中国に対して一歩も引かぬ姿勢を見せる頼清徳氏が新総統に就任した台湾に対し、これまで以上の嫌がらせを繰り返す習近平政権。6月9日には中国海軍の元士官が台北市近郊の河口にモーターボートで侵入するという事件が起き、ここでも中国当局の関与が疑われています。今回、台湾出身の評論家・黄文雄さんが主宰するメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、この侵入事件の背景と中国サイドの反応をさまざまな報道を引きつつ詳しく紹介。さらに台湾新政権が警戒すべき点を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:【台湾】頼清徳政権に反発する中国の嫌がらせ
また中国の嫌がらせか。元軍人がモーターボートで台湾に侵入
● 中国「重大な疑念抱く必要ない」、元軍人の台湾河口侵入巡り
頼清徳氏が台湾の総統に就任してから、中国の嫌がらせは止まりません。常套手段の軍事威嚇では物足りないのか、今度はなんと、モーターボートに乗った元軍人を台湾に送り込んできたようです。まずは事件の詳細を以下、報道を一部引用して紹介しましょう。
台湾の海洋委員会海巡署(日本の海上保安庁に相当)は10日、北部・新北市淡水の淡水河の河口に小型船で進入した中国籍の男を逮捕したと発表した。
「出入国・移民法」などに違反した疑いで詳しい経路や動機を調べている。
海巡署によると、9日午前、淡水沖6カイリ(約11キロ)の海上で不審な船を発見。監視していたところ、船は河口に入り、他の船と接触事故を起こした。駆け付けた海巡署員が乗船していた男1人をその場で逮捕した。
複数の台湾メディアは、男は60歳前後で、200キロ以上離れた福建省の漁港から出航したと伝えた。当局の調べに対し「自由を求めて来た」と話しているという。
この男の小型船は、海から淡水河に入り、台北の総督府を含めた官庁街まで約22キロと近くまで接近したとのことです。ではなぜそこまで来ることができてしまったのか。以下、報道を引用します。
海巡署によると9日午前、沿岸約11キロで小型ボートを発見したが、台湾の漁船と誤解するなどして拿捕(だほ)しなかった。その後、ボートが埠頭(ふとう)に停泊した際に男を逮捕した。海巡署は対応に問題があったとして職員10人に戒告などの処分を行った。
● 中国軍退役少佐が台北近郊河口にボートで侵入 「自由求め投降」供述、グレーゾーン作戦か
と、まあ、監視が甘かったんですね。そして、この小型船に乗っていた男の素性を調べたところ、「海巡署は11日、男が中国海軍少佐として『艇長』を務めた経歴があると明らかにした」、ということでした。
● 中国軍退役少佐が台北近郊河口にボートで侵入 「自由求め投降」供述、グレーゾーン作戦か
男は、台湾側の調べに対して、「インターネット上で中国共産党に都合の悪い言論を発表した後に出国を制限されたため、8日に福建省寧徳市の漁港から密出港し、台湾に『投降した』と供述」したとのことですが、元軍人が偶然台湾の官庁街まで船でやってくるでしょうか。
台湾当局は、この男は、台湾側の対応能力を探る「グレーゾーン作戦」の可能性もあるとみて背景を慎重に調べている、ということです。
この記事の著者・黄文雄さんのメルマガ
「純粋に個人の行動」。あくまでシラを切り通す中国政府
これについて中国側は、次のようにしらばっくれています。以下、報道を一部引用します。
台北市に通じる淡水河にモーターボートで侵入した中国人の男が台湾当局に逮捕された事件で、中国政府は12日、侵入は個人の行動で、台湾は重大な疑念を抱くべきではないと表明した。
男は台湾海峡をモーターボートで渡り、淡水河の河口に侵入し、台湾海巡署(海上保安庁に相当)に9日に逮捕された。当局は、男が元中国海軍大佐で、台湾の防衛能力を探っていた可能性があると指摘していた。
中国で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は定例記者会見で、男の行動について「純粋に個人の行動」だと説明。「(台湾与党の)民主進歩党は、兵士があちこちに隠れて、ひそかに政治工作を行っていると見なす必要はない」と述べた。
陳氏は男が帰国後に処罰されるとも語った。
● 中国「重大な疑念抱く必要ない」、元軍人の台湾河口侵入巡り
もちろん台湾当局は、この男は政治亡命のためにやってきたとは考えていません。これが「グレーゾーン作戦」なのかは不明ですが、中国による台湾への嫌がらせであると考えていいでしょう。
そして、小型船事件の少し前ですが、台湾の顧立雄(こりつゆう)国防部長(国防相)は以下のような発言をしています。
顧立雄(こりつゆう)国防部長(国防相)は6日、基線から12カイリ(約22キロ)の領空や領海に中国軍が許可なく進入したら、自衛権を行使する命令を下せるとの見解を示した。
顧氏はこの日、先月20日に就任して以降初めて、立法院(国会)外交・国防委員会に出席した。
最大野党・国民党の黄仁立法委員(国会議員)と王鴻薇立法委員から国軍の「第1撃」と自衛権の定義について問われたのに対し、中国軍が台湾に対して発動する行為のみが「第1撃」であり、国軍が行使するのは自衛権だと言及。航行中の航空機や艦艇、施設、台湾本島、離島を中国軍が攻撃したり、いかなる飛行物体が許可なく領空や領海に進入したりすれば、自衛権を行使する命令を下せるとし、比例原則にのっとって自衛のために反撃をすると述べた。
● 中国軍が領空・領海に進入すれば「自衛権を行使できる」=国防相/台湾
もしかしたら、この発言が中国を刺激したから小型船がやって来たのかもしれませんし、それは分かりませんが、中国は少しでも台湾側が気に食わない発言をしたら、それを理由にアクションを起こす準備は万端で、そのチャンスを虎視眈々と狙っているように思えます。
頼清徳政権は、この点を警戒すべきでしょう。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2024年6月12日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
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