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テスラの都合でビットコイン急落。暗号資産は3大欠陥により通貨にはなり得ない=矢口新

テスラがビットコイン決済の停止を発表したことで、暗号資産全体が大きく暴落した。イーロン・マスク氏の発言ひとつで暴騰・暴落を繰り返す暗号資産は通貨の変わりとなりうるのか?私は、3つの理由から暗号資産は通貨として成立しないと考えている。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2021年5月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

ビットコイン、またイーロン・マスク氏の発言で乱高下

テスラは5月12日、ビットコインを使った電気自動車などの購入手続きを一時停止したと発表した。マイニングで消費する電力を発電するために、化石燃料の使用が増えていることを懸念したためとしている。

同社CEOのイーロン・マスク氏は「暗号通貨は多くの面で良いアイデアであり、有望な未来があると信じているが、環境を犠牲にすることは許されない」とツイートしたとされる。ビットコインの価格は、ロンドン時間の13日未明の午前1時すぎに17%下落し、約4万7,250ドルをつけたと報道された。

実際、ビットコインの電力消費量はスウェーデンやマレーシアが1年間に消費する電力よりも多く、そのため安価な石炭発電を多用する中国で集中的にマイニングされているとされる。
※参考:Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index – CBECI

テスラ「ビットコイン決済停止」の理由に疑念

もっとも、マスク氏が、今さらながらにビットコインの環境問題に言及するのは胡散臭い。なぜなら、テスラ第1四半期の純利益は4億3,800万ドルと、四半期としては過去最高を記録したが、自動車メーカー他社が排ガス規制を満たすのに役立つ温暖化ガス排出枠の売却益が5億1,800万ドルだったからだ。

ビットコインの電力消費量については、かねてから環境への悪影響が指摘されており、ビル・ゲイツ氏などは大量殺人兵器に例えているほどだ。

またテスラ第1四半期の純利益は、2月に購入した15億ドル相当のビットコインを一部売却したことで、利益が1億100万ドル押し上げられている。この時は購入後しばらくしてツイートしたことで、ビットコイン価格は5〜6週間で3万ドル台から6万ドル台にまで急騰した。

テスラが同社の電気自動車購入の支払いに、ビットコインを受け入れると表明したのは2021年3月24日。5万ドル台前半にまで反落している時だった。

その発表を受けて価格は持ち直し、4月14日には6万5,000ドル近くにまで上昇した。

私はこれまでも当メルマガで何度も述べているように、ビットコインなどの暗号資産が通貨として定着するとは見ていない。その理由を以下に挙げる。

Next: 暗号資産が通貨として定着しない3つの理由



暗号資産が通貨にならない3つの理由

<通貨になりえない理由その1:システム全体のコストが高く、常に新規参入者を必要とする>

ビットコインはマイニングと取引の検証作業に絶えざる計算を必要とする性質上、常に膨大な電気代というコストがかかっている。

高スペックの機器や電気代のコストは多くのマイナーたちが負担しており、そのコストと労働に対する対価は仮想通貨で支払われている。

これは仮想通貨の価格が一定以下に下がると、膨大なコストを賄えないことを意味するので、誰かが常に新規発行量以上を買うことで、支えていなければならない。

つまり、ビットコインのユーザーは低取引コストの見返りに、大きな価格変動リスクを負っていることになる。

<通貨になりえない理由その2:価値が安定しない>

通貨が諸物品と常に交換できるのは、通貨の価値が安定しているからだ。各国の法定通貨の場合、他国通貨との変動率が短期間に2桁動くようなことがあっても、国内物価がそれほど動くことはほとんどない。そうしたハイパーインフレが起きる場合には、その国の経済が破綻状態にあることを示している。

しかし、ビットコインは毎日のように2桁変動することも珍しくなく、年間では数倍、十数倍にもなる。

仮にテスラのある車種が10万ドルとし、ビットコインが5万ドルの時に2ユニットの支払いを受けたとする。ところが、決算時にビットコインが1万ドルに値下がりしていれば、売上は2万ドルでしかない。あるいは、ビットコインが10万ドルになっていれば売上は20万ドルとなり、見かけ上の税引前利益が増えることになる。

また、テスラへの部品の供給先がビットコインでの支払いを受け入れなければ、ビットコインの売買損益はテスラ一社が被ることになり、決算の度に大きく損益が振れることになる。

<通貨になりえない理由その3:流動性がない>

仮想通貨は流動性に欠けている。取引所内で流通していることを除けば、現時点でモノやサービスの提供者が仮想通貨での支払いを受け入れていても、それがいつまで続くかの保証はない。

仮に商業取引で誰も受け取らなくなると、取引所の外では突然無価値になるというリスクを抱えている。

商店やメーカーが仮想通貨のように価格変動の大きなものを受け入れると、売上高や利益が大きく振れることになるので、一定量以上は受け取れないからだ。

また、現時点の取引所が470、仮想通貨の種類も7,200を超え、どちらも増え続けているので、個々のままでは流動性が増す可能性も限られている。その意味では、マイニングやトレーディングで仮想通貨に直接関わっている人以外には、使い勝手が甚だしく悪いと言わざるを得ない。

Next: 少数の保有者だけで価格変動を起こせる暗号資産



少数の保有者だけで価格変動を起こせる

バンクオブアメリカは3月17日、1億ドル以下の購入でビットコイン価格が1%動くとの調査結果を公表した。マスク氏のツイッターでは乱高下しているが、15億ドル分のビットコインを保有していたとすると、それだけでも15%以上動かせたことになる。

それどころではない、調査結果にあるように2.4%のアドレスで95%が保有されているとすれば、極めて少数の人の思惑で大きな価格変動が起きることになる。それでもビットコインは仮想通貨全体の4割ほどを占める流動性を誇っているのだ。

暗号資産の取引は値動きだけを見れば大儲けできるチャンスなので、大損するリスクを承知で挑戦するならば、何の問題もない。

しかし流動性のないものは、トレーディング・ツールとしても、個人投資家は極めて不利な状態にいることを認識していることが必要だ。

マスク氏はビットコインの受け入れ停止は一時的で、再開する可能性に言及しているが、過去にツイートでテスラ株で乱高下させた前例を鑑みれば、ビットコインの安値で受け入れを再開し、高値での停止を繰り返す可能性は否定できない。

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新刊情報:『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』

この記事の著者・矢口新さんの新著『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』(刊:Kindle Edition)が発表されました。65のグラフデータをもとに日本が衰退した要因を特定し、それを取り除くことで「日本が幸せになれるシステム」を提案しています。ぜひお手にとってご覧ください。

『日本が幸せになれるシステム』目次

まえがき:税収増が見込めない税制
第一章:日本を破壊した税制
1.税率を上げても増えない税収
2.消費税収は成長率、所得税収、法人税収とトレードオフ
3.消費税は経済成長を止めた
4.アベノミクスによる成長率はほぼゼロ
5.いざなみ景気の税収面での貢献はネガティブ
6.世界経済のミラクルは、日本から中国に変わった
7.アベノミクス、真の成果は?
8.雇用形態の変容
9.世界から乖離していく日本の実質賃金
10.名目賃金のターニングポイントも消費増税と一致
11.1997年から資金供給量は11.2倍
12.日銀は「物価しか見ていない」
13.銀行の預貸ギャップが290兆円に
14.マイナス金利政策の導入
15.アベノミクスは金利市場を破壊した
16.民間から政府への所得移転
17.物価の推移
18.消費増税でディスインフレに
19.消費税では社会保障費を賄えない
20.借金頼みの財政
21.消費税導入は法人税率引下げとセット
22.法人税率引下げで得たもの
23.赤字企業も急増
24.消費税は売上から天引き
25.所得税
26.個人住民税
27.One For All, All For Oneの虚実
28.格下げ
29.膨らむ公的債務残高
30.ギリシャやイタリアは緊縮財政
31.日本は113カ国中、113位
32.純債務残高でみると?

第二章:つくられた貧富格差拡大
33.つくられた貧富格差拡大
34.貧富格差の拡大は止められる!
35.日本の税収推移
36.日本の税収構造
37.デンマークの税収推移
38.デンマークの税収構造
39.スウェーデンの税収推移
40.スウェーデンの税収構造
41.OECD内32カ国の政府支出
42.日本、デンマーク、スウェーデンの財政収支の推移
43.主要国の所得税率の推移
44.世界の法人税率の推移
45.財政黒字の国は一握り
46.通貨の価値

第三章:崩壊前夜の社会保障制度
47.日本の公的社会保障支出
48.社会保障費の内訳と財源
49.高齢者の年金依存度
50.国民健康保険
51.1人当たり医療費
52.政府の教育支出
53.社会保障関係費の推移
54.国民負担率の推移
55.ダイヤモンドになったピラミッド
56.日本人の死亡原因
57.厚生労働省の見積もり

あとがき:衰退から繁栄へ

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image by:Naresh777 / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2021年5月17日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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