2018年から約4年続いたモリソン政権下を含め、中国に対して強行姿勢を貫いてきたオーストラリア。そんな豪中関係に変化の兆しが見えてきたようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、7月12日から6日間に渡り中国を訪問したアルバニージー豪首相の現地での発言内容を紹介。前政権時には考えられなかった豪政権の対中政策の転換を、「国民の生活を考えれば自然な選択」としています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:オーストリア首相訪中で強調された中国経済への強い依存
「中国と前向きで建設的な関係を築くことが重要」。豪州首相の訪中で強調された中国経済への強い依存
台湾有事で米中が軍事衝突した場合、どのような役割を担うか、明確化せよ──。
これはアメリカ国防総省ナンバー3のエルブリッジ・コルビー国防次官が日本とオーストリアに対し突き付けた問いだ。英『フィナンシャルタイム』(FT)が7月12日に報じた。
アメリカの台湾防衛に関する態度はあいまいである。バイデン前大統領時代には計4回「守る」と発言しているものの、全体としては相変わらず「あいまい戦略」を貫いている。
そんなアメリカから唐突に「役割の明確化」を突きつけられるというのも不可解な話だ。
当然、名指しされた日本とオーストリアは戸惑った。
FTの記事でも日豪の反応は以下のように記されている。
しかし、この要請は東京とキャンベラを驚かせた。というのも、アメリカ自身が台湾に白紙保証を与えてはいないからだ。
日本の反応についてはさらに、
日本の防衛省は、「『台湾有事』という仮定の質問に答えるのは難しい」と述べたと記している。防衛省は、「『台湾有事』という仮定の問いに答えることは難しい」とし、いかなる対応も「憲法、国際法、国内法令に基づき、個別具体的に実施される」と述べた。
というのだ。
外野では、「台湾有事」と大騒ぎする自衛隊OBたちが跋扈し、不穏な空気を作り出しているが、そうした空気とは一線を画し沈着冷静な対応だったという。
オーストリアの反応も慎重だった。
パット・コンロイ国防相が地元ABCテレビに出演するなかで、「われわれは仮定の話には関与しない」とことわった上で「いかなる紛争にもオーストラリア軍を派遣することを事前に約束することを拒否する」と明確に述べている。
今週はそのオーストラリアの動きが脚光を浴びた。
きな臭い問いがトランプ政権の閣僚から投げかけられたのとは対照的に、オーストリアの話題はアメリカとの安全保障における紐帯よりも、むしろ中国との経済協力に大きく傾いていたのだ。
アンソニー・アルバニージー首相が6日間の日程で中国を訪問したからだ。
上海を皮切りに、北京へと向かい、習近平国家主席、李強首相、趙楽際全国人民代表大会常務委員長と会談した後に四川省へと向かい、パンダを見学した後に帰国するという日程だった。
当然、アルバニージーの現地での発言に注目が集まった。
アルバニージーは、「(豪中は)協力できることは協力し、必要があれば反対するが、国益に取り組む」と前置きした後でこう述べた。
「オーストラリアの雇用の4分の1は貿易によって生み出されている。中国はオーストラリアにとって群を抜いてトップの貿易相手国である。そのことを考えれば、中国と前向きで建設的な関係を築いてゆくことは、オーストラリアの雇用や経済にとって非常に重要だ」
モリソン政権時の中豪関係を思えば隔世の感というべきオーストラリアの変化だが、国民の生活を考えれば自然な選択だ。
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貿易統計のデータも証明。中国が着々と進める「脱米」の動き
タイミングよく中国は今年上半期のGDP成長率を発表。メディアは5.3%という数字を誇らしげに報じた。
今年の第2四半期はまさにトランプ政権が相互関税を発表するなかで幕を開け、世界的にも強い逆風が吹いた。
そうしたなかで達成された5.3%という数字だけに、中国としても「容易なことではない」(国家統計局盛来運副局長)との結論に至ったようだ。
興味深かったのは、GDP成長率と同時に発表された貿易統計だ。米ブルームバーグは、輸出が力強く経済をけん引したと報じたが、ここに見られた傾向は、やはり相変わらずの「脱米」の動きだった。
税関総署のデータによると中国の上半期のモノの貿易は、21.79兆元(約435兆8,000億円、1元=20円で計算)で対前年比2.9%の増加だった。
輸出入を比較すると輸入が対前年比でマイナス2.7%と落ち込んだのに対し、輸出は7.2%増と大きく伸びた。
対米貿易が大きく落ち込むなかで、輸出が大きく伸びたという現象こそ、前述した「脱米」の正体だ。
詳しく見てゆこう。
まず対米輸出は、相互関税の影響をもろに受けてマイナス9.3%と落ち込んだ。しかしアメリカ以外の国や地域との貿易がそれを上回って伸びたのである。
具体的には一帯一路諸国との貿易額は11.29兆元で4.7%の増加。貿易全体の51.8%を占めるまでに成長した。また対ASEANは3.67兆元で、こちらも9.6%増で拡大を続けた。2つの数字を全体の伸びであるプラス2.9%と比べれば、その大きさは一目瞭然だ。
ちなみに対EU、韓国、日本向けの輸出も拡大傾向を維持した。
オーストラリア国内ではアルバニージーの中国接近に強い警戒感が示されたという。
オーストリアABCは「中国がオーストリアの周辺で行う軍事演習にもっと目を向けるべきとの声がある」と報じた。
しかし国民生活をあずかる首相であれば、中国の存在感を重視せざるを得ないのも無理からぬことだろう。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年7月20日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)
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