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最後の為替報告書【フィスコ・コラム】

トランプ米大統領の任期切れが迫るなか、予定より2カ月遅れで発表された最新の為替報告書に、市場への影響は限定的でした。過去最多の20カ国・地域を「操作国」「監視対象国」に挙げていますが、レームダック政権の通貨政策として「スルー」されています。

米大統領選の正式な選出手続きである投票人投票が12月14日に行われ、一般投票と同じ306人を獲得したバイデン民主党候補が232人のトランプ氏を破りました。トランプ氏は「不正」を主張しているものの証明できず、来年1月20日の新大統領の宣誓式までに何らかの「奇策」を弄するしか再選の道はありません。現職であるトランプ氏に配慮していた各国首脳も、それを受けバイデン氏に祝辞を贈っています。

その2日後に発表されたトランプ政権最後となる為替報告書では、まず新型コロナウイルスの世界経済への打撃に言及しています。そのうえで、各国は通貨安による貿易の恩恵を受けるのではなく、内需主導で成長を目指すべきと指摘。スイスとベトナムを操作国としたほか、監視対象国に日本、韓国、ドイツ、イタリア、シンガポール、マレーシアなど常連国にタイと台湾、インドを加えました。

仮にトランプ氏が再選されていれば2期目の通貨政策として大きな注目を集めていたはずですが、レームダック政権による指摘に各国の反応は冷ややかでした。スイス国立銀行(中央銀行)は為替操作を否定したうえで、物価の安定を維持するため今後も「より強力に介入する」とはね付けました。また、タイ中銀も貿易や投資への影響は限定的とし、政策方針の変更には否定的です。

トランプ政権下での為替報告書は通貨政策の指針というよりも、政治的意図を含む声明のようでした。それをよく表したのが2019年8月、中国を「為替操作国」とした報告書です。米中貿易戦争が激化し、その流れで中国が人民元相場の節目としてきた1ドル=7元台までの下落(ドル高・元安)を容認すると、中国は自国貿易が優位になるよう為替相場を不当に操作しているとしました。

為替報告書は米財務省が通常、毎年4月と10月に公表する主要貿易相手の通貨政策を分析したレポートで、(1)大幅な対米貿易黒字、(2)大規模な経常黒字、(3)一方的な為替介入、などを為替操作国の条件に挙げています。中国がその時点で明確に満たしたのは貿易黒字額ぐらいでしたが、それでも「操作国」としたのは2016年の前回大統領選での公約だったためで、今年1月の報告書ではそれを解除しています。

トランプ政権下の報告書が一貫して訴えてきたのは、「ドル安政策の邪魔をするな」ということ。今回の報告書は、脅威とは思えない国々も含む貿易相手国の意図的な通貨安政策で「アメリカ・ファースト」が実現できなかったとの「言い訳」にも読めます。もっとも、すでにドル安へ傾いていることが反応薄の要因かもしれません。バイデン政権の発足でドル安政策が受け継がれるにしても、報告書はどう変わるでしょうか。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

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