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行き着く先は日銀破綻?マイナス金利政策のコスト負担という大問題=斎藤満

日銀やECBのマイナス金利策は、債務者には恩恵をもたらしている一方で、個人や年金基金など、貯蓄、資産運用を行う側の人々には、大きな打撃を与えています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

日銀4月追加緩和なら、貯蓄・資産運用を行う側に大きな打撃

マイナス金利のコストを誰が負担するか?

先週ワシントンで開かれたG20では、日本の「偏った円高」に対し、米国などの理解を得られず、為替介入で抑えるのが困難となったため、今月開催される日銀の決定会合で、日銀が追加緩和に出て、円高に歯止めをかけるのではないかとの見方が広がっています。

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マイナス金利の拡大、ETFの買い増しによる株価押し上げ、熊本地震を受けた緊急資金供給などです。

このうち、日銀やECB(欧州中央銀行)によるマイナス金利策は、債務者には恩恵をもたらしている一方で、個人や年金基金など、貯蓄、資産運用を行う側の人々には、大きな打撃を与えています。

メリットを受ける側は良いとしても、マイナス金利によるコストを誰が負担するか、大きな問題になっています。

三菱UFJ平野社長、マイナス金利を公然と批判

先日、三菱UFJフィナンシャル・グループの平野社長が、日銀のマイナス金利策に対して、公然と批判しました。日銀当座へのマイナス金利はともかく、債券利回りの低下や貸出金利の低下で、金融機関の利益が大きく圧迫されている状況を訴えました。

預金金利の下げ余地がほとんどないだけに、運用利回りの低下がそのまま利ザヤ縮小となって銀行経営を圧迫します。

日銀当座預金の一部にマイナス金利を課す際には、銀行の負担が大きくならないように配慮したと言います。マイナス0.1%が適用される当座預金は10兆円から30兆円程度にすると言います。

その点、4月16日時点(マイナス金利適用から2か月)でのマイナス金利適用当座預金は29.7兆と、1か月前の22.3兆円から増加し、すでに30兆円ぎりぎりまで来ています。

その内訳は、信託銀行が11.5兆円、ゆうちょ銀などの「その他準備預金適用先」が11.4兆円、都銀2.1兆円となっています。30兆円の0.1%は年間300億円の負担となります。しかし、それ以上に運用利回りの低下が収益を圧迫します。

500兆円の貸出は、貸出金利が0.1%低下すると年5000億円の減収となり、500兆円の国債保有の金利収入も5000億円減ります。

このうち、国債については、金利が低下している間は、価格上昇で値上がり益が発生するので、減収効果は先送りされますが、これも日銀が高値で買い取ってくれる前提でないと持てません。

運用利回りの低下を預金者にマイナス金利で転嫁できればよいのですが、日銀総裁が預金金利のマイナスはないと言い、銀行も預金流出を考えると手を付けられません。

Next: 利ザヤ縮小に喘ぐ民間金融機関/TLTRO採用なら日銀の財務問題に



利ザヤ縮小に喘ぐ民間金融機関

ここまではマイナス金利のコストを一部預金者が利息減少で負担しているものの、ほとんどは民間金融機関が利ザヤ縮小で負担しています。

また生保など年金運用機関も、国債の利回りが10年債までマイナスとなり、外債などでより大きなリスクを取らざるを得なくなっています。

しかし、民間金融機関だけでなく、巨大な運用機関となった日銀やECB自身も、マイナス金利のコストを負担するようになっています。

日銀は民間機関からマイナス金利で国債を買い入れていますが、途中で売れなければ、満期に額面償還することで損失を出します。今までゼロ・コストの現金で資金調達し、国債などで運用して利益を上げていましたが、もはや利益は出ません。

おまけに、民間銀行に0.1%の金利を払っていれば、それだけ日銀の収益が圧迫されます。

1月に打ち出した「マイナス金利付きQQE」は、日銀の利益を圧迫する資産の買い入れを抑え、マイナス金利にしてコストの一部を民間金融機関に負担してもらおうと言う発想でしたが、予想以上に民間銀行から強い反発を受けました。

TLTRO採用なら日銀の財務問題に

先輩格のECBでは、大手銀行の経営悪化から、マイナス金利で民間金融機関に資金供給できるよう「TLTRO(条件付き長期低利資金供給)」を6月から実施します。

今は基準金利がゼロですが、これをマイナスにして銀行を救済しようと言う意図もあるようです。そして日銀もいずれこれを採用すると見られます。

これはマイナス金利策のコストを中央銀行自身が負担するものですが、今度は中銀の利益圧迫、財務問題が生じます。

日銀は当座預金の過半に0.1%の金利を払い、一方でマイナス金利の国債を年に80兆円も買い入れています。金利のついた国債が償還され、減ってゆくに従って、日銀の収益は悪化します。300兆円の国債が0.2%の損を発生すれば、6千億円の損失です。

日銀の広義の自己資本は6兆円強ですが、いずれ出口側で金利が0.7%上昇すると、資本が消えます。銀行への付利金利を上げれば、日銀は債務超過に陥ります。現在の日銀法では、日銀の損失を財務補てんできません。日銀の経営破たんとなります。

日銀の株価は2007年には17万円台をつけ、黒田日銀総裁就任に期待して10万円近くに反発しましたが、現在は3万7千円台です。

Next: ロンドンFT紙、マイナス金利による日銀の資産劣化を危惧



ロンドンFT紙、マイナス金利による日銀の資産劣化を危惧

ロンドンのFT紙は、マイナス金利によって日銀、ECBの資産が劣化することを危惧する記事を書いています。

マイナス金利によるコストを子分の民間銀行にだけ押し付けられず、親分の中央銀行自らも負担せざるを得なくなり、それが金融システムの不安になれば、何のためのマイナス金利策かわかりません。

黒田総裁は、そうならないためにも、少しでも早くマイナス金利付きQQEで経済を回復させ、正常な金融状態にすると言いますが、いつまでも実物経済に効果が出ない場合も、仮に効いて金利が上がる場合も、金融システムには大きな負担が生じます。

何とも無謀な賭けとしか言いようがありません。

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マンさんの経済あらかると』(2016年4月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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