不動産業界の各社が「住みたい街ランキング」を発表していますが、見事にバラバラです。いったいどれを参考にすればよいのでしょうか?その答えを教えます。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)
※人気の街に住みたい、マイホームを買いやすく穴場の街など「目的別どのランキングを見ればよいか まとめ表」を先に確認したい方は、下記リンクをご覧ください。
●どの「住みたい街ランキング」を見ればいいい? 発表各社の特徴を踏まえた目的別まとめ表
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。合間の不動産投資で資産1億円を達成し独立。年間100件以上行う現地調査の情報と高い問題解決力で、顧客ごとに戦略策定から実行までを一貫してサポートしている。著書に『確実にもうけを生み出す不動産投資の教科書』(明日香出版社)、『誰も教えてくれない不動産売買の教科書』(明日香出版社)、『売れない 貸せない 利益が出ない 負動産スパイラル』(清文社)がある。
「住みたい街ランキング」どう見ればいい?
あなたにとって住みたい街、住みやすい街はどこですか?
人々が思い描く、住みたい街、住みやすい街、あこがれる街とはどこだろうか?そんな素朴な疑問を形にしたのが、住みたい街・住みやすい街ランキングです。
この住みたい街ランキングは不動産業界におけるちょっとした風物詩として毎年発表されています。主にSUUMOやホームズなどの不動産ポータルサイトや業界最大手のサブリース業者であるいい部屋ネットの大東建託、マンションデベロッパーの長谷工、そしてフラット35などの融資を行うARUHIなどがそれぞれ独自の視点からランキングを調査・発表しています。
賃貸に住むのか、マイホームを購入して住むのかにもよりますが、せっかく新しい家を探すのであれば、より良い環境に住みたいと願うのが人というものです。そのより良い環境を知るために、各社が発表するランキングを参考にしたいと思う人は少なくないでしょう。
しかしながら、各社のランキングを参考にする際には、注意も必要です。というのも各社のランキング結果はかなりバラバラだからです。
たとえば、首都圏の住みたい街ランキングを見てみると、ポータルサイトのSUUMO及び長谷工アーベストの1位は横浜ですが、ホームズでの1位は池袋・勝どき、いい部屋ネットの大東建託の1位は東京都港区、ARUHIの1位は川口となっているからです。
いや、どこも住みやすいことは確かなんですが、どうしてこんなに結果がバラバラなんでしょうか。せっかくランキングが発表されているのに、これではどの情報を信用していいのかさっぱりです。
ということで、独自に各ランキングについて分析しました。どうしてランキング結果がバラバラなのか、どういう人がどういう目的でランキングを見ればよいのか“まるわかり”にしてみます。
ランキング結果がバラバラな理由(1)~ランキングの目的が違うから
同じランキングでも、その目的が異なれば、当然、調査結果も変わってきます。
たとえば、予算も何も関係なく、住みたいという“憧れ”を調査の目的としているものと、現実的な予算制約のもとで手の届く範囲で住みたいという“現実”を調査の目的とすれば、答えは全く異なることは誰の目にも明らかです。
とくに賃貸での住みたい街と、マイホーム購入での住みたい街では、購入する世代も目的も予算制約も大きく異なってきますので、結果が違って当然です。
また、“住みたい”という憧れを調査するのが目的なのか、実際の“住み心地”を調査するのが目的なのかによっても当然、結果は異なってきます。
ですので、参考にする際は、自分が知りたいことは他者の“憧れ”の街に住みたいのか、実際に“住み心地”が良いところに住みたいのか、賃貸なのか購入するのかによって使い分けなくてはならないでしょう。
Next: あなたにとって有益なランキングは? 集計意図を汲み取って活用を
ランキング結果がバラバラな理由(2)~調査している街のメッシュの細かさが違うから
同じ“住みたい街”でも、調査しているメッシュが細かければ細かいほど、票が分散して順位が変わります。この影響が顕著に現れているのが、住みたい街と駅と自治体の違いです。
同じSUUMO内の調査でも、住みたい“街”というおおまかなメッシュでアンケートを取ると「横浜」が1位になりますが、住みたい“自治体”という細かなメッシュでアンケートを取ると「東京都港区」が1位になっています。
自治体関係なしに横浜市中区でも西区でもよければ、横浜に得票数が流れるものの、細かな自治体ごとに分けると横浜ではなく東京都港区が勝ってしまったということでしょうか。
国政選挙でいうところの、小選挙区だと1位になる人が東京都港区で、中選挙区や比例代表などで1位になる人が横浜といったイメージです(うん、わかりにくい例えです…)。
いい部屋ネットの大東建託のランキングでも住みたい街(駅)ランキングだと1位は「吉祥寺」、2位は「横浜」となっており、SUUMOの調査と近い結果となっていますが、住みたい自治体ランキングだと「東京都港区」が1位になるのです。
ランキング結果がバラバラな理由(3)~調査手法が異なるから
おそらく結果が異なる最も大きな理由は、調査手法が異なるからだと思います。
各社はそれぞれ結構違った調査方法を用いてランキングを作成しています。具体的には3つの方法に分かれます。
<1.アンケート調査>
社会科学的にオーソドックスなやり方がこの「アンケート調査」です。各項目の設定や母集団の調整など、偏りが出ないように工夫する必要がありますが、最も科学的な方法です。
今回調べてみた中では、いい部屋ネットの大東建託、SUUMO、長谷工アーベストはこのアンケート調査による分析を行っていました。
特にいい部屋ネットの大東建託は約19万件の回答を各自治体の人口比に割振るとともに、詳細な調査項目などを明示しており、極めて中立的な調査であったことがわかります。住みここちランキングについては実際に居住している場所についての回答のため、居住者の本音が反映されています。
SUUMOは約7,000件、長谷工アーベストも2,775件のアンケートを基に分析しており、調査件数としてはまずまずといったところです。調査手法として非の打ちどころがない方法だと思います。
<2.検索・問合せ数からの算出>
大手不動産ポータルサイトのホームズは自社のサイトにて検索・問合せされた数をもとにランキングの作成を行っていました。
検索数などは、実際に引越しをする人や不動産を購入する人が具体的に調べている内容ですのでかなりの数であり、全量で分析しているとしたら、調査数としては最も多いと思われます。
しかし、一人の人がいくつものエリアを検索したり、仕事などで否応なしにその街を検索したりと、調査の目的に合わないノイズが含まれてしまうことが想定されます。
ポータルサイトを検索する人は、住みたい街を検索しているのではなく、仕事などで引っ越す先を検索しているのですから、検索数と住みたい街との相関性は必ずしも高くないと言えます。
<3.住宅ローン利用数、審査員方式>
住宅ローンのARUHIが行っている「本当に住みやすい街大賞」はかなり独特で、住宅ローン利用数と審査員の評価によるランキングとなっています。
※参考:「本当に住みやすい街大賞」、前回2位の赤羽はなぜランキング圏外になったのか(櫻井幸雄) – 個人 – Yahoo!ニュース(2020年12月15日配信)
こちらの記事にもあるように「手が届く範囲での住みたい街」のランキングという側面が非常に強いものになっています。
科学的手法としてはかなり偏りが出るやり方です。というのも大規模マンションや戸建の分譲が一気に増えた街は、候補にノミネートされやすく、分譲が終わると急激にランキング外に落ちてしまうからです。
また、本当は住宅の価格が安く、家を購入して住みやすいエリアだったとしても、すでに大規模開発をする余地がなく小規模な開発しかされないエリアはノミネートすらされないという問題を抱えた調査手法です。
まぁ、そういった定量的に分析できない問題をカバーするための審査員方式なのかもしれません。
「本当に住みやすい街大賞」と銘打っていますが、住みやすさと家が売れているということの相関性は必ずしも高くないという意味では、科学的手法としてはちょっと弱いなぁと思います。
どちらかというと住みやすい街ランキングではなく、家を売りやすい・買いやすい街ランキングというのがネーミングとしてはしっくりきます。
・SUUMO:アンケート数7,000件
・ホームズ:検索・問合せ数から算出
・大東建託:アンケート数 約19万件、各自治体の人口比に合わせて調査
・長谷工:アンケート数2,775件
・ARUHI:住宅ローン利用数、審査員方式
Next: 各社のスタンスが一目瞭然。「住みたい街ランキング」まとめ
各社の住みたい街ランキングまとめ
各社が出している住みたい街ランキングをその調査の正確性(調査データと分析結果との相関性の高さ)及び、理想・イメージ重視なのか、現実・予算重視なのか、調査規模(アンケート数等)をプロットすると下図のようになります。
調査手法がより正確でデータと結果との相関性が高いのが、いい部屋ネットの大東建託及び、SUUMOの調査になります。
いい部屋ネットやSUUMOの住みたい街ランキングでは、家賃や不動産価格の安さといった現実的な項目も調査されているものの、かなり理想・イメージを重視した内容となっています。
一方、いい部屋ネットの街の住みここちランキングやSUUMOの住民に愛されている街ランキングは、実際の居住者に対する調査であり、かなり現実的な意見が反映されていると思われます。
また、SUUMOの穴場だと思う街ランキングは家賃や不動産価格が安めのエリアも選定されており、より現実・予算重視な内容となっています。
長谷工アーベストの調査は件数そのものがいい部屋ネット及びSUUMOよりも少ないが、23区内調査だと理想・イメージ重視が強いが、県別や東京市部のランキングではより現実的な結果となっています。
ホームズのランキングは借りて住みたいランキングの方がより現実的な結果となっており、買って住みたいランキングの上位には理想・イメージが多い結果となっているものの、調査データと住みたい結果との相関性にやや疑問が残るランキングです。
ARUHIの本当に住みやすい街大賞については、そもそもの母集団が大量に分譲されているエリアという偏ったものからスタートしているため、統計的な手法としては正しくありません。
ただし、「住みやすい」という調査目的に対して、データとの相関性が低い(というか母集団に偏りがある)という点を、審査員制度によって補っており、現実問題として限られた予算内でマイホームを買いやすいエリアはどこかを知るには最も適しているでしょう。
要はランキングを漠然と見るのではなく、目的意識に沿って、見るものを変えていく必要があるわけです。
Next: どのランキングを見るべきか?目的別まとめ
どのランキングを見るべきか?目的別まとめ
そんなわけで、目的別にどのランキングを見るべきかをまとめました。
まず、人から憧れられたい!そんな街に住みたい!という人は、いい部屋ネットの大東建託が発表している「住みたい街・駅・自治体ランキング」を見ましょう。
次に、予算はいくらでもいいから、とにかく住みここちのよい街を知りたいという人は、いい部屋ネットの大東建託の「町の住みここち自治体・駅ランキング」やSUUMOの「住民に愛されている街ランキング」を見ましょう。
そうはいっても、限られた予算の中で住みやすい街を知りたい人はSUUMOの「穴場だと思う街ランキング」を見ましょう。
そして、直近で物件の供給数が多くてマイホームが最も買いやすい街を知りたい人は、ARUHIが発表している「本当に住みやすい街大賞」を見ましょう。本当に住宅ローンを利用している人が多い街が上位にきているので、近所に同世代の家庭が多いなどある意味で本当に住みやすい環境を築くことができるかもしれません。
最後に、ランキング上位の街に住めなくても、どこに住んでも、結局は住めば都と言いますので、まぁあまりランキングにこだわりすぎず、楽しんで家さがしをしてくださいね。でわでわ。
参考サイト
<SUUMO>
住みたい街(駅)ランキング
住みたい自治体ライランキング
住民に愛されている街ランキング
その他のランキング
https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/sumai_nyumon/data/sumimachi2020kantou_eki/
<ホームズ>
買って住みたい街
借りて住みたい街
買って住みたい行政区
借りて住みたい行政区
https://www.homes.co.jp/cont/s_ranking/shutoken/
<いい部屋ネット>
街の住みここち 自治体ランキング
住みたい街 自治体ランキング
街の住みここち 駅ランキング
住みたい街 駅ランキング
https://www.eheya.net/sumicoco/
<長谷工アーベスト>
https://www.haseko-urbest.com/about/files/new/20200918_hubsyutoken.pdf
<ARUHI>
本当に住みやすい街大賞2021ランキング
https://www.aruhi-corp.co.jp/cp/town_ranking/kanto/
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年1月12日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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