軍事アナリストが朝日新聞の「集団的自衛権報道」に違和感を覚えたワケ

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集団的自衛権で「海外の戦争に加われる」だって?

『NEWSを疑え!』第377号より一部抜粋

3月8日、朝日新聞朝刊3面の記事を読みながら、違和感を覚えずにはいられませんでした。

まるで革新政党の機関紙を読んでいるような表現にぶつかったからです。いくら「商業左翼主義」で売上を伸ばしてきたといっても、「天下の朝日新聞」です。これはまずいと思いましたので、ちょっと書いておきます。

朝日新聞朝刊3面の記事は次の書き出しで始まっています。

「『安全保障法制の与党協議』。最近、ニュースでよく出る言葉ですが、なぜいま、どんな目的で話し合っているのでしょうか。日本の安全保障をめぐる歩みはどう変わってきたのか。安倍政権がどんな考えで政策を見直そうとしているのか。まずはこの二つからおさらいし、複雑なテーマを読みときます」

そして、国際平和協力活動に自衛隊が派遣されるようになった経緯などに触れたあと、「与党協議」について以下のように書きます。

「与党協議には、自民・公明両党の議員各6人に、政府側の官僚らが加わり、2月から週1回のペースで開かれている。議論の前提は、安倍内閣が去年の7月に政府の方針として打ち出した『閣議決定』だ。この決定のポイントは、おおまかに言って二つある。ひとつは、海外で自衛隊が戦争をすることを厳しく禁じてきた憲法の読み方を変え、集団的自衛権を認めた点だ。日本の国そのものが成り立たなくなる『明白な危険』があれば、攻撃を受けた他国軍を助けるため、例外的に海外の戦争に加われるとの内容だ。もう一つのポイントは、武力を使わないケース。国際社会の平和に貢献するために、自衛隊の海外での活動や、他国軍への支援をより広げるとの方針だ」

どこに違和感を覚えるかというと、まず「海外で自衛隊が戦争をすることを厳しく禁じてきた憲法の読み方を変え、集団的自衛権を認めた点だ」という部分です。この言い方だと、軍事組織である自衛隊を海外に派遣することは、目的がなんであれ認められない、ということになります。

そして「日本の国そのものが成り立たなくなる『明白な危険』があれば、攻撃を受けた他国軍を助けるため、例外的に海外の戦争に加われるとの内容だ」という表現だと、「例外的に」と断ってはいるものの、まるで助けを求められたら直ちに戦闘部隊を派遣できるかのように読者に受け取られかねません。

それに「海外の戦争に加われる」とは、無責任で軽々しい表現としかいいようがありません。あたかも国家の危急存亡の事態でなくても自衛隊を派遣できるかのようです。

集団的自衛権の行使は、同盟国、あるいは密接な関係にある国家に対するもの、つまり日本国にとっても危機が発生したとみなされる場合で、それ以外の無原則な拡大はないと考えるべきものです。

この記事を書いた記者は、「国家が他国に対して自国の目的を達するために武力を行使する闘争状態」とされている「戦争」の定義について、いま一度、復習してもらいたいと思います。

また、集団安全保障としての国連平和維持活動(PKO)や有志連合の一員としての後方支援であろうとも、自衛官を危険な任務に派遣することを忘れてはなりません。「危険な任務」だからこそ自衛隊にしかできない任務なのです。あまり神経質になる必要はないかも知れませんが、新聞の記事を書くときは、自衛官を命がけの任務に送り出す重みに思いを馳せてもらいたいものです。

 

『NEWSを疑え!』第377号より一部抜粋

【第377号の目次】
◎テクノ・アイ(Techno Eye)
・国境監視技術を輸出するエストニア
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
◎編集後記
・集団的自衛権で「海外の戦争に加われる」だって?(小川和久)

 

『NEWSを疑え!』

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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