■どちらにしてもうまくいかない
同じように、仕事術の本などで「残念な人の特徴」といった特徴を挙げ、そうした人にならないためのノウハウが提示されることがあるわけですが、そこにも強い線引きを感じます。
線を引いて、自分たちはこっち側、あいつらはあちら側とやるわけです。
もしそうしたノウハウが本当に功を奏すならば、うまくできない人を見下す見方が強まるでしょう。助け合いなどせず、自分の力で成功を掴むのだ、というマッチョな啓発(英語だとハッスルカルチャーというらしいです)にぐんぐん近づいていきます。
一方で、ノウハウが功を奏さないならば、その人は自分があちら側に属すると認識してしまいます。無力感、自己に対する否定感が強まるでしょう。
どちらに転んでも、ろくな結果にはなりません。
■ノウハウ書の文法
こちら側とあちら側を線引きし、「こっちの方がよい。そのためのノウハウはこうだ」と主張するのは、構造的にシンプルで認知的に受け入れられやすいことは間違いありません。ノウハウを売るための、一番簡単な構造でしょう。
しかし、その構造は道徳的・倫理的に問題を抱えていると言わざるを得ませんし、その刃は自分自身に向けられることもあるという点で有害です。
結局、今回炎上した本だけが問題というわけではないのでしょう。むしろ、近年のノウハウ書が持つ「文法」が潜在的に抱えている問題がたまたまその本によって露呈したのだと私には思えます。
料理の本、園芸の本で同じような「文法」はまず出てきません。まずその異常事態に気がついた方がよさそうです。
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