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【キャラ弁】自分を犠牲にして雑菌山盛りのお弁当を作る日本人の心理

キャラ弁があぶり出す日本人の心理

『谷本真由美(@May_Roma)の「週刊めいろま」』 036号より一部抜粋

日本では自分の娘さんに3年間ものあいだ、「嫌がらせ弁当」なるキャラ弁を作っていたお母様が本を出版され、テレビでも取り上げられた様です。

ワタクシは以前からこれをネットで知っていましたが、それが日本のテレビでは美談になってしまう現象が「ああ、凄く日本的だなあ」と感じました。

その理由は、まず、昼食に過剰なまでの労力と時間を裂くのが「素晴らしい」と思う人が多いことです。キャラ弁は作る人の手間暇が大変です。お弁当を前夜に作らなければならないので、朝早くから作業をしなければなりません。しかし、仕事をしている人や、商売をやっている人であれば、朝からそんな作業をする時間はありませんので、睡眠時間や朝ゆっくりする時間を削ることになります。

お昼ご飯は空腹を満たすためのものですし、日本には安価に外食できる店や商店が大量にあります。西欧州に比べたらその値段は半分以下で、都内や日本の県庁所在地なんて、店の数も、ロンドンやパリの様な都会に比べたって膨大なのです。作る人が大変な思いをする替わりに買う、という論理的な思考がないのが大変日本的です。

次に、キャラ弁当は高温多湿な日本では決して安全な食事ではありません。見た目は素晴らしいですが、家庭で素人がこねくり回した白米や海苔は決して清潔なものではありません。梅干しやらお酢やら入れても無駄です。日本は高温多湿なので、本来なら果物などは腐らない様にきらないで丸ごと学校や職場に持って行ったり、白米やオニギリは、こねくり回さない方が雑菌が繁殖しません。

第三に、キャラ弁は見た目のために栄養価を無視している点です。多くが装飾のために白米を大量に使い、野菜やタンパク質が足りません。タンパク質に至っては、冷凍の唐揚げやウインナーがほんの少々入っているだけです。白米は炭水化物ですから、成長期の人には十分な栄養ではありません。これはキャラ弁当に限らず、日本の外食の多くに共通することです。

日本人は糖尿病になりやすい遺伝子を抱えています。欧州や北米の医師は人種別の病気をよく研究しているので、日本人の糖尿病のなりやすさも良く知っています。日本人以外の東洋人やインド人も糖尿病になりやすいのです。

そういう因子を持っているし、昔に比べたら若い人も年寄りも活動料が減っています。炭水化物の取り過ぎには注意すべきなのですが、論理的に考えない人が多いわけです。これもまた日本的です。

キャラ弁礼賛は古い価値観に縛られている証拠

第四に、このキャラ弁の絶賛は、日本的なジェンダーや家族の価値観を明確に表していることです。この様な手間暇をかけて昼食を作る母親が「素晴らしい」と絶賛されます。しかし、それは、この様な家事を行わない母親は日本的基準では「悪い母親」とされてしまうわけです。

父親はそういう手の込んだお弁当を作りませんが、父親が非難されることはありません。また、子供は自分で料理できる年齢であっても、自分でお弁当を用意しない様な子供は非難されません。

つまり、母親というのは、自分のキャリアや寝る時間を犠牲にして過剰な家事をやるのが当たり前であり、それをやる人は素晴らしい母親でなければならない、父親は家事をやらなくて良い、子供はいい年をしていても親に頼るべきである、という「思い込み」があるわけです。これは、20世紀以前のジェンダー感や、家父長制度で刷り込まれた性的、年齢的役割が「絶対的なものである」とする古い価値観に縛られている人がいかに多いか、ということの裏返しでもあります。

母親は自分を犠牲にして子供に雑菌山盛りのお弁当を作ることが素晴らしいと絶賛されるが、彼女のキャリアや稼ぐ能力、資産、創造性、リーダーシップ、専門技能といったものは評価に値しないわけです。評価されるのは家族のために自分の時間=人生を犠牲にすること、家族の世話をするための家事の技能、母親としての役割を演じているかどうか、です。

今の日本は凄まじい勢いで少子高齢化が進んでいます。非正規雇用は働く人の半分近くです。国家財政は大赤字です。労働人口は減っています。将来年金は破綻し、高齢者を支える福祉の費用が私達やその子供にとって、大変な負担になるのは目に見えています。会社だっていつまであるかわかりません。

そういうシビアな状況なのですから、母親には、一円にもならないキャラ弁作りを期待するよりも、キャリアをつんでもらったり、稼いでもらうことを推奨した方が論理的ではないでしょうか。

少子高齢化が進む社会で大人になる子供に取っては、資産も貯金もない高齢の母親の介護費用や生活費を負担することは生き地獄です。お金で苦労すると、昔キャラ弁を作ってくれたな、なんて思い出は一瞬で吹き飛びます。

キャラ弁自慢の背景にある心理とは?

キャラ弁を作っているお母さん方にとっては、お弁当を作ることが愛情の表現なのかもしれません。また、女性はキャリアを作りにくいので、その怒りや悔しさ、空虚な気持ちを、過剰な家事、つまりキャラ弁作りに注いでいるのかもしれません。

本当の子供にとっての愛情は、子供に経済的な負担をかけないために自らが経済的に自立すること、自分の人生を生きること、健康を害しないために家事は手抜きすること、夫や子供にも自活する能力を与えること、ではないでしょうか。

何でもお母さんがやってしまうのでは、夫も子供も自立して行きて行くことはできません。お昼作り、洗濯、掃除、アイロン掛けなどは、体が動くのであれば誰だって可能です。夫や子供はお母さんが病気になったり死んでしまったら路頭に迷います。

キャラ弁は単なる趣味だという人もいる様ですが、趣味を人様と競う必要はあるでしょうか?なぜキャラ弁を幼稚園が禁止する羽目になったのでしょうか。それは親同士が競争しているからでしょう。なぜ自作のキャラ弁当をネットでイチイチ自慢をするのでしょうか?

ワタクシは、ネットでキャラ弁の過剰な装飾や、クックパッドに大量に上がっている素人のレシピ自慢をみて、その背景にある心理を考えるのです。それは自分の時間や休息を犠牲にしてまで過剰に入れこむ自己承認要求活動です。熱心に仕事をしていたり、趣味の活動に忙しかったり、投資が忙しかったら、いちいち奇麗に料理をして、ネットで映える様に工夫して写真を撮り、アップする暇はありません。そんなことをしても一円にもならないのですから。本当に子供や家族を大事にしているなら、そんな趣味に大量に時間をかけないで、話をしたり、一緒に絵本を読んだりしているはずです。

イギリスやイタリアやフランスだと、素人が自分のお弁当や料理をネットで自慢する活動はあまり見かけません。あまりというよりもほとんど見かけません。ないわけではないですが、その粒度が日本よりうんと薄いのです。

ワタクシは日本のお母さん達はもうちょっと休息するべきだと思います。そして、自分の人生とは何か、考えるべきだと思います。

 

『谷本真由美(@May_Roma)の「週刊めいろま」』 036号より一部抜粋

著者/谷本真由美(@May_Roma)
神奈川県生まれ。ITベンチャー、国連専門機関情報通信官、外資系金融会社などを経てロンドン在住。趣味はハードロック/ヘビメタ鑑賞。著書多数。
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