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自分よりもはるかに「格上の格上」相手に堂々と勝負を挑み信念を貫く姿勢。“海賊とよばれた男”出光佐三の生き方から日本人が学ぶべきこと

ホワイトハウスが公開した、MAGA(Make America Great Again)のロゴ入り帽子を被り満面の笑みを浮かべる赤澤経済再生相の写真。『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんは、そんな赤澤大臣の姿に「ある思い」を抱いたと言います。辻野さんはメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』で今回、出光興産の創業者で自身と縁のある出光佐三氏のエピソードや彼の残した示唆に富む言葉を紹介。その上で、「日本人としての気概を取り戻すことの大切さ」を強く訴えています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:『海賊とよばれた男』に学ぶ日本人の気概

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

「海賊とよばれた男」が残した示唆。出光佐三に学ぶ日本人の気概

「トランプ2.0革命」について、日本では引き続きネガティブな報道ばかりが目立ちますが、実際にはポジティブな動きもあります。

ウクライナやガザでの停戦交渉が難航する一方で、従来敵対していたイランとは関係改善が進み、イラン外相が「相互理解が深まった」と発表しています。イランは、もともと米国やイスラエルとは敵対する一方、ロシアとは今年1月に包括的な戦略パートナーシップ協定で合意しており、先日、プーチン大統領がこの協定を批准しました。

こうした流れから、イランを介して米国とロシアが間接的に関係改善を図っているという見方もでき、国際情勢が大きく変化していることを感じます。

また、トランプ大統領はエルサルバドルのブケレ大統領とホワイトハウスで会談を行い、不法移民対策の一環として、米国内で拘束された不法移民の凶悪犯罪者をエルサルバドルの収容所に収監する措置を強化しています。この対策は米国民からの支持が高く、不法移民追放の結果、国内の犯罪率低下や雇用改善(失業保険申請の減少)につながっているという報告もあります。

最近の日米関係を見るたび再認識すること

イランと言えば、先日、イラン出身で日本に帰化した女性医師や製薬業界の方々とお話をする機会がありました。昨年7月に仙台で開催された第32回 日本乳癌学会 学術総会で基調講演を行った際に知り合った方々で、AIを活用した医工連携を進めるために起業の準備をしているとのことでした。

彼女たちとの会話の中で、戦後の困難な時代にイランから日本へ原油を運ぶため、自社タンカーを送り出した出光興産の創業者、出光佐三のことを思い出しました。私は出光佐三とは少なからぬ縁があり(*)、最近の日米関係を見るたびに、日本人としての気概を取り戻すことの大切さを再認識しています。

先日のトランプ関税を巡る日米会談での赤澤亮正経済再生担当大臣の「格下の格下」発言や、MAGAの赤いキャップを被って悦に入っている同氏の姿にも、同じような思いを抱かずにはいられませんでした。

(* 出光佐三は私の大伯父で、母方の祖父である出光弘の兄にあたる)

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国際石油資本や日本政府の圧力にも毅然として対峙

『日本人にかえれ』という著作もある出光佐三は、日本人としての誇りを強く持ったナショナリストであり、同時に一代で民族資本による石油元売り事業を立ち上げた起業家です。

彼は太平洋戦争で資産の大半を失いましたが、復員してくる社員を一人も解雇せず、玉音放送の二日後には「愚痴をやめよ」と社員たちを鼓舞し、「戦争に負けたからといって、大国民の誇りを失ってはならない。すべてを失おうとも、日本人がいる限り、この国は必ず再び立ち上がる」と述べ、「ただちに建設にかかれ」と号令を発して同社の再建に取り組みました。

また、欧米型資本主義や合理主義への警鐘を鳴らし続け、「互譲互助」など日本独自の思想や文化を尊重し、「黄金の奴隷になるな」と自らや周囲を戒めました。彼は生涯を通じて、社員を家族のように扱う「大家族主義」を貫き、国際石油資本やそれに迎合する日本政府の圧力にも毅然として対峙しました。

多くの一般市民が集まり喝采を送った「日章丸」の凱旋

言葉を変えれば、相当な変わり者でしたから、出光佐三にはさまざまな逸話が残っています。中でも最も有名なのは「日章丸事件」でしょう。

戦後、イランは独立こそしていましたが、当時世界最大とされていた同国の石油資源は、英国石油メジャーのアングロ・イラニアン石油会社(後のBritish Petroleum、BP)の支配下にありました。そのため、イラン国庫にもイラン国民にも石油の恩恵が回らない状況にありましたが、同国は1951年に石油産業の国有化を宣言し、英国をはじめとした西側諸国の追い出しにかかりました。

これに反発した英国は、中東に海軍を展開して海上封鎖し、イランに原油を買付に来た外国籍タンカーはすべて撃ち払うと宣言すると共に、イランに対する経済制裁や禁輸措置を強行しました。イランは態度を一層硬化させて「アーバーダーン危機」と呼ばれる一触即発の状況になっていました。

一方、戦後、日本には連合国による占領下でのさまざまな制約が課されていて、占領終結後も独自ルートでの原油の輸入は制限を受けており、それが戦後復興の大きな足枷にもなっていました。日本の早期経済復興を憂慮した出光佐三は、英国のイランに対する経済制裁は国際法上不当であると判断、原油買付のために自社のタンカー日章丸二世号をイランに派遣することを決意します。

イラン側は、当時中小企業に過ぎなかった出光興産に当初不信感を持っていたとされますが、同社は粘り強い交渉を続けてイランから原油買付の合意を取り付けます。英国との衝突を恐れる日本政府からの介入も何とかかわしながら準備を整え、1953年3月、日章丸二世号を神戸港からイランのアーバーダーン港に向けて極秘裏に出港させます。

日章丸は、航路を偽装して英国海軍の目を逃れながら4月にイランに到着、この時点で世界中のマスメディアの知るところとなり、国際事件として報道されました。日本でも、丸腰の民間企業のタンカーが、当時世界第二位の海軍力を誇っていた英国海軍に喧嘩を売った事件として大きく報道されました。

急いで原油を積み込んだ日章丸は、世界が注目する中、イランを出港し、英国海軍の裏をかいて浅瀬や機雷を回避しながら奇跡的に海上封鎖を突破して、5月に川崎港に無事到着しました。日章丸の凱旋には、多くの一般市民が集まってその快挙に喝采を送って祝ったといいます。

アングロ・イラニアン社は、積荷の所有権を主張して出光を東京地裁に提訴、日本政府に対しても、出光に対する行政処分を要求して圧力をかけましたが、英国による石油独占を快く思っていなかった米国の黙認や、出光の快挙に沸き立つ世論の後押しもあって、行政処分は見送られました。裁判でも、出光側の正当性が認められ、アングロ・イラニアン社が提訴を取り下げたため、最終的には出光側の全面勝利に終わりました。

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「出光の仕事は金もうけにあらず」。佐三が残した珠玉の言葉

この「日章丸事件」は、戦後日本が産油国と直接取引を行う先駆けとなった出来事であり、世界的な原油取引の構造を石油メジャーによる独占から解き放ち、自由化を促す大きな契機となりました。また、この事件をきっかけに、イランは親日的な国として日本との友好関係を深めていきます。そして何よりも、敗戦によって自信を喪失していた当時の日本国民に、大きな勇気と誇りを取り戻させる原動力となりました。

出光佐三は、次のような言葉を残しています。

出光の仕事は金もうけにあらず。人間を作ることである。経営の原点は人間尊重です。世の中の中心は人間です。金や物じゃない。その人間というのは、苦労して鍛錬されてはじめて人間になるんです。金や物や組織に引きずられちゃいかん。そういう奴を、僕は金の奴隷、物の奴隷、組織の奴隷というて攻撃している。

この言葉に象徴されるように、出光佐三の生き方から私たちが学べることは非常に多くあります。それこそ、自分よりもはるかに「格上の格上」と思われる相手にもひるむことなく、正面から堂々と勝負を挑み信念を貫く姿勢、そして、欧米型の価値観やスタイルに安易に迎合することなく、日本人が古くから大切にしてきた価値観や精神性を尊重し続けるその姿には、現代を生きる私たちにとっても深い示唆があります。

トランプ2.0革命によって世界秩序が大きく変わりつつある今こそ、こうした気概や精神を、私たち自身の中に取り戻すべき時ではないでしょうか。

(本記事は『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2025年4月25日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください)

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image by: The White House

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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