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2024年、長期投資家は「悲観で買え」。株価下落率ランキングから発掘した上昇銘柄3選=栫井駿介

2024年がはじまりました。今年は新しいNISAも始まり、多くの個人投資家の方が心機一転「頑張ろう」と思っているのではないでしょうか。投資をやるからには、良い企業に、良いタイミングで投資したいですよね。しかし、特に難しいのが「タイミング」です。特に短期の株価の動きは「ランダムウォーク」と呼ばれ、予測するのは困難を極めます。動きがハチャメチャな株価に対して、私たちはどのように買う(または売る)タイミングを決めたら良いのでしょうか?一つの方法としては、相場に対するシナリオを持つことです。株式市場は実体経済とリンクする部分が少なからずあり、景気の見通しを読み取ることでその先の展開を考えます。そういうわけで、私もいちおう2024年のシナリオを考えたりします。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

2023年相場を振り返り

2024年のシナリオを考える前に、2023年の動向を簡単に振り返っておきましょう。

2023年は、年初から「今年は景気後退が来る」と言われていました。特に米国では、コロナ後の「ペントアップ需要」(消費を抑えた反動)が一服し、さらにインフレが重くのしかかることから、景気後退待ったなしと多くの投資家が考えていました。

景気後退のサインとも言える金利の「逆イールド」(短期金利が長期金利より高くなること)が発生し、数値的にもその確度が高まっていたのです。

出典:Bloomberg

しかし、結果的には「思いのほかしぶとかった」というのが2023年でした。予想した景気後退は訪れず、証券会社のアナリストは景気後退予測を後ろずらしにしてきました。景気が強かった背景としては、個人消費とそれを支える雇用(賃金)の状況が良好だったことが挙げられます。

もっとも、景気後退は「後ろズレ」しただけで、その可能性がなくなったわけではありません。強い雇用や賃金上昇の要因は、コロナ禍で一旦職を離れた人たちがなかなか戻ってこなかったことが挙げられるのですが、2023年後半の労働参加率(15歳以上人口といった生産活動に参加できる人のうち、実際に働いている人と仕事を探している人の割合)はコロナ前に戻りつつあります。

米国労働参加率(出典:Investing.com

労働力が十分に供給されるようになれば、やがて賃金の上昇は止まり、個人消費が停滞することが考えられます。そうなると、いよいよ景気後退がやってくるというわけです。

ただし、景気後退を前提としたとしても、株価の動きを読むのはなお困難を極めます。

2024年、市場は景気後退を期待している?

2023年の年末にかけて米国の株価は上昇しました。これは、FRBが景気後退を警戒して早期に金利を引き下げるのではないか、という観測が広がったためです。

単純化しすぎるのは望ましくはありませんが、一般的に金利が下がると株価は上昇します。そして、株価は常に半年後を織り込みにいきますから、足元の好調な株価はもはや金利の下げをおねだりするような展開となっています。

すなわち、ややおかしな話ではありますが、市場はどちらかと言うと景気後退(とそれによる金利引き下げ)を期待しているのですね。

なお、ここまでは米国株の話でしたが、日本株も基本的には米国株の影響を受けるので、そう大きくは違わないでしょう。

ただし、米国の金利が下落すれば、これまで円安の要因となっていた日米金利差が縮小に向かいます。円安は日本株の上昇要因となっているため、円高になるとしたら日本株の動向は警戒しなければならない局面かもしれません。

未来が分からないなかで、投資家が考えること

ここまで、2024年のシナリオを見通してきましたが、結局未来の予想などあてにならないのが株式投資の世界です。

2023年は大方の予想に反して景気後退に陥らなかったことが経済予測の難しさを物語っていますし、まして起きた事象に対して株価がどう反応するかを予測するなどますます困難です。

2020年のコロナ・ショックの際も、一体誰が新型のウイルスが世界経済を大きく変えることなど想像したでしょう?そして、その後株価が急落したかと思ったら数カ月後にはバブルに踊ることになるなんて…。

要するに、未来は予測不可能なことばかりです。したがって、私たちが取れる対処法としては、以下の2点になります。

1. 少しでも予測可能性の高いものについて考える
2. 予測ではなく、起きた事実に適切に対応する

少しでも予測可能性の高いものとして、私は「企業の業績」と考えます。もちろん、今期の業績予想を正確に予測したり、10年後の売上や利益を言い当てたりすることは株価を予想するのと同じくらい難しいです。

しかし、少なくともその企業が「成長しているかどうか」くらいはわかるのではないでしょうか。だから、成長している企業を、無理のない価格で買う、ということが投資家としてやるべき基本事項となるわけです。

Next: 2024年、長期投資家は何を買うべき?「悲観で買うこと」の確実性



「悲観で買うこと」の確実性

そして、「起きた事実に適切に対応する」こととして確実性の高いことが「悲観で買う」ことです。

前頁の(1)「少しでも予測可能性の高いものについて考える」とも関連しますが、どんな相場や企業でも時に予想外の出来事に襲われます。すると、株価は往々にして過剰反応してしまい、本来あるべき価格より低い水準まで下がってしまうことが珍しくないのです。

この過剰反応は、どんな時代でも起きていることです。だからこそ、予測できない株式市場の中でも普遍的に「悲観で買う」という法則が浮き上がってきます。

ウォーレン・バフェット氏も「私たちが買いを入れるのは他の投資家がレミングのごとく一斉に売りに傾くとき」と言っています。

すなわち、シナリオにない予想外の出来事が起きたときこそ、本当の意味でのチャンスなのです。したがって、当たりもしないシナリオを描くことは無意味ではなく、何が想定できて、何が想定できないのか。ここを分けて考えるだけでも、冷静な投資を行う上ではとても大切なことになるのです。

2023年、最も「悲観された」セクターは?

「悲観で買う」方法として、コロナ・ショックのような予想外の出来事を待つのも良いですが、それがいつ来るかはそれこそ誰にも分かりません。ひたすら待っていたら、株価はあれよあれよと上昇し、ただ指を咥えて見ているだけという人を、これまでたくさん見てきました。

予想外の出来事を待つ前に、私たちの目の前にはすでに悲観にあふれているものがあります。例えば、2023年の下落率ランキングを見れば、どんな銘柄が悲観に溢れているか、一目瞭然です。この中から、本当に良い銘柄を見つけ出せれば、リスクを下げつつ良い銘柄を購入できるはずです。

「そうは言っても、下落トレンドの銘柄を買っても良いことなんてないんじゃないか…」と思ってしまいそうですが、期間を長く取れば心配することはありません。

例えば、下記の表は年ごとのセクターごとの株価変化率をランキング形式にしたものです。これを見るだけでも、それまで悲観されていたセクターが急に盛り返す、ということが珍しくないことがおわかりいただけるはずです。

出典:NEXT FUNDS

本稿執筆時点(2023年12月26日時点)で、この1年の上昇率が高いのが上から順に「精密機械」「海運」「鉄鋼」となっています。逆に、下落率が高い順では「電力」「医薬品」「繊維」となっています。

出典:株マップ

下落率が高い業種の中で、「医薬品」などは長期的なテーマとして取り組みがいがありそうですね。

Next: 下落率ランキング上位「日本M&Aセンター」や「エムスリー」は買いか?



下落率ランキング上位「日本M&Aセンター」や「エムスリー」はどうか?

それでは、個別銘柄はどうでしょうか。時価総額1,000億円以上の企業の1年間の下落率ランキングは、以下のようになります(2023年12月26日時点、出典:みんかぶ)。

住友ファーマ(4506):▲55%
日本M&Aセンター(2127):▲52%
東邦チタニウム(5727):▲37%
チェンジHD(3962):▲36%
エムスリー(2413):▲36%
日本新薬(4516):▲35%
ヤマハ(7951):▲34%
ミルボン(4919):▲34%
そーせい(4565):▲34%
IHI(2587):▲31%

この他、有名企業では資生堂(4911):▲31%、タカラバイオ(4974):▲30%、ヤクルト(2267):▲30%などが並びます。

総じて見ると、セクター別でも厳しかった医薬品銘柄が並んでいますし、同時に成長株として名高かった日本M&AセンターやチェンジHD、エムスリーも名を連ねています。

中には、業績はしっかりと伸びているのに、株価は必要以上に下落しているように見える企業もあります。もしかしたら来年、再来年の大化け株になるものも出てくるかもしれません。

<日本M&Aセンター>

例えば、日本M&Aセンター。M&A仲介会社最大手であり、業績も好調。しかしながら、不正会計や幹部の大量離職などが報じられ、2023年3月期はついに減益に転換。成長株への逆風もあり、株価は1年で半分になってしまいました。

日本M&Aセンター 通期業績推移(出典:マネックス証券)

足元の業績も減益傾向が続いていますが、業績改善に向けた努力が続いています。経営が安定し、減益が落ち着きを見せれば復活はあるかもしれません。

<エムスリー>

エムスリーに関しても、少し下げすぎかなという印象があります。一時的な要因を除けば増収増益傾向が継続していますから、日本M&Aセンター以上に悲観すべき状況でもないように見えます。

エムスリー 通期業績推移(出典:マネックス証券)

リスクとしては、成長率が鈍化し、M&Aに依存する体質になってしまっていることでしょう。従来のMRくん、m3.com1の運用というシンプルなビジネスモデルが複雑になってしまっていることも、判断を難しくしているように見えます。

<日本新薬>

医薬品銘柄では、日本新薬を取り上げます。明確にこれといった下落要因が見当たりません。同社は新薬開発に特化した企業で、泌尿器科や血液内科、難病・希少疾患領域に強みを持ちます。

日本新薬 通期業績推移(出典:マネックス証券)

新薬開発は、開発における成功率の低さと、特許切れの問題がつきまといます。日本新薬も今後数年で特許切れを迎える肺動脈性肺高血圧症治療剤「ウプトラビ」の特許切れに伴う売上減が懸念されていますが、同時に新たな柱となるべき新薬の開発を続けています。新たな柱を見つけられれば、大きな反発も期待できるかもしれません。

Next: 2024年、投資で成功するには?重要なのは「良い企業」を見極めること



本当に重要なのは、良い企業を見極めること

本稿では、「悲観は買い」をテーマに、いくつかの銘柄を見てきましたが、私たちが実践する長期投資で本当に重要なのは「いつ買うか」より「何を買うか」です。

良い企業に投資していれば、どんなタイミングで買っても最終的には報われる。その中で心がけるべきは、どんなに悪い時でも見込みが大きく外れていない限り持ち続けること。できれば、少しでも買い増しを行うことで最終的に多くの株数を保有することが、資産を増やす上では鍵となります。

つまり、最優先すべきは企業を見極めることで、エッセンスとして少しでもタイミングの要素が図れれば良いわけです。新しいNISAもはじまった2024年、投資家として成長したいと思う人は、ぜひ私が代表を務めるつばめ投資顧問の門をたたいてみてください。皆さんの投資人生に幸あれ!


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image by:Standret / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2024年1月3日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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