「ポピュリズムが分断を深める」は本当か
しかし、政治参加の劇的な増加は、負の側面も生みだした。SNSで発信される政治的発言は、見る人の気を引くために、感情的で、極端なものが多くなる。それが人々を扇動し「世論」を形成するようになると、逆に、人々の注目を集めるために、あえて過激な言動を繰り返す人物も現れることになった。
その代表例が、「NHKから国民を守る党(NHK党)」だ。党首だった立花孝志氏は、ユーチューブなどを使った奇抜な政治運動で知られる。「政治家女子48党」など何度も党名を変更したり、政党交付金を受け取るために政党要件を満たす票を得ることを目的に大量の候補者を擁立する、れいわ新選組代表と同名の「山本太郎」を何名も立候補させるなど、常識破りの行動が支持を集めてきた。
そのNHK党から立候補し、当選したのが前述のガーシー氏だ。また、つばさの党代表・黒川敦彦氏は、NHK党の幹事長だった。安倍元首相と統一教会、CIAとの関係を風刺する自作の曲『安倍家は祖父の代からCIA』を披露するなど過激な言動を繰り返した。幹事長辞職後、つばさの党代表として選挙の自由妨害など、より過激な行動をとるようになった。
過激な言動は、それに対する批判が殺到すればするほど、動画へのアクセスが増えるという特徴がある。いわば、『炎上商法』である。知名度を上げること自体が目的となり、世間の関心が高いほど広告収入などが得られる『アテンションエコノミー』の仕組みを悪用しているようにみえる。
SNSなどを通じて新しく政治活動を始めた団体・個人の中には、政治活動を通じて政策を実現し、よりよき社会を実現することが本当の目的ではなく、金儲けとして活動している者も増えているのだ。
多くの識者が今、社会の「分断」という表現を使っている。日本でのつばさの党のような存在の出現は、世界中で起こっている「ポピュリズム現象」の1つであり、社会の「分断」を進めるものだという指摘がある。
だが、筆者は「分断」という表現が好きではない。現在起こっているある種の混乱は、「分断」と単純に斬れるものではない。むしろ、政治から排除されていた層が、政治に参加できるようになったことの現れではないだろうか。
その彼らが、既存の政治に参加できていた層と政治的利益を巡って争うようになったので、対立が深まっているように見えるのだ。だが、そもそも排除されていた人たちが参加できることが悪いことであるはずがない。
筆者は、ポピュリズム現象についての通説にくみしない。ポピュリズムで「分断」が広がったわけではないと考えるからだ。元々、「エリート・都市中間層による、労働者の政治からの排除」という社会の「分断」状態があったのではないだろうか。
ポピュリズムが、「分断」を深めたのではないということだ。むしろ、ポピュリズムはこれまで排除された多くの人に、政治参加できる道を開いた側面がある。むしろ、社会が「分断」から脱却し、排除される人がいない「融合」に向かっていく過渡期的現象なのではないだろうか。いずれ「ポスト・ポピュリズム」の時代が始まる。真の意味ですべての人が政治参加できて、すべての人が政治的利益を分け合える時代としなければならないのだ。
image by: チャンネルつばさ