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日高屋、なぜ業績が急回復?サイゼリヤと並ぶ前年比2割増の客数増加率となった当然の理由=山口伸

低価格のラーメン・中華料理チェーン店「日高屋」を展開するハイデイ日高<7611>の業績が急上昇している。コロナ禍では業績が悪化したものの今期は売上高470億円を見込んでおり、以前の422億円を上回る勢いだ。とはいえ店舗数は増えておらず、1店舗当たりの売上が伸びた形だ。客足の回復が主要因だが、他の飲食チェーンと比較してもその伸び率は著しい。日高屋がアフターコロナで躍進する理由についてまとめてみた。(山口伸)

プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。

関東の駅前一等地に進出、「ちょい飲み」で稼ぐ

日高屋は1973年に現在のさいたま市で創業した「来来軒」をルーツとする。当初は大宮を中心に出店し、93年に「らーめん日高赤羽店」で東京進出を果たした。同年に20店舗体制となり、98年に現社名の「株式会社ハイデイ日高」に社名を変更した。

現在の主力ブランドである「日高屋」を立ち上げたのは2002年のことで、同年に全店100店舗を突破し、2005年にはセントラルキッチンとして行田工場を稼働させている。

2000年代の成長が著しく、08年に200店舗を超え、12年には全店300店舗体制となった。原則として全店直営店で運営しており、直近の24年2月期第3四半期時点で445店舗を展開する。そのうち「日高屋」は412店舗と9割以上を占める。

日高屋は東京・神奈川・埼玉・千葉など関東に出店しているため、規模の割に全国的な知名度は高くない。関西の人にはあまり知られていないという。

「駅前繁華街一等地立地戦略」を基本戦略としており、その名の通り主に駅前に出店し、乗降客数の多い駅では東口・西口など両出口に店を構えることもある。そして駅前立地を活かし、昼・夕食時だけでなく帰りがけの会社員による「ちょい飲み」需要も開拓してきた。一品、麺類、ビール1杯で1,000円前後に抑えられるお店は他に都内でも珍しい。

コロナ禍では基本戦略が足かせに

だが、駅前立地そしてちょい飲み客を狙うという戦略が、コロナ禍ではマイナスに働いてしまう。外出自粛やテレワークの導入で駅前人口が減ったほか、緊急事態宣言期間中には酒類提供を自粛したこともあり、食事客とちょい飲み客の両方が減ってしまった。

コロナ禍以前と比較して客数が半減以下になった月もあったようだ。2020年2月期から23年2月期まで業績は次の通り推移している。

売上高:422億円 → 296億円 → 264億円 → 382億円
営業利益:41.0億円 → ▲28.0億円 → ▲35.2億円 → 6.2億円
日高屋店舗数:402 → 393 → 404 → 405

ハイデイ日高 <7611> 業績(SBI証券提供)

以前よりテイクアウト・デリバリーにも対応していたが、相性の悪い麺類ということもあり減少分を補うほどにはならなかったと見られる。

Next: 今期は以前を上回る勢い…なぜ客足が急激に戻ったのか?



今期は以前を上回る勢い

上記の通り23年2月時点で業績回復は道半ばに見える。

だが今期24年2月期は、第1四半期時点で前年の約4割も売上が伸び、第3四半期時点でも30%の増収幅を維持している。通期の売上高予想も当初の440億円から470億円へと上方修正しており、コロナ禍前の19年2月期、20年2月期を上回る勢いだ。

とはいえ第3四半期時点の店舗数は412店舗と以前より規模が拡大したわけではないため、1店舗当たりの売上が伸びていることになる。

値上げの影響もあるが、客数の伸び率が著しいことが増収の主要因である。

2023年度における客数の前年比増加率を比較すると王将や幸楽苑などのラーメンチェーンが10%以下に収まるのに対し、日高屋は約2割である。他業態と比較しても吉野家、松屋などの牛丼チェーンも概ね10%未満だ。一方でコロナ禍では好調だったファストフードや回転寿司チェーンはむしろ前年比で下回る月もある。

このように業態問わず、外食チェーンの中でも日高屋の客数増加率は大きいことが分かる。ちなみに日高屋と同じく客数が前年比で2割ほど増えたチェーンとして「サイゼリヤ」があげられる。

物価高でも安さをキープしたことが要因

日高屋の集客力が特に高い理由は、やはり安さにあるだろう。

日高屋には700円以下で食べられるラーメンが多く、同じく関東に出店する餃子の王将も700円以下のラーメンを取り揃えているが、セット価格で比較すると日高屋に軍配が上がる。ラーメン、餃子3個、丼ぶり(小)の3点セットを1,000円以下で提供する店舗もある一方、他のラーメンチェーンで同様のメニューを頼もうとすると1,000円を超えてしまう。量を求める男性客にとって日高屋は魅力的だ。

また、麺類ではなく定食で比較すると日高屋のメニューは800円以下であり、900〜1,200円台の大戸屋、750〜1,100円台のやよい軒と比較しても安い。駅前に立った消費者がとにかく安く食べたいと思えば、日高屋が第一候補となるのではないだろうか。

ちょい飲み需要の回復も客数増につながっているとみられる。最近ではコロナ禍以前のように、男性客が一人で飲む様子もみられるようになった。ビールは340円、ハイボールは320円と日高屋の酒類は他の居酒屋やファミレスと比較しても圧倒的に安く、コロナ禍以前と同様に1,000円前後でちょい飲みができるのは日高屋しかない。

原材料費や燃料費の高騰で外食チェーン各社の値上げが相次いだが、日高屋は値上げをできるだけ抑えた。物価高でも安さを維持し、相対的な安さが際立ったことで今期は特に消費者に選ばれるようになったと考えられる。

Next: 「ハイデイ日高」株は買いか?首都圏600店舗の目標達成も遠くない



首都圏600店舗の目標達成も近い?

昨今、外食において消費者は値上げを受容するようになったと言われている。だが所得次第では厳しい状況にある消費者も多く、日高屋は今後も価格面でシビアな消費者層に欠かせない存在であり続けるだろう。

ハイデイ日高 <7611> 週足(SBI証券提供)

ハイデイ日高は26/3期末までに500店舗、長期では首都圏600店舗を目標としているが、このまま安さをキープできれば目標達成は近いかもしれない。

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image by: Morumotto / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年2月2日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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