は自分たちを破壊し尽くそうとしている」

このような極限の恐怖にとりつかれて、戦争が行われています。

戦争の現場・最前線にいないものにとっては、それは一種の被害妄想だと感じるかもしれませんが、これまで紛争調停に携わってきた際、ほぼすべてのケースにおいて交戦当事者たちが一度は口にする“恐怖”です。

「相手が自分たちを殺害、あるいは追放し、民族としての存在を終わらせたいと考えているに違いない」という恐れはそこに存在し、「今、戦っている相手は敵ではなく、常に自分の存在を危うくする脅威だ」という認識は、人たちを自己保存のための戦いに送り出しています。

30年近く国際社会から忘れ去られているコンゴの終わりなき内戦の当事者たちも、エチオピアで繰り広げられるティグレイ族への苛烈で執拗な攻撃も、ミャンマーで繰り広げられている戦いでも同じような恐怖が人々を支配し、武器を取らせています。

それはロシアとウクライナの戦いでも、イスラエルとハマス、パレスチナとの戦いでも同様です。

以前にも触れましたが、ロシア人の思考の根底には「我々が歩み寄っても誰もロシアのことを知ろうとせず、誰もロシアの悩みを分かってくれない。だから自らバウンダリーをどんどん広げて、自分自身で自分を守るほかない」というメンタリティーがあるそうです。

16の主権国家と国境を接し、180以上の民族を抱える多民族国家であるロシアは、常に陸続きでの他国・他民族からのプレッシャーに耐え続ける必要があると言われており、生き残るためには拡大していくほかないという独特の国家安全保障観があると言われています。

以前、テレビでプーチン大統領に直接質問できる番組があり、そこで観客の少年がプーチン大統領に「ロシアはどこからどこまでですか?」と尋ねた際、「ロシアの領土には果てがなく、どこまでも続くのだよ」とプーチン大統領が答えていたのが非常に印象的でしたが、これはプーチン大統領が抱くロシア帝国の再興・新ソビエト連邦の構築という野望と共に、ロシアがずっと抱き続ける恐怖を抑え込むために拡大あるのみというジレンマも透けているように思われます。

この独特の恐怖心が、疑心や裏切りという認識と重なるとその相手を徹底的にいじめ抜き、恐怖心を癒してくれる仲間(または従順な存在)であればとことん厚遇するという統治方法と外交戦略の基礎になっていると考えます。

もちろん領土欲や覇権の拡大という欲は存在するでしょうが、プーチン大統領とその取り巻きにとっては、ウクライナは欧米の力を借りてロシアの国家安全保障、そして存在を脅かすけしからん存在と映っているようです。特にロシア、ウクライナ、ベラルーシは、旧ソ連の中でも近しい存在と考えられていたため、半ば身内がロシアを裏切って“敵”と手を結ぶというように認識したのだと、ユーラシア問題を扱う専門家グループは分析しています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

恐れからの行動はウクライナにとっても同じです。旧ソ連の崩壊までウクライナは国ではなく、あくまでもソ連の一地域またはロシアの衛星国的な存在だと考えられてきましたが、時の混乱に紛れて、そしてロシア政府曰く、欧米諸国の助けを借りて独立を宣言し主権国家となりました。

独立時は、同じくロシア曰く、ロシアとベラルーシと非常に親密な関係を保ち、CISにおいても核となる存在でしたが、次第にオレンジ革命などを通じて親欧米路線が台頭し、国として成り立ち、かつ資本主義を取り込みたいという政策から欧米諸国に接近する戦略に出て、成長することにより、ロシアとイーブンの立ち位置を獲得して、対等の物言いができるようになりたいという望みが高まったようです。

ただしそれはプーチン大統領のロシアにとっては受け入れられない条件と映り、次第にロシアお得意の内政干渉と工作によってウクライナ政府を骨抜きにし、また汚職を蔓延らせることで欧米との距離を拡げる作戦が取られた結果、結局、ウクライナはロシアの衛星国に戻ってしまうという状況が続いていました。

「このままではウクライナという国は残っても、真の独立は果たせず、その内、プーチン大統領の気まぐれでウクライナが消されるかもしれない」という恐れを、2008年のジョージア(元グルジア)に対するロシアの軍事侵攻を見て抱いたと思われます。

その後、実際にロシアは2014年にはクリミア半島を併合し、そして2022年にはウクライナ東部への侵攻を行い、今に至ります。実際にもう10年以上にわたって、ウクライナはロシアの恐怖と戦っていることとなります。

2022年2月24日以降、ゼレンスキー大統領はずっと「このままではウクライナは地球上から消える。これは国家そして国民の生存のための決死の戦いだ。ロシアのこの蛮行を許せないと、同じく感じてくれるならぜひ助けてほしい。一緒にロシアをウクライナの地から追い出すのだ。しかし、もしウクライナが総崩れになり、ロシアの前に屈し、そしてロシアに全土が蹂躙されることとなれば、それはウクライナの敗北に留まらず、欧米型の民主主義の敗北を意味し、そして究極にはプーチン大統領の野望が欧州に迫ることを意味する」と国際社会に訴えかけ、ロシアに対する、そしてロシアによる恐怖を強調しています。

しかし、このところ欧米からの支援は滞り、ウクライナの弾薬数は多く見積もってもロシアの6分の1程度しかなく、前線の状況は非常に厳しく、ロシアに押し込まれている状況が鮮明になってきています。

そして十分な防空システムがなく、十分な武器弾薬がないことに付け込んで、ロシアは徹底的にウクライナ国内のインフラ設備、特に電力施設の破壊に勤しんでおり、その結果、ウクライナ国内の50%超の発電能力が削がれ、各地で停電が頻発し、国民の心理の破壊を行っています。

時期は前後するでしょうが、複数の分析を見てみると、5月ごろを目途にロシア軍は再度一斉攻勢をかける計画のようです。

18歳から30歳までの国民を対象に15万人の定期徴兵を行って国内の任務に充て、現在、国内の任務を担う兵士をウクライナ戦線に投入し、英国の国防省からの情報では、すでに10万人を超えたとされる契約軍人も投入してくる計画のようです。

加えて1,000両以上の戦車の投入や欧米による対ウクライナ供与量の3倍以上の砲弾生産能力を確保して、補給線・兵站もしっかりと築いてstand readyの状態に入っていると言われています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

ただ欧米諸国側には迅速に即効性のある武器を供与することは困難なようで、5月のロシアによる大攻勢でウクライナが総崩れになれば、ロシアにとって非常に有利な状況が出来上がることになり、戦争で決着するか、それともロシアの条件に従った“停戦”を受け入れることで、実質的にウクライナが消える可能性が出てきてしまいます。

それを見て、恐怖を一気に高めているのがスタン系の国々です。ウクライナの反転攻勢が始まった頃は対ロで強気な発言や態度が目立ったスタン系ですが、このところ“プーチンを怒らせたら、後で必ず報復される”という恐怖が高まっているようです。

ウクライナ戦争の“おかげで”軍事介入はしばらくないと思われますが、ロシアは政治的な介入・情報工作を行ってスタン系の国内政情を荒らしてくるのではないかと戦々恐々としています。

特にロシアと7,600キロメートルにわたって国境線を接し、人口の2割強がロシア系である地域最大の資源国カザフスタンは、一時期、ロシアと距離を置くスタンスをとっていましたが、ロシアが戦況優位になると再接近して、プーチン大統領の逆鱗に触れて基盤を失わないように躍起になっています。

昨年11月にはプーチン大統領がカザフスタンを訪問しましたが、その際、プーチン大統領が「カザフスタンとロシアは最も親密な同盟国だ」と発言したのは、実は「ロシアに対する配慮を決して忘れるなよ」というカザフスタンのトカレフ大統領への警告だったのではないかと考えられます。

ロシア、そしてプーチン大統領が周辺、特に旧ソ連の国々に対して発する恐怖は、ウクライナが敗北してしまうと、一気にユーラシア大陸全体に向けられることになりかねません。

まずはロシアと緊張関係にあるモルドバ(親欧米政権でEU加盟を目指しているが、国内に親ロシアの沿ドニエストル共和国を抱える)と南オセチアとアブハジア共和国を抱え、国交断絶中のジョージアをターゲットにし、両国で支配を取り戻しにかかると思われます。その後、スタン系を含む中央アジアと南コーカサスの掌握を狙い、旧ソ連圏を復活させることを目指すと思われます。

もしこれがうまく行き、新ソ連邦(プーチン帝国)が再興できれば、次は散々ロシアをコケにして、NATOの一員としてロシアに楯突く裏切り者のバルト三国をターゲットにしてとことん責め立てることになる可能性があります。

もちろん、ここでNATO憲章第5条が本当に発動されるか否かにとって結果に大きな差が出ますが、ウクライナでの戦いの行方は、ウクライナの将来はもちろん、ユーラシア大陸の未来図も大きく変え、世界の安定は著しく損なわれる恐れが高まると予想されます。

プーチン大統領とロシアが周辺に及ぼす恐怖の力を抑え込めなければ、ロシアの恐怖が覇権の拡大と、欧米の影響力の縮小に繋がりかねません。

イスラエルとハマスの終わりなき戦いと殺戮の応酬も、元をたどれば相互に対する非常に激しい恐怖心に端を発すると言えるかもしれません――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年4月5日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Aynur Mammadov / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け