小泉進次郎氏が自民党の新総裁となり、首相の座に就くシナリオがいよいよ現実味を帯びてきた。総裁選の推薦人争奪戦で小泉氏を推す議員はすでに約50名。彼らは、進次郎という“勝ち馬”に乗って次の選挙に当選し、党内での地位を固めることで頭がいっぱい。わが国の長期的ビジョンや政策を考える時間はないようだ。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:推薦人争奪戦ダントツ人気の進次郎。刷新か、それとも長老の傀儡か
いよいよ現実味「小泉進次郎総理総裁」に期待する自民党
自民党の総裁選が近づき、茂木敏充幹事長が出馬のための推薦人集めに躍起になっている現在、党務の実質的な推進者は、森山裕総務会長だといえる。当メルマガ先週号では、多人数が出馬に名乗りを上げる派手な「総裁選ショー」の“プロデューサー”と森山氏を位置づけてみた。
その人が、8月21日夜、東京都内で森喜朗元首相と会食し、総裁選に関して意見交換したとの報道があった。森氏といえば、新総裁に小泉進次郎氏を推しているというのがいまや定説だ。その席で、進次郎氏に関する突っ込んだ話し合いがあったことは容易に想像できる。
党の再生をはかることを任務とする森山氏の立場からすれば、総裁選が盛り上がり、きたるべき衆議院選での勝利に結びつくことがなにより重要だろう。そのためには、裏金問題で汚泥にまみれた党に新風を吹き込む必要がある。できれば、国民に人気のある若手で、かつ党内の対立・分裂にはつながらない新総裁が選出されるのが望ましい。
その観点から、才覚はどうであれ刷新感だけは醸し出せるかもしれない小泉氏に目をつけたのが森元首相だが、おそらく森山総務会長も同じだろう。
最新の世論調査では、新総裁にふさわしい政治家として、自民党支持者の中では小泉氏が石破茂氏をおさえ、人気トップに躍り出ている。総裁選の1回目投票では、世論に近いといわれる党員票の動向がモノを言うのだ。
小泉氏に対し、菅義偉前首相が全面支援を打ち出していることも森山氏にとっては重要な要素だ。菅政権を支えた一人である森山氏はいぜんとして菅氏と近しい関係にある。
むろん、森山氏が小泉進次郎氏の出馬について森氏と話し合ったとすれば、それは党内の空気感を反映したものでもあろう。進次郎氏を選挙の顔にして、自分の当選につなげたいという、選挙に自信が持てない議員たちの切実な思いを受けとめた動きともいえる。
そのように考えると、多人数が早くから出馬意欲をたぎらせる「総裁選ショー」は、進次郎氏が最後にさっそうと花道から登場するための装置にさえ思えてくる。
迷言?世襲?だから何。議員50名が推す「小泉進次郎の利用価値」
戦いにおいて、敵の嫌がることをするのが要諦だとすれば、手間をかけずに刷新感を偽装できる小泉進次郎氏をトップに据えようとするのは、理にかなっている。ボロが出ず、人々の目がくらんでいるうちに素早く総選挙を行って、まんまと勝利を手にするという方策である。
しかし、それは短期の戦術ではあっても、長期を見据えた戦略とは言い難い。
言うまでもなく、小泉氏は世襲議員の典型的存在だ。父、純一郎氏の敷いたレールに乗って、ここまできた。言動にも不安がある。なんとなく発言がカッコよく聞こえても、字にしてあらためて読むと何が言いたいのかわからない。そんな“進次郎節”の主が総理になったら、いずれ問題が起きるだろう。
それを承知の上で、とりあえず勝ち馬に乗ろうとする動きは、推薦人たらんとして我先に集まった議員の数に表れた。なんと、50人近くに及んでいるという。むろん、本人がそう言っているのではなく、支援者が漏らしたのだが、ダントツの数字である。当然のことながら、他の立候補予定者の場合は、そうスムーズにはいかない。
そもそも、自民党国会議員にとって、総裁選への出馬は、総裁になることだけが目的ではない。全国的なメディア露出の機会を得る絶好のチャンスなのだ。それは知名度を高め、将来の選挙で支持を増やすことにつながる。党内での地位を確立し、影響力を拡大するための手段としても有効だ。
党本部は今回、派閥の縛りなき総裁選を演出すべく「自由に立候補し、 闊達な論議を」と呼びかけた。それに応え、12人にも及ぶ国会議員が立候補の準備を進めている。
だが、その全員が出馬の条件である20人以上の推薦人を確保できるかどうかはわからない。
20人を確保できたと思っていたら、他陣営からの引き剥がしにあい、届け出の期限に間に合わないケースも予想される。過去の総裁選において、しばしばみられたことだ。今回も、熾烈な推薦人争奪戦が繰り広げられている。
根回し、裏切り、何でもありの自民党総裁選ウラ事情
自民党参院議員、青山繁晴氏は8月23日、国会内で記者会見し、出馬表明をするとともに引き剥がしの実態を暴露した。
青山氏はかなり前から総裁選出馬を明言していたが、なぜかNHKや民放が挙げる総裁選の立候補予想リストに名前が入っていなかった。
過去、総裁に選出されたことがない参院議員だからなのか、メディアの偏見で除外されたのか、それはわからない。
青山氏は自民党国会議員の議員連盟「日本の尊厳と国益を護る会」の代表である。この議員連盟には100人のメンバーがおり、昨年11月に青山氏が総裁選への意欲を示すと、推薦人になりたいという議員がどんどん増え、一時は40人を超えるほどになった。
ところが、岸田首相が総裁選に出馬しないという意向を表明してからは急に風向きが変わり、一人減り二人減りして、最後に残ったのは和田政宗参院議員ただ一人になった。
青山氏はそれでもあきらめず、推薦人になると言っていた議員のもとを、多い日には一日15人も訪れて翻意を促した。ようやく20人確保のメドが立ち、あらためて出馬表明をしたわけだが、その裏で、推薦人の争奪戦が激しく繰り広げられていた。
「なんで推薦人から抜けたのか確認に行くと、誘いの電話あるいは訪問があって、そっちに(OKの)返事したと言うんです。告示の前日までこういうことは続くと思うが、実感としては、名前を書いていただいて12日の午前10時に届けを出すことができるだろうと思う」
日本のお寒い現実。自民党総裁は「政策」以外の要素で決まる
それにつけても思い出すのは、今回も名前の挙がっている野田聖子氏が2015年の総裁選で苦汁をなめた件だ。
その年の総裁選は安倍晋三氏の対抗馬として野田氏が立候補を予定していた。推薦人も20人超を集めると見られていたが、告示日になって野田氏は立候補を断念する考えを表明した。
推薦人集めを最後まで続けたものの、「だんだん、電話を取ってくれる議員が減り、ここまでだと思った」と言う。安倍陣営の切り崩しにあい、20人の推薦人を確保できなかったのだ。
野田氏は岸田氏が当選した2021年9月の総裁選には念願の出馬を果たしたが、この時にも他陣営から恫喝や嫌がらせを受けていた。
その事実を野田氏の推薦人の一人だった三原じゅん子参院議員が21年9月18日のX(ツイッター)投稿で明かした。
三原氏は総裁選で誰を推すか、そこには理由があるとして、派閥の圧力▽選挙の顔▽恩や義理人情▽日頃の付き合い▽思想、信条▽政策――などを挙げ「自分の意思で決めたことを、引き剥がす為の恫喝、プレッシャー、嫌がらせ等で変えることは致しません」「そういう事の無い自民党に変わるべき!との総裁選なはず。(実態はまだまだ大きな力は強いですよね)」などと記している。
つまり、三原氏は野田氏の推薦人になると決めた後、「引き剥がす為の恫喝、プレッシャー、嫌がらせ等」を受けたが、最後までその意思を曲げることはなかったということだろう。
小泉進次郎氏に「実力」があるわけではない
総裁選の裏側で繰り広げられる醜い争いは今回も9月12日の告示日ギリギリまで続けられるのだろう。
小泉進次郎氏の名前が出てくるまで、ポスト岸田の本命と見られていた石破茂氏でさえ、安泰とはいえない。元石破グループの齋藤健氏が出馬のための推薦人集めをしている。これを“石破潰し”とみるジャーナリストさえいるほどだ。
上川陽子氏も、同じ派閥「岸田派」から座長をつとめてきた林芳正氏が出ることになっており、難航しているようだ。岸田派はほぼ林支持でまとまっているため、“孤軍奮闘”を強いられている。
推薦人制度は、立候補者を一定の支持基盤を持つ人に絞ることで、過剰な乱立を防ぐためのものだが、立候補届け出後に推薦人名簿が公開されるため、推した候補が敗れた場合、新総裁から冷遇される可能性がある。
まさに、権力闘争の生々しい姿が推薦人争奪戦から垣間見れる。それをすんなりくぐり抜けて、もし小泉新総裁が誕生し、首相に就くとしたら、それを進次郎氏の実力と思うのは錯覚に過ぎない。
その背後には、父である純一郎元首相はもちろん、菅前首相や森元首相ら重鎮とか長老とか呼ばれる人たちがいて、世襲、利権、金権にまみれた自民党の永続をはかっていることに思いを致す必要がある。
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image by: 小泉進次郎 公式Facebook