6月27日、アメリカ大統領選挙の第1回テレビ討論が行われ、多くのメディアが、トランプ氏の攻勢、バイデン氏の苦戦を伝えました。トランプ氏にシンパシーを感じることはないとしながらも、バイデン政権の対外政策への批判は思い当たると具体例を上げ解説するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、両候補の、相手が当選すれば第3次世界大戦の危険が増すとの発言をクローズアップ。極右政党の台頭が目立つ欧州各国の情勢と合わせて、注視しています。
米大統領選挙でバイデンとトランプが互いに第3次世界大戦に言及する世界の問題
11月に予定される米大統領選挙に向けた1回目のテレビ討論が6月27日(現地時間)に行われた。90分の論戦を経て、高い評価を得たのはドナルド・トランプだったと米メディアは一斉に報じた。
NHKは、その結果を〈有力紙のワシントン・ポストは「バイデン氏苦戦、トランプ氏は質問をはぐらかす」、同じく有力紙のニューヨーク・タイムズは「トランプ氏の威勢にバイデン氏苦戦」、CBSテレビは「バイデン氏、序盤から声がかすれて苦戦」などいずれも見出しに「Struggle(ストラグル)」、「苦戦する、もがく」という言葉を使ってバイデン氏が押されていたと伝えています〉と伝えている。
興味深かったのは、バイデン、トランプの両者がともに、もし第3次世界大戦を避けたかったら自分に投票すべきとアピールしたことだ。決して主要な論点ではなかったが、それだけに見えてくるものがあった。
最初に話題を持ち出したのはトランプの方だ。「バイデン氏は我々を第3次世界大戦まで近づけている」と言及。続けて、「プーチン氏や習近平氏、金正恩氏はバイデン氏を尊敬しても恐れてもいない」と攻撃したのだ。
これに対しバイデンは「第3次世界大戦を始めたいというのなら、トランプ氏を就任させて、北大西洋条約機構(NATO)から脱退したらそうなるだろう。もし戦争がしたいなら、プーチンの侵略を許せばいい」と応じた。
バイデンの主張は、要するにロシアのウラジミール・プーチン大統領のウクライナ侵攻を成功裏に終わらせてしまえば、独裁者の野心に歯止めがかからなくなるというもので、目新しいものではない。一方のトランプは、同盟関係の強化によってロシア包囲網を築いて弱らせるつもりが、かえって反米同盟を強化、促進してしまったのではないかと批判する。
実際、バイデンの失策が世界を平和から遠ざけてしまったという指摘には思い当たる点もある。先週もこのメルマガで触れたが、プーチンの北朝鮮訪問は、その一つの典型的な動きといえよう。しかもアメリカが戦略的に重視するベトナムでも歓待された。
トランプの主張にシンパシーを感じることはないが、バイデンの対外政策に数々の綻びが目立っていることは否定できない。そもそも同盟国が団結して立ち向かう、といっても、実際の利害は複雑だ。自国の利害を度外視し、アメリカの利益に歩調を合わせてくれるのは日本ぐらいのものだ。
欧州でさえ、足元のロシア・ウクライナ戦争への対応をめぐり各国の思惑の違いを露呈させている。とくに民主選挙の結果が対外政策を大きく左右する国の宿命として、政策の持続可能性には大きな疑問符が投げかけられている。
象徴的なのは、欧州議会選挙からその勢いが収まらない極右政党に対する追い風だ。彼らの対外政策は概して移民に厳しく、ウクライナ支援にも消極的。そして反欧州連合(EU)だ。現状、さまざまな選挙で明らかになる極右政党へのウェーブは、純粋に有権者が彼らの政策に共鳴したことによって起きているのではなく、むしろ現政権や長らく政界の主流にあった勢力への批判票だ。
欧州のテレビ局が流す街頭インタビューで目立つのは、「変化が必要」という意見で、ほとんどの人は極右政党を警戒しつつも「一度やらせてみるのもよい」という選択をしていることが分かるのだ。こうした有権者の行動は移民政策への不満などから説明されることが多い。しかし現状はむしろインフレなどに起因する生活苦への不満だ。
同じ現象は米大統領選挙をめぐっても確認される。6月中旬、米公共放送PBSが行った世論調査では、有権者の関心は民主主義の護持がトップで30%、続いてインフレ(29%)、移民(19%)と続いた。民主主義の護持とインフレはほぼ同じだが、同じ時期に行われた米ABCの調査ではなんと85%の有権者がインフレを挙げているのだ。アメリカ経済が、数字から判断されるほど好調ではなく、実は苦しいことが露呈した調査結果だ。
経済の話題では、日本では常に「中国経済崩壊論」がホットだが、西側先進国の現状は、どこも輪をかけて深刻なのだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年6月30日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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