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新興通貨ユーロVS元基軸通貨ポンド【フィスコ・コラム】

ユーロ・ポンドは長年の節目とみられる水準を割り込みました。イギリスの経済正常化への期待が背景にあり、いずれ金融引き締めに向かうとの観測です。今後、長期的にユーロ安・ポンド高のトレンドが形成されるのか、「勝敗」の行方が注目されます。

イギリスでの新型コロナウイルス向けワクチン接種の進展や制限措置の解除、スコットランド独立機運の後退、ポンドはそうした好材料を背景に、今年は対主要通貨で大きく買われてきました。足元ではデルタ株まん延による回復腰折れ懸念のほか、米連邦準備理事会(FRB)による緩和縮小観測からドル買いに押され、年前半の勢いは弱まっています。が、先高観は維持されているようです。

特に注目されるのは対ユーロ相場。今年に入って7%上昇した後、最近は0.85ポンドを小幅に上回ったレベルでのもみ合い後、同水準を下回っています。振り返ってみると、過去10年以上にわたり、ユーロ・ポンドは0.85ポンドが重要な節目になっているようです。2021年は4月と7月に0.84ポンド台に上昇(ユーロは下落)。ユーロはいったん持ち直すものの、再び0.84ポンド台に押し戻されています。

遡ってみると、ユーロ・ポンドは2008年のリーマンショックでポンドが急落し、ユーロは一時0.98ポンドまで強含む場面もありました。この時は1ユーロ=1ポンドのパリティなど時間の問題とみられていました。しかし、ミレニアムとともに華々しく登場した新興通貨ユーロに、かつての基軸通貨ポンドの価値が同等になるなど、イギリスとしてはプライドが許さないでしょう。

その後はギリシャ問題で逆にユーロ売りが強まり、パリティは一気に遠のきます。2012年のロンドン五輪開催に向けイギリス経済は力強く持ち直し、ポンドは大きく切り返しています。2013年後半に英中央銀行(イングランド銀行)による2015年半ばからの利上げ観測が強まると、イギリスの金利高で2年債利回りがドイツのそれと格差が縮小し、金利差ゼロがちょうど0.85ポンド付近だったこともあります。

その後はユーロ安・ポンド高が加速し、2015年7月には一時0.69ポンド台にポンドが強含む場面もありました。ところが、イギリスの欧州連合(EU)離脱問題により、ユーロはその後0.85ポンドをおおむね上回って推移しています。足元のようにポンドよりもユーロの方が強い通貨に見えるのは、ブレグジット(英EU離脱)が背景といえそうです。

イギリスにとってはそのムードを振り払う好機が訪れているのかもしれません。国際通貨基金(IMF)は2021年のイギリスの成長率を4月時点の+5.3%から+7.0%と大幅に上方修正。今後、英中銀の緩和縮小の思惑が広がれば一段のポンド買いが予想されます。対照的に欧州中銀(ECB)はパンデミック特別支援プログラム(PEPP)を見直しつつ緩和政策を長期化させる見通しで、ユーロ売りが見込まれます。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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