まっとうな企業に寄生する「でっちあげ労災事故」の防ぎ方

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3月決算が多い日本の会社。決算書の作成をはじめ、年度末に向けてバタバタしてきた人も多いのではないでしょうか? やらなければならない作業をたくさん抱え、注意力が散漫になりがちなこの時期、気をつけたいのが労働事故です。万が一労働事故が起こってしまった場合、企業はどう対処すればよいのか、無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』の著者・飯田弘和さんが詳しく解説しています。

年度末は労働事故に注意!

年度末は何かとあわただしい。こういった時は事故が起きやすい。業務によって従業員がケガした場合、当然、労働災害(労災)です。

労災が起きた場合、それが休業を伴うときには、労基署への死傷病報告が必要です。休業が1日以上3日以下の場合には、4半期ごとにまとめて死傷病報告の提出が必要です。休業4日以上または死亡事故の場合、遅滞なく死傷病報告を提出する必要があります。死傷病報告の提出を怠った場合、「労災かくし」となります。「労災かくし」に対して、労基署は非常に厳しい対応を取ります。送検も覚悟しましょう。

ところで、死傷病報告の提出とは別に、ケガをした従業員への補償が必要です。労働災害の場合、治療に健康保険は使えません。労基法上は、事業主は治療費の全額を補償しなければなりません。休業については、平均賃金の6割を補償しなければなりません。一般的には「労災保険」を使うのではないかと思いますが、法律上は、必ずしも労災保険を使う必要はありません。事業主が補償するのでれば、労災保険を使わなくても法律違反とはなりません。

ですから、労災保険を使うことでメリット制の適用が受けられなくなってしまうような場合、労災保険を使わないことも考えられます。そうであっても、健康保険での治療はできないので、治療費は全額(10割負担)事業主が負担しなければなりません。それに、たとえ事業主が治療費を全額負担した場合でも、死傷病報告は必要です。

ちなみに、建設業は少し特殊です。建設現場での事故については、元請事業者の労災保険を使います。現場労災といわれるものです。元請事業者に労働災害の補償義務があります。この場合でも、死傷病報告は、ケガをした労働者(職人)が所属する下請会社が提出することになります。また、この労災保険は一人親方には適用されません。一人親方は必ず、自ら労災保険に加入しておく必要があります。一人親方は労働者(従業員)とは扱われないので、たとえ現場でケガをしても死傷病報告は不要です。

労災保険を使わず、事業主自ら全額補償する場合、そのケガの治療が続く限り、その従業員の休業が続く限り、補償が必要です。障害が残れば、その補償も必要です。

ケガした当初は事業主が治療費や休業補償を行っていたが、治療が長引くことでその負担を負いきれず、従業員とトラブルになる事業主もいます。事業主の負担軽減と従業員への補償充実のために労災保険はあります。やはり、労災保険を使うのが、事業主にとってのリスク軽減につながると思います。

もし、従業員のケガが本当に業務上のケガなのか、あるいは本当に休業が必要なのか怪しいときでも、労災保険での給付申請をすることで、労基署がそのあたりの事実確認をしてくれます。労災の補償目当てにウソの労災事故をでっちあげ、労災保険あるいは事業主から金を巻き上げるような者もいます。まっとうな会社が、そのような輩に寄生されないためにも、労働災害については適切な対応を行ってください。もちろん、労働災害が起きないようにすることが第一ですが…。

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【著者】 飯田 弘和 【発行周期】 週刊

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