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米新政権は「強いドル」継続【フィスコ・コラム】

バイデン米政権の始動を受け、当面の政策運営が注目されています。このうち、通貨に関しては建前の「強いドル」を表明していません。ドル安志向には否定的なスタンスのようですが、現時点で明確な方針が示されていないのも事実です。

年明け直後の1月5日に行われた米ジョージア州の上院議員選で民主党候補が2議席を制し、「ブルーウェーブ」確定でドルの形勢が変わりました。バイデン政権による大幅増税はさておき、大型投資による成長戦略への期待感が高まります。また、国債増発観測で米10年債利回りが持ち直し、株高・金利高を手がかりにドルは上昇基調に振れました。ドル指数も2年弱ぶりの水準から戻しつつあります。

ただ、その後30年債などの好調な国債入札で長期金利は失速。10年債利回りは1%台を維持するものの、株高・金利高・ドル高の地合いは崩れました。バイデン大統領の就任でNY株式市場がご祝儀相場に振れるなか、ドルはリスクオンの売りが優勢になりました。その後、1月26-27日の連邦公開市場委員会(FOMC)はハト派姿勢でしたが、株価に振らされ方向感の乏しい値動きとなっています。

新政権の発足に先立つ1月19日、就任前のイエレン財務長官が指名承認に向けた議会公聴会に出席。注目された通貨政策に関し、競争上有利となる「弱い通貨を目指すことはない」と明言しました。そのうえで、諸外国におけるそうした動きも「認めるべきではない」と発言。つまり、トランプ前政権が試みたドル安政策を否定したかに見え、さらに通貨の価値は市場で決まると指摘しています。

グローバリズムに反対だったトランプ政権の裏返しで、バイデン新政権はグローバリゼーションを進める方針です。イエレン発言の後段は、通貨安競争に否定的なG20の考え方に沿ったもので、ファンダメンタルズを反映した市場の決定に委ねるべきとの基本理念が示されました。本音と建て前は別として、世界をリードする立場であるアメリカの財務長官として模範解答と言えます。

しかし、弱いドルを目指さないとはいえ、1990年代から聞かれる「強いドルは国益」とは述べていません。毎度お馴染みのこのフレーズは、ドルが基軸通貨である限り、わざわざ切り下げて価値を低下させるようなことはしない、という姿勢を表しています。新型コロナウイルスのまん延によるパニックが金融市場で広がった昨年春先、市場参加者のドル買い狂騒曲は基軸通貨としての存在感を改めて見せつけました。

振り返ってみると、ドル安志向を目指したとされるトランプ前大統領も、景気が回復すれば(自然に)ドル高になるとも指摘していました。財務長官を務めたムニューシン氏が思い出したように「強いドル」に言及したことで、基軸通貨としての地位を保っていたのでしょう。連邦準備理事会(FRB)の緩和的な金融政策でドル安に振れていますが、トランプ政権は「強いドル」政策を踏み外さなかった、と言えるかもしれません。

もっとも、今後の米国経済の回復に沿って足元のドル安は修正される見通しです。今後どのようなタイミングでイエレン氏が「強いドル」と口にするのか、注目されそうです。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

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