選挙妨害で逮捕「つばさの党」の街宣は何が問題なのか?立命館大学教授が斬る「表現の自由」と「選挙制度ハック」そして「ミニ政党の乱立」

2024.06.04
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衆院東京15区補選で他陣営の演説の妨害や選挙カーでのカーチェイスなどにわかに信じ難い街宣活動を繰り返し、逮捕者を出すに至った「つばさの党」。本人らは「表現の自由」を盾に徹底抗戦の構えですが、識者はこれをどう見るのでしょうか。政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは今回、「表現の自由」の何たるかを解説するとともにつばさの党の一連の行為の是非について考察。さらに巷間語られる「ポピュリズムが分断を深める」との言説に異を唱えています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:選挙妨害で逮捕「つばさの党」の街宣は何が問題なのか?立命館大学教授が斬る「選挙制度ハック」の衝撃

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

民主主義社会では許されない行為。「つばさの党」の街宣が“表現の自由”ではなく選挙妨害である論理的理由

衆院東京15区補欠選挙を巡る政治団体「つばさの党」による選挙妨害事件で、公選法違反(自由妨害)容疑で党代表・黒川敦彦氏、出馬して落選した幹事長・根本良輔氏ら3人が逮捕された。

3人は、補選に出馬していた他の候補者の演説場所に行って拡声器で大音量を流して演説を妨害する行為を5回以上、「カーチェイス」と称して他候補の選挙カーを追尾し、拡声器で罵声を浴びせる行為を10回以上行った。警視庁捜査2課特別捜査本部は、これらが自由妨害に当たるとして逮捕に踏み切った。一方、つばさの党側は、警察の不当な政治介入だと主張し、「表現の自由」を守るために徹底的に闘うと訴えている。

「表現の自由」について私見を述べておきたい。「表現の自由」とは、相手の表現の自由を許すことが重要だと考える。相手の自分に対する批判を許し、多様な意見が存在することを容認することだ。

「表現の自由」というと、自分がなにを言ってもいいと考えている人が多いようだ。それは当たり前のことだ。だが、自分の表現の自由を守ることは、さほど難しいことではない。実際、SNS等にはさまざまな自由な言論があふれている。皆、言いたいことを言っている。匿名であれば、尚の事である。

一方、「相手の表現の自由を守る」というのは実に難しいことだ。私も、批判を受けた時に、冷静さを保ちながらそれを受け入れられるかとなると、難しい時がある。理性で感情を抑えようとして、なんとか相手の表現の自由を守ろうとする。それでも、難しい時がある。常に感情を抑えて、理性で自制し続けないと、表現の自由を自分に都合よく解釈してしまうのだ。

表現の自由をより強固に守るべき立場の組織や個人が、それを破ってしまっているということがある。「リベラル派」と呼ばれる組織・個人だ。表現の自由を「権力に対する表現の自由」と解釈しているように思われる。主義主張、思想信条の違う「政敵」に対しては、何を言っても構わないということだ。

ところが、彼らは自らに対する批判には厳しい。民主党政権の崩壊や、その後分裂した野党の共闘が成功しないことでわかるだろう。憲法問題、安全保障政策、消費税など基本政策について、異論を許さない。議論を俎上に上げることさえ許さない空気がある。例えば、共産党である。常に、自民党に対してあらゆる角度から激しい批判を繰り返している。一方、党内においては、党執行部に対する批判は厳禁だ。実際、ベテラン党員が党運営を批判し、党首公選制の導入を主張した際、党員は除名処分となり、その主張は一切党内で議論されなかった。

要するに、表現の自由で許されないことは、相手の表現の自由を奪うことだ。相手に圧力をかけて、自由に表現することができなくするのは、表現の自由ではない。その最悪な事例が、誹謗中傷で、相手を自死に追い込んでしまうこと。相手は未来永劫、表現することができなくなるのだから、絶対に許されないことである。

ゆえに、つばさの党が行った選挙妨害は、表現の自由ではない。自由民主主義社会では容認されてはならない行為である。残念ながら、逮捕されても反省の色がみえないとのことだが、自由民主主義社会における「自由」の価値を、よく勉強してもらいたいものだ。

次に、つばさの党出現という現象の意味を考えたい。さまざまな新しい政党が結党されている。「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」「参政党」など国会に議席を持ち国政政党となったものもある。その他にも、「日本保守党」「ごぼうの党」「新党くにもり」などなど、実にさまざまな政党が生まれては消えることを繰り返している。

これらの新しい政党は、いずれもX(旧ツイッター)、YouTube、TikTokなどSNSを駆使して社会に広くネットワークを形成することで勢力を拡大したのが特徴だ。いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる人が核となる政党もある。例えば、例えば、暴露系ユーチューバーとして登録者数100万人を誇った「ガーシー」こと東谷義和氏はNHK党の比例代表候補として参院選に立候補した。当時、ガーシー氏はドバイ在住だった。日本で選挙戦を行うことなく、ネットのみを使った異例の選挙戦を展開し、約29万票を獲得して当選を果たした。

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