元は「卒業生」を意味し、昨今は定年を除く退職者を指して用いられる「アルムナイ」という言葉。健康社会学者の河合薫さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、このアルムナイと呼ばれる人々こそが「現代日本に必要不可欠」と言い切ります。その根拠はどこにあるのでしょうか。河合さんは今回のメルマガで、アルムナイ活用を巡るパナソニックHDの新しい試みを紹介しつつ、自身が彼らを「ニッポンの未来かもしれない」と見立てる理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:アルムナイがニッポンの未来かも?
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
新商品開発に退職者の協力を仰ぐパナソニック。アルムナイはニッポンの未来なのか
時代の変化を感じさせる「いいニュース」です。
数年前から転職や起業などで退職したアルムナイ(定年退職者以外の退職者)と協働する企業が増えてきましたが、パナソニックホールディングスが、「出戻り転職」ならぬ、「出戻り協力隊」の力を借りて、新製品の開発に乗り出すというのです。
しかも、報道した日経新聞の見出しが実にいい!(12月17日付朝刊)「パナソニックHD、退職者が家電開発協力 そんたくなき意見反映」です。
記事によると、今年4月に立ち上げたアルムナイのコミュニティーに登録する約440人に協力を呼びかけ、希望者に発売前の試作品を使ってもらい要望や意見を聞くとのこと。
開発に協力する元社員は、小型家電の場合は十数人、冷蔵庫などの大型家電であれば数人規模を想定し、成果が確認されれば、対象を家電以外に広げることも検討しています。
パナソニックで培った知見に、外に出た人ならではの知見を掛け合わせ、そんたくのない「もとさや」意見を期待しているそうです。
これまでも出戻り転職、アルムナイ採用、ジョブリターン、キャリアリターン、カムバック制度、退職後再雇用などのさまざまな呼び名で、企業は人手不足解消の手段として、昔の仲間を呼び寄せてきました。しかし、今回のように高度成長期を牽引して老舗企業が乗り出すとは…驚きです。
日本の企業といえば、転職者を「裏切りもの」呼ばわりしてきましたし、転職しただけで「あの人はいろいろと問題あったし」などとレッテルを貼る人もいました。企業にアルムナイ採用された場合でも、現場では「よそ者」扱いされ、上手くいかないケースも少なくありませんでした。
しかし、今回のパナソニックの試みでは「新製品開発」とゴールも明確ですし、「そんたくのない意見を!」という具体的な目的もある。若い社員にとっては「元先輩」の視点を学ぶいい機会になるし、自分のキャリアパスのイメージ作りにも役立つはずです。
雇用形態や期間などは明らかになってはいませんが、外からの“風”がいい具合に吹き込み、「ああやっぱりいいね~。うちの会社」とすべての社員のコミットメントが高まれば、生産性の向上も期待できます。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
過去の成功法則が役立たない時代に不可欠なアルムナイ
企業は経験を嫌いますが、社員が積み上げた“経験”は、我が社にとって極めて大切なリソースです。
にも関わらずこれまで企業は、足元のリソースの排除を優先してきました。50歳になった途端、在庫一掃セールにかけ、「経験より若手でしょ!」と若手至上主義を強め、ベテランの賃金を減らし、居場所を奪ってきた。労働人口は減っているのに会社に役立つ「人」に冷飯を食わしてきたのです。
そもそも経験は人によって違います。唯一無二の経験=暗黙知を結集させることが創造力の土台になります。多様性の視点からも、元社員と現社員の協働が効果的な相乗効果をもたらすことは多くの研究で確認されています。
自分からやめた人であれ、肩叩きされた人であれ、彼ら彼女らの会社内外の経験の蓄積とさまざまな役割の蓄積を、評価し、期待し、我が社の土壌を豊かにする企業にならない限り、未来はありません。先の読めない、過去の成功法則が全く役に立たない今の時代に不可欠なのが、アルムナイといって過言ではありません。アルムナイはニッポンの未来かもしれないのです。
パナソニックさんには、いったん“我が社の外”に出たよそ者の経験を最大限に生かす組織づくりを徹底してほしいと心から願います。
みなさんのご意見も、お聞かせください。
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