いじめ発生から3年程度の空白の時間を作る不正も容易に可能
冒頭の神奈川県の調査会は、調査報告書でこのように述べている。
とりわけ、私学の場合には、都道府県等が直接に命令や指導を行うことができないことから、一つ一つの手続きをゆっくりと進める、提出を求められた資料の提供等に当たり、使用目的等に関する質問を繰り返したり、質問に対する回答の内容の検討に時間をかけたり、使用に当たって条件付けを行ったりする等の行為だけでも、数ヶ月から1年以上遅らせることは可能である。また、第三者委員会の構成を学校中心のものとするなどし、委員会の開催間隔を空けることで、やはり数ヶ月から1年以上遅らせることは可能である。さらに、本事案のように、実質的な調査を終えていながら公表までに数年間の空白期間を持たせるならば、合計で3年間以上遅らせることなど、容易にできてしまう。
つまり、小学校4年生以上の事案であるなら、関係児童生徒が全て卒業した後、また関係職員の多くも異動した後に報告書を公表することにより、再調査が認められたとしても関係者に直接に聞き取りを行うことは困難な状況を作りだすことができる。そうした恣意的な運用が行われないためにも、学校関係者はもとより、行政関係者や保護者等も含めて、法に対する理解を深め、恣意的な遅延を監視できるようになることが求められる。また、確たる理由のない遅延に対する罰則等も求められよう。
簡単に要約すれば、公の手続きなどを含め、いじめ防止対策推進法では私学は学校法人などの学校の設置者が第三者委員会を形成するから、そうした期間を含めれば、いじめ発生から容易に3年間程度の空白の時間を作ることができるという不正が出来てしまう。
こうした期間は、再調査をするにあたって、極めて調査困難な環境をつくることに繋がってしまう。論理的必然性がない遅滞を監視する制度を設け、確たる理由がない遅滞には法改正をして罰則を設ける必要がある。
神奈川県のホームページに、この調査会の報告書は公表版が掲載されているが、それを読めば、私立校を担当する県の部署が、被害側に「第三者委員会の間はマスコミとかそういうところには全く出ないでくださいよ」と言われた。「それがわかったらもうこれはやめます、やりません」と発言したと被害側がから報告があったとし、「無視ぐらいで」などと不適切な発言を被害側に浴びせたとあり、当の担当者は記憶にないと言ったと記載されているが、県設置の調査会が報告書に記載するというのは、その実、「あー、こいつ言ったな─」という心証が形成されたことを意味する。
また、報告書には、「文部科学省のいじめの重大事態の調査ガイドライン」をよく読むことや「いじめ防止対策推進法」をきちんと理解することが複数回書かれていることから、学校も学校法人も、さらにはそこを統括する県の担当部署も、理解が足りないことも指摘されていると言えよう。そして、最終的に、「罰則なども求められよう」と示したことは、罰則を設けないと、調査会をしようが裁判をしようが、この教育機関全体は、まともに対策をしようともしないし、法律すら守ろうとはしないという強く抗議ではないかとも受け取ることができる。
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