トランプ大統領の就任式が1月20日に行われ、新トランプ政権が発足しました。世界中から注目を集めたのは、式に参列した豪華な面々。政府効率化省のトップに起用されたイーロン・マスクをはじめ、マーク・ザッカーバーグやジェフ・ベゾスなど、世界的有名企業のCEOたちが顔を揃えました。そんな豪華式典で笑顔を見せていた経営者たちですが、メタやマイクロソフトではリストラが進行しているというニュースも話題に。グーグル日本法人元社長である辻野晃一郎さんは、自身のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』の中で、自身の過去の体験を踏まえて、このニュースを解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:メタやマイクロソフトでリストラが進行中
なぜ世界的大企業で「リストラ」が進んでいるのか?

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米国時間1月20日に行われたトランプ大統領の就任式には、イーロン・マスクは当然として、スンダー・ピチャイ、ティム・クック、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾス、サティア・ナデラ(参加とされていましたが姿は確認できていません)等々、GAFAMのCEOや創業者を始めとしたハイテク界の経営者たちも大集合でしたが、ブルームバーグやCNBCによると、メタは全社員の約5%、マイクロソフトは約1%にあたる社員のリストラを断行中だそうです。
メタCEOのザッカーバーグは、2度目のトランプ政権発足に伴い、これまでバイデン政権の圧力に屈してフェイスブックやインスタグラムで検閲を行っていたことをカミングアウトして懺悔し、ファクトチェックの廃止を宣言したことでも話題になりましたが、社内向けのメッセージで「低パフォーマーを迅速に排除する」として次のように述べています。
「メタは、AIや次世代コンピューティングの基盤となるメガネ型デバイス、SNSの未来など、世界で最も重要なテクノロジーのいくつかを構築している。私は、この1年が非常に熾烈な年になると考えており、この会社に最高の人材が集まっていることを確実にしたい。」
人員削減の対象となる社員への通知は、米国内では2月10日に行われる予定で、米国外の社員はその後になるようです。
メタは、2022年にも、大規模再編の一環として約1万1000人をリストラし、その翌年もザッカーバーグが「効率化の年」と呼ぶ中、さらに1万人を削減しました。マイクロソフトも、2023年にオフィススペースを統廃合して1万人を削減。さらに、2024年初頭には、690億ドル(約10兆7600億円、1USD=156円)でゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードを買収したのに伴い、ゲーム部門で1900人のリストラを行っています。
メタやマイクロソフトに限らず、米国企業でのリストラは別に珍しいことではありません。私がいたグーグルも、2023年1月、AIシフトを理由にアルファベット(グーグルの持株会社)全体で当時の従業員全体の6%にあたる1万2000人のリストラを宣言しました。
なお、外資系企業では、大規模なリストラ以外にも小規模なリストラは頻繁ですし、パフォーマンスが低い社員の入れ替えも定期的に行っています。私が在籍した当時のグーグルでも、毎年のパフォーマンス評価で下位5%に当たる社員の削減が義務付けられていて、日本法人では代表だった私がその作業の最終責任者でしたが、これは実に気が重い作業でした。
プロセスとしては、部門ごとに下位5%に当たる社員にまずは3ヶ月間のPIP(Performance Improvement Plan)というプログラムが適用されます。これは、パフォーマンスが低い社員のパフォーマンス改善を目的としたもので、上長が対象となる社員の課題を具体的に指摘した上でパフォーマンスの改善を求めます。その結果、パフォーマンスの改善が認められれば残留が許されますが、改善が見られない場合には退職勧奨が行われます。
グーグルには優秀な社員が多かったので、部門にもよりましたが下位5%の線引きが簡単ではありませんでした。また、皆プライドが高く、PIP適用の対象者となった段階で自尊心が傷つけられて、PIPの適用を受けないまま自主退職する社員もいました。一番辛かったのは、PIPの適用期間を経てもパフォーマンスの改善が見られずに退職勧奨せざるを得ない場合です。本人もショックだと思いますが、その判断をして申し渡す側にも辛いものがありました。私が直接退職勧奨した当時の社員たちの中には、今でも私のことを恨んでいる人がいるかもしれません。
昨年の夏に、渋谷のセルリアンタワーにグーグルの日本法人があった時代のメンバーが集う同窓会があり、100人を超える旧メンバーが集まる盛会となりましたが、私が退職勧奨をして辞めていった人も何人か参加していました。「捨てる神あれば拾う神あり」とも言いますが、皆転職先で活躍していたり、独立して活躍していたりで、彼等ともわだかまりなく笑顔で再会することが出来て少しホッとしました。
しかし、そのような経験も経て強く思うことは、一つの会社に長く留まるよりも、さまざまな会社を経験する方が人は成長するのではないか、ということです。たとえそのきっかけがリストラで、その時は不愉快だったり悲しかったりしても、本人がそれを転機と前向きに捉えれば、自己の成長にもつながりますし、思いもしなかったような新たなチャンスに巡り合うきっかけになることもあります。
企業のリストラは、業界全体の新陳代謝を促し、経済のエコシステムを健全に保つための必要悪とも言えるのかもしれません。日本の雇用形態も大きく変遷しつつありますが、伝統的にリストラを後ろ向きに捉える傾向は、社員を守っているようで、実は社員や会社の成長を阻む要因になってきたのかもしれません。
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