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“ハリス大統領”誕生でプーチンが描きかねない最悪シナリオ。日本周辺の“威嚇”は激化し北方領土の“基地化”が進む事態に

いよいよ2ヶ月後に迫ったアメリカ大統領選挙。ハリス氏の登場で「確トラ」から「もしハリ」へとフェーズが変化したとも報じられていますが、国際社会はこの状況をどのように受け止めているのでしょうか。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、習近平、プーチン、金正恩各氏の心中を推察。さらにトランプ再選となった際、「ポスト岸田」に何が求められるかについても考察しています。

米大統領選は「確トラ」から「もしハリ」へ。習近平、プーチン、金正恩、そして日本はそれをどう見ているか

これまでのトランプvsバイデンの選挙戦の構図では、全体的にトランプ優勢だった。しかし、7月にバイデンが選挙戦からの撤退を表明し、副大統領のカマラ・ハリス氏が後継候補となったことで、「確トラ」から「もしハリ」になりそうな状況だ。

米大統領選挙まで2ヶ月あまりとなるが、たとえば米国の選挙分析機関クック・ポリティカル・リポートが公表した世論調査結果によると、選挙戦の行方を左右する激戦7州においてハリスが5州でトランプをリードしているようだ。具体的には、ウィスコンシン州とミシガン州でハリス49%、トランプ46%、アリゾナ州でハリス48%、トランプ46%、ペンシルベニア州でハリスが49%、トランプが48%、ノースカロライナ州でハリスが48%、トランプが47%などとなっており、この調査ではトランプが優勢なのはネバダ州のみとなっている。では、仮にこのままハリスが勝利すれば、習近平、プーチン、金正恩、そして日本はどう動くのか?

習近平にとって見る価値のないアメリカ大統領選

まず、中国の習近平だが、おそらく各国の指導者の中で、米国大統領選の行方を最も冷ややかな目で見ているのが習近平だろう。理由は単純で、ハリスが勝利しようがトランプが勝利しようが、米国の対中姿勢に大きな違いはなく、来年発足する新政権が対中強硬姿勢を貫いてくることは間違いないからだ。

トランプは政権1期目の際、米国の台中貿易赤字を打破するため、中国製品に対する関税を次々に引き上げ、両国の間では貿易摩擦が激化していった。しかし、トランプ政権の4年間を批判してきたバイデン政権も、トランプ政権が発動した対中貿易規制措置は解除せず、それに追加する形で先端半導体分野での輸出規制を強化するなど、対中強硬姿勢は継承されている。

ハリスは基本的にはバイデン路線を継承し、トランプも大統領に返り咲けば対中関税を60%に引き上げると豪語しており、習近平にとって米大統領選挙は見る価値のないものになっている。しかし、それでもトランプは何をしてくるのか予測が難しい一方、ハリスだとバイデン政権の延長と捉えることができるので、ハリス政権となった方が対処しやすいと感じていることだろう。

プーチンにとってハリスより使用しやすいトランプ

そして、ロシアのプーチンや北朝鮮の金正恩にとって、今日の大統領選挙の動向は面白くないだろう。ロシアによるウクライナ侵攻は解決への道筋が一向に見えないが、トランプはウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる、ウクライナへの軍事支援を最優先で停止する、欧州諸国が防衛費を十分に払わないならロシアの脅威から米国は守らないなどと主張している。ロシアの脅威に直面するウクライナや欧州諸国にとって、米国の軍事支援がなくなることは死活的問題となるが、今日の状況を有利に展開させたいプーチンからするとトランプは利用しやすい。

しかし、米大統領選挙の状況は「もしハリ」になりつつあり、プーチンとしてはまた面白くない選挙戦になってきたと感じているだろう。ハリスになれば、北朝鮮との軍事的結束を強化し、日本周辺での軍事的威嚇、北方領土の基地化をいっそう進めるシナリオも考えられよう。

「もしハリ」に不快感を強めていることが確実な金正恩

金正恩も同じように感じている。バイデンは中国との戦略的競争を最重要課題としてきたが、その中でウクライナ侵攻という国際秩序の安定を揺るがす暴挙が発生し、対ロシアにも時間を費やすことになり、バイデン政権にとって北朝鮮は完全に蚊帳の外となった。しかも、バイデン政権は日本や韓国と結束しながら北朝鮮に対処する姿勢に徹しており、この4年間米朝関係では何も進展が見られない。

しかし、トランプ氏はベトナムやシンガポール、板門店の3カ所で金正恩と会談するなど、米朝関係のデタントが見られた。トランプは自分が大統領に戻ることを彼も望んでいるだろうと主張したが、ハリスは金正恩のような独裁者に擦り寄るつもりはないなどと発言しており、金正恩も「もしハリ」に不快感を強めていることは間違いない。ハリス政権となれば、金正恩も引き続き、プーチンなどとの結束を強化することだろう。核やミサイルなどによる挑発もエスカレートすることになる。

ポイントは「トランプとどれほど仲良くなれるか」

最後に、日本にとってはどちらが勝利しても日米関係が大きく変わることはないが、1つ懸念事項がある。むろん、ハリスが勝利すればバイデン政権の延長なので、ハリスは台湾情勢や経済安全保障などで日本を最重要同盟国に位置付けることは間違いなく、あらゆる協力を求めてくるだろう。

しかし、トランプとなればポスト岸田が彼と“個人的なお友達”になれるかがポイントになる。8年前の大統領選でトランプが勝利した際、真っ先にトランプに会いに行ったのが安倍晋三だった。安倍晋三は黄金に輝くゴルフクラブを手土産にトランプタワーを訪問し、そこから両氏の個人的な信頼関係が始まり、トランプ時代の日米関係は前評判とは裏腹に極めて良好なものとになった。トランプも基本的にはその路線を継承して日本に向き合ってくるだろうが、9月の自民党総裁選挙で誰が選ばれ、その人物がトランプとどれほど仲良くなれるかがポイントになる。

image by: Below the Sky / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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