自民党の総裁選に出馬しないことを表明し、退陣することが決まった岸田文雄首相。支持率の低さもどこ吹く風、約3年にわたって日本のトップに居座り続けたこの人物の施政を識者はどう総括するのでしょうか。「岸田文雄の下半身は安倍晋三」「護憲の選択肢を自民党支持者から奪った」と厳しく批判するのは、辛口評論家として知られる佐高信さん。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、広島選出の岸田首相の原爆との向き合いに「ノー」を突きつけた亀井静香氏の直言を紹介。翻って、G7各国からの圧力に屈せず、イスラエルを式典に招待しなかった鈴木史朗長崎市長を称賛しています。
亀井静香による岸田文雄批判
岸田文雄の最大の罪は自民党支持者から護憲の選択肢を奪ったことである。宏池会は軽武装の護憲であるはずなのに改憲という選択肢を国民に提示するなどと言って、その理念をかなぐり捨てた。私が岸田は下半身が安倍晋三の岸田晋三だと呼ぶゆえんである。
ビジネスは悪いことができて悪いことをしない人が成功すると言われるが、悪いことができそうもない岸田が最も悪いことをした。広島出身なのに核大国に一言も言えないのも被爆者をバカにした話である。同じ広島出身の亀井静香に比べても、その鈍感は際立っている。
「岸田文雄とは何者か?」という2023年5月号の『クライテリオン』の座談会で、亀井はこう指摘した。
「あの原爆は人体実験だよ。広島と長崎では種類が違うんだから。そうした所に、バイデンが謝罪の気持ちもなく足を踏み入れるようなことを岸田はさせたらいかんよ。そんなことやったら普通の国ならテロが起きるよ」
「俺は岸田と同じ広島出身だから、特別弁護人として愛ある批判をさせてもらうよ」と言いながら、亀井はズバリ直言する。
岸田家は人柄のいい家で、岸田も悪いことをするような総理じゃない、と前提を置きつつ、亀井は言う。
「だけど、国家のためには悪を為す人間じゃないといかんな。善人が習近平やプーチン、あるいは北朝鮮を相手に日本を守ることはできないわな。場合によっては、ありとあらゆる悪辣な手を使わなければ国を守れないようなひどい相手だから、岸田は心を鬼にしてプーチン、習近平、北朝鮮に対抗しないといけないな」
もちろん、アメリカのポチではないことも示す必要がある。G7でバイデンが来る時、「まことに申しわけないことをした。日本に対してやってはならないことをした。万死に値する」と謝罪しない限り、広島には行かせないと伝えよ、と亀井は主張した。しかし、「いい人」の上に「どうでも」がつく岸田は何も言わなかった。
岸田の代わりに今回、気骨を示したのが長崎市長の鈴木史朗である。8月6日に広島市長の松井一実はイスラエルを招待してパレスチナを招待しなかったが、鈴木は逆にパレスチナを招待し、イスラエルを招待しなかった。ガザの殺りくを批判し、即時停戦を求めているからである。
これに反発してアメリカの駐日大使はイギリスなどと共に鈴木に圧力をかけた。長崎はロシアも招待しなかったのだが、アメリカの大使は「ロシアは侵略国だがイスラエルは自衛権を行使している」と主張した。しかし、自衛の名の下に殺りくしているのは同じなのである。
長崎市長の鈴木の決断に私は拍手を送るが、長崎市長にできたことが、なぜ、岸田にできないのか。広島市長の松井と岸田に最も落胆しているのは広島の被爆者だろう。
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image by: 多摩に暇人, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で