GAFAの一翼として、IT社会を牽引するメタ(旧フェイスブック)。そんな同社の「企業倫理」が大きく問われかねない疑惑が大手通信社により報じられ、メタの株価が急落する事態に発展しています。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、メタが過去に関与したとされる個人情報流出問題や政治的工作疑惑を改めて整理するとともに、今回浮き彫りになった「詐欺広告依存」の構造を徹底分析。その上で、巨大プラットフォーマーとして同社が問われる社会的責任について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:詐欺広告で大儲けのメタ
プロフィール:辻野晃一郎(つじの・こういちろう)
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。
ザッカーバーグはどこへ向かうのか。詐欺広告で大儲けのメタ
先週、ロイターが、「メタ(旧フェイスブック)の収益の一部は詐欺広告によって得られている」と報じました。第3四半期決算が市場予測を下回っていたこととも相まって、今週にかけてメタの株価は一気に140ドル以上下落しています。
メタは、GAFAやGAFAM等と束にして語られる米テックジャイアントの一角を占めてきましたが、同社や創業者で会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏の筋の悪さについては、本メルマガでも以前から何度か指摘してきたところです。
同社の起源は、もともとザッカーバーグ氏がハーバード大学在籍中に作った、女子学生の容姿をランキングするような悪ふざけ的なサイトであったことはよく知られていますが、他にもハッカー的な行為で大学のセキュリティを破るなど、大学当局からも問題視されていた人物です。
結局、フェイスブックの立ち上げに没頭して同大学を中退しましたが、フェイスブックも、プライバシー問題などでサービス開始当初から賛否両論を巻き起こしてきました。
私は、別に大学時代の悪ふざけやハッキング行為などをことさらに問題視するつもりはありません。誰しもが、若い時に羽目を外すことなどいくらでもあるでしょうし、彼の場合は、むしろ溢れる才能のなせる業だったとみなすこともできると思います。世の中を大きく変えるようなイノベーションを起こす人は、往々にして権威やルールに反抗的なのが普通ですし、世間の常識を気にしたりはしません。
問題は、世の中に多大な影響力を持つ存在になってからの、企業や経営者としての経営哲学や経営倫理に対する認識にあると思います。率直に言って、ザッカーバーグ氏の場合、あまり人としての成長を感じないのです。
メタが悪行に加担したのではないか、という疑惑が最初に大きな社会問題として公になったのは、2016年の米大統領選挙、および同年のブレクジット(Brexit)を決めた英国の国民投票で、ケンブリッジアナリティカ(CA)という表向き選挙のためのデータ解析やコンサルティングを行う会社が、不正な手段で投票操作を行ったことが明らかになったときでした。ちなみに、この問題によってCAは廃業しています。
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全体収益の10%を詐欺や禁止商品の広告から得ていたとの推定も
CAの元社員による内部告発を発端として、メタからCAに8,700万人分もの個人情報が流出していたことが発覚し、CAはそのデータを使って米大統領選やブレクジットの投票行動を操作していたのではないかということが問題となり、ザッカーバーグ氏は米連邦議会の公聴会にも呼ばれました。
実際には、CAにデータが流れたのは、メタと共同研究をしていた英ケンブリッジ大学の研究者を介してとされていますし、事態を知ったメタは、個人情報の利用を禁じて削除を要請したようですが、一方で、フェイスブック上に氾濫していた投票操作のための虚偽広告や捏造された書き込みなどへの対応は不十分なままでした。
CAの事件について興味のある方は、以下のネットフリックスのドキュメント映画が参考になると思います。
【関連動画】 Watch The Great Hack | Netflix Official Site
また、その後、バイデン政権下でのコンテンツモデレーション(情報検閲)が問題になったこともあります。バイデン元大統領の息子ハンター・バイデン氏に関する情報や、コロナ禍でのワクチンに関する情報などに関して、バイデン政権からの圧力で検閲を行っていたことを、2024年8月、ザッカーバーグ氏が自ら告白し、今後はファイスブックやインスタグラムでの検閲を廃止すると宣言しています。
今回、ロイターが報じた詐欺広告収入については、日本でも著名人を語ったニセ広告が氾濫して問題になりました。著名人数名が立ち上がって自民党に対処を申し入れたことなどが報道でも流れましたが、その時にも、メタの対応は緩慢で批判を浴びていました。
しかし、今回のロイターの報道で、メタが収益を優先して詐欺広告対応へのサボタージュを確信犯として行っていたことが明らかになりました。推定では、全体収益の10%(約160億ドル、約2.4兆円)程度を、詐欺や禁止商品の広告から得ているのではないかとされています。
ロイターの報道では、メタが米証券取引委員会(SEC)の調査を受けていることも示されており、また、英国の規制当局によると、2023年の報告で、メタの広告が、その年の決済関連詐欺被害全体の54%に絡んでいたとも指摘されており、これは、他のすべてのSNSプラットフォームを合計した数字の2倍以上に相当するとのことです。
メタは、AI投資にも積極的で巨額の投資を続けていますが、詐欺広告で得た資金もAI投資につぎ込んでいるのだとすれば、そもそも、そうまでして開発した同社のAIにどんな意味があるのかと考え込んでしまいます…。
(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2025年11月14日号の一部抜粋です。「ニューヨーク市長に選ばれたゾーラン・マムダニ氏とは」と題した「今週のメインコラム」、「Lenovo ThinkPad T14 Gen 6 IALプレミアム」を紹介する「今週のオススメ!」、高市政権に対する読者からの意見に対する辻野さん自身の考えを綴った「読者の質問に答えます!」、「亜鉛」の効用を取り上げた「スタッフ“イギー”のつぶやき」を含む全文をお読みになりたい方は、この機会にぜひご登録ください)
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