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燃費不正の三菱自動車は割安か?「逆張りバリュー投資」成功の条件=栫井駿介

三菱自動車工業<7211>が燃費を実際の数値より水増ししていたとして謝罪会見を開きました。同社は過去にも重大なリコール隠しが問題となり、一時は深刻な経営危機に陥っています。一方で、オリンパスのように、不祥事で株価が一時的に下落してから復活を遂げたケースもあり、バリュー株投資家にとっては大きなチャンスとも考えられます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

三菱自動車の燃費不正問題で投資家が注目すべき2つのポイント

燃費水増しは62.5万台

プレスリリースによると、軽自動車の『ekワゴン』『ekスペース』および日産自動車に供給している『デイズ』『デイズルークス』について燃費の水増しがあったということです。

表記上は1リットル30.4キロとなっていましたが、5~10%程度の水増しがあり、実際は1リットル30キロを割り込む水準だったと考えられます。4車種の販売台数は三菱自動車で15.7万台、日産自動車で46.8万台、合計で62.5万台に上ります。

10年以上経っても改善されない隠蔽体質

三菱自動車は日産自動車と軽自動車の開発・製造で提携を行っていますが、水増しが発覚したのは日産自動車からの指摘によるものです。水増しは当時の担当部署の部長指示ということで、意図的な改ざんであったことは明らかです。

外部からの指摘ではじめて発覚するということは、過去のリコール隠し問題にあらわれる隠蔽体質がいまだに残っていることを意味しています。

リコール隠し問題とは、2000年前後に三菱自動車を経営危機に追いやった事件のことです。同社は重大な事故につながる自動車の欠陥があることを知っていたにもかかわらず、多額の費用がかかるリコールを嫌って当局に届け出なかったのです。

問題が発覚した後も不十分な対応により隠蔽が続き、2002年にはタイヤの脱輪事故などで2件の死亡事故が発生してしまいました。これにより、当時の経営陣や法人としての三菱自動車は有罪判決を受けています。

信用の失墜により、三菱自動車の販売台数は激減しました。資本提携していたダイムラー・クライスラーからは財政支援を打ち切られ、巨額赤字の計上により債務超過寸前の状態にまで陥ります。

三菱グループである三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行の支援を受け何とか踏みとどまりましたが、それがなければ生き残るのは難しかったでしょう。

経営再健に合わせて、同社はコンプライアンスの改善に取り組んできたはずでした。2014年には三菱グループからの金融支援が終了し、まさにこれから攻めの戦略へ舵を切ろうとする矢先に起きたのが今回の事件です。2002年から不正が行われていたということで、問題の根深さが改めて浮き彫りになったと言えます。

Next: 日本撤退も選択肢!国内は風前の灯でも、海外で意外な人気の三菱自動車



国内は風前の灯でも、海外で意外な人気の三菱自動車

もはや国内自動車販売への影響は避けられません。三菱自動車と日産自動車は既に該当車種の生産・販売を中止しています。他にも水増しが行われていた車種がある可能性があり、ブランドイメージの毀損は免れないでしょう。

それだけではなく、購入者への補償などの対応も行わなければなりません。

同社は1970年に三菱重工の子会社として設立されました。最盛期には国内第4位の販売台数を誇りましたが、前述のリコール隠し問題により販売台数が激減し、現在では国内年間販売台数11万台、国内シェアは1.4%にまで低下しています。

しかし、会社全体を見ると、年間販売台数は約100万台、売上高は2兆円を超えています。業績を支えているのが海外事業で、売上高に占める割合は国内約2割、海外8割です。海外の中でも中国を含むアジアやヨーロッパ、中東やアフリカでも販売を伸ばしています。

日本ではほとんど利益が出ておらず、アジアやヨーロッパが稼ぎ頭となっています。

(出典:三菱自動車工業株式会社 アニュアルレポート2015)

アジアやヨーロッパで人気があるのは、近年人気を博しているSUV(スポーツ用多目的車)を得意としているからです。世界のSUV売上高は2000年から2014年にかけて約3倍に拡大しています。2013年に発売したプラグインハイブリッド電気自動車『アウトランダーPHEV』はヨーロッパを中心に好調な売上となっています。

フィリピンではトヨタに次ぐ知名度を誇ると言います。アジアや中南米などの成長市場に強みを持つことは、会社のこれからの成長に大きく影響してきます。会社の規模は違いますが、日本と北米で売上高の半分以上を占めるトヨタよりも成長性は評価できます。ラリーのイメージが強く、タフさが売りですから、道路事情の悪い新興国では強みを発揮するでしょう。

三菱自動車にとって、国内市場はもはや戦略上重要な市場ではなく、主戦場は海外です。会社の経営計画でも、国内での販売台数は縮小傾向となっています。今回の問題が国内にとどまるならば、海外市場の下支えにより企業価値は十分維持できると考えられるのです。

極論すると、ブランドイメージが完全に劣化した国内市場からは撤退したほうがいいとすら感じます。

Next: 三菱自は買いか?売りか?投資判断のカギを握る海外市場への影響は



投資判断のカギを握る海外市場への影響は

今回の燃費水増し問題が企業価値に与える影響は、以下の2点に集約されます。

補償金額で最も大きくなると考えられるのが、エコカー減税分の埋め合わせです。

実際の燃費が表示よりも少なかったことにより、該当車種のエコカー減税のカテゴリが変わる可能性があり、その差分を三菱自動車が埋め合わせるという報道も出ています。その金額は1台1~2万円とすると、62.5万台で100億円前後でしょう。

直近の純資産は約7,000億円、現預金は約5,000億円あります。一方、借入金は約300億円しかありません。100億円の補償を行うには十分すぎる体力があります。リコール費用を自力で払うことが困難な状況となっているタカタと比べると、経営に対する重大性は大きくありません。
※タカタに関する分析はこちらの記事をご覧ください

もちろん、ブランドイメージの悪化は避けられませんから、国内での販売量は減少するでしょう。それでも、これが国内の問題にとどまるならば、売上高の8割を占める海外事業で十分に生き残れます

したがって、この問題が海外に波及するかどうかが企業価値を見極める上での大きなポイントです。

既に英国法人の三菱モータースUKは「この問題の影響を受けるのは、日本国内で販売された車両のみ」と発表しています。これが事実であれば、海外市場への影響は軽微であると言うことができます。

最終的には詳細な調査待ちということになるでしょうが、私はどちらかというと楽観的に見ています。軽自動車は日本独自の規格ですし、海外では燃費の申告方法も異なるからです。

Next: 時価総額5,000億円、株価500円は最低ライン



時価総額5,000億円、株価500円は最低ライン

三菱自動車に関して、当面はネガティブなニュースが続くでしょう。内容によってはまだ株価が下がる可能性も否定できません。ブランドイメージの悪化から、国内自動車販売はますます厳しい環境に置かれるでしょう。

それでも、海外事業の底堅さと新興国での成長性を踏まえると、少なくとも時価総額5,000億円、株価にすると500円程度の価値はある会社だと思います。

三菱自動車工業<7211> 15分足(SBI証券提供)


三菱自動車工業<7211> 月足(SBI証券提供)

4月22日(金)時点での株価が504円です。ニュースが公表される前からすると約40%下落しています。これから出てくるニュースの内容を見極めつつ、エントリーのタイミングを探ってみるといいかもしれません。

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【関連】排ガス不正問題で揺れるフォルクスワーゲンの“見逃せない強み”=栫井駿介

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年4月24日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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