大炎上した「ノウハウ系ビジネス書」が教えてくれた、人間を「困った人」と“線引き”することの危険性

 

■どちらにしてもうまくいかない

同じように、仕事術の本などで「残念な人の特徴」といった特徴を挙げ、そうした人にならないためのノウハウが提示されることがあるわけですが、そこにも強い線引きを感じます。

線を引いて、自分たちはこっち側、あいつらはあちら側とやるわけです。

もしそうしたノウハウが本当に功を奏すならば、うまくできない人を見下す見方が強まるでしょう。助け合いなどせず、自分の力で成功を掴むのだ、というマッチョな啓発(英語だとハッスルカルチャーというらしいです)にぐんぐん近づいていきます。

一方で、ノウハウが功を奏さないならば、その人は自分があちら側に属すると認識してしまいます。無力感、自己に対する否定感が強まるでしょう。

どちらに転んでも、ろくな結果にはなりません。

■ノウハウ書の文法

こちら側とあちら側を線引きし、「こっちの方がよい。そのためのノウハウはこうだ」と主張するのは、構造的にシンプルで認知的に受け入れられやすいことは間違いありません。ノウハウを売るための、一番簡単な構造でしょう。

しかし、その構造は道徳的・倫理的に問題を抱えていると言わざるを得ませんし、その刃は自分自身に向けられることもあるという点で有害です。

結局、今回炎上した本だけが問題というわけではないのでしょう。むしろ、近年のノウハウ書が持つ「文法」が潜在的に抱えている問題がたまたまその本によって露呈したのだと私には思えます。

料理の本、園芸の本で同じような「文法」はまず出てきません。まずその異常事態に気がついた方がよさそうです。

image by: Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 』

【著者】 倉下忠憲 【月額】 ¥733/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print
いま読まれてます

  • 大炎上した「ノウハウ系ビジネス書」が教えてくれた、人間を「困った人」と“線引き”することの危険性
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け