カード不要の後払いサービス「BNPL」を提供するアファームが、アマゾンと提携するということで株価が40%あまり急騰した。BNPL払いは消費者にも店側にもメリットがある期待のサービスだが、これが数年先に、経済混乱のきっかけとなる可能性を秘めている。(『新天地の株式投資日記』)
※本記事は有料メルマガ『新天地の株式投資日記』2021年8月31日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。実際に配信されたサンプル号もお読みいただけます。
プロフィール:新天地
祖父の影響で子どもの頃から株の売買を行う。証券会社で自己売買業務を経験後に退社、現在はデイトレーダー。メルマガでは主に脱初級・中級者向けに、東証・NYの市況(市場雑感)、相場の考え方、取引手法などを解説。一般に書かれることが少ない空売り戦略や取引アルゴリズムに関してもプレーヤーの立場から丁寧にフォローする。
アマゾンとアファーム提携で話題「BNPL払い」とは?
この話、すぐに役には立たないかもしれません。でも「最後の部分」は必ず読んで頭に入れておいてほしい。いつか、「ああ新天地がそんなこと書いてたな」と思う日が来ると信じてる。
BNPL払い(「Buy Now Pay Later」の頭文字を取ってこう呼ばれる)の提供プロバイダーのアファームが、アマゾンと提携するということで株価が40%あまり急騰した。
BNPL払いの会社としては、アメリカスクエア社が8月1日にアフターペイという会社を290億ドルで全株買収して話題になっている。
逆にクレジットカードの株価は下落。大手銀行株が下落したのも、少なからずこの影響があったと思ってる。
従来のクレジットカードと何が違う?というと、いろいろある。
月末締めで翌月払いあるいはリボ払い(その代わり金利を払い続ける)のクレジットカード払いとは違って、BNPL(分割)払いの場合は、売買をするたびに通常それから60日間の間に、3回もしくは4回の均等な分割払いで支払うことになる。
消費者は期限を守る限り、利息や手数料を支払う必要は無い(遅延すると延滞利足がつく)。
サービスを提供する側は、代わりにオンライン小売業者などのお店側から4%から5%の取引手数料を徴収する。
先日話題になったアファームは、エアロバイクなどの通信販売会社ペロトンとの契約などで急速に売り上げを伸ばして、今年上場したばかりの新しい会社。Amazonに食い込むことで、一気に成長が見込めるのではないかとの期待が出てきている。
消費者にも店側にもメリット。ただし――
BNPL分割払いは、クレジットカードに比較して利用上限が比較的低く、代わりにネット上の手続きで利用が可能なために、クレジットを初めて利用するような顧客(NTCと呼んだりします)、あるいは女性層や発展途上国のユーザー、収入を持たない学生などにも垣根が低いのが特徴(ただこれはBNPL払いが成長するに従ってヘビーユーザーや取引金額の拡大が進むとは思う)。
ネットショップ店側にとっても、従来クレジットカードを使えなかった、あるいはまだ使ったことがないような顧客から現金を扱うことなく売買ができるため、顧客拡大を見込むことができる。
さらに最大5%の売買手数料を店側が払うにしても、代金引換払いに比べて店側が負うことになる不払いリスクを避けることができるのも魅力。
クレジット払いが使えない顧客でも利用しやすいBNPL払いのおかげで、代金引換払いや現金振り込みなどを廃止してトータルのお店の運用コストを下げたりしているケースも出てきている。
ネットショップ、大袈裟にいえばEコマース業界から見れば「NTC」がクレジット払いを行う最初の入り口となるとともに、「支払い」と「信用供与(貸付)を同時にネット上で行ってくれる業種でもある。
店側から見れば、支払いと貸付が自動でデジタルエコシステム上だけで完結するわけ。
Next: 便利な「BNPL」に大きなデメリット。市場は新たな爆弾を抱え込んだ
「BNPL払い」で新規顧客獲得。その裏で?
BNPLがネットコマースに占める割合は、アメリカでも今はまだ2%程度と見られている。しかし「顧客の間口を広げる」効果は、店側の売り上げ成長を促す効果がとても大きい。
オーストラリアやヨーロッパでは、すでにBNPL払いがネットコマースの1割にまで及んでるという調査もある。さらに「分割払い」となることで、限度内なら高額の商品をディスカウントすることなく売りやすいという調査結果も。
店側がBNPL払いを他の支払い手段よりも選好していくのではないか?今後成長が見込まれるというのは、そういう点だろうと思う。アマゾンが提携したのもそういう売上拡大狙いだろう。
というのが、良いニュース。でもこれ、「アメリカ経済が新たな爆弾を抱え込んだ」というふうにも見えたりします。
リーマンショックの“悪夢”を再現する恐れ
現状、法規制が追いついていないBNPL払いは、クレジット残高や信用情報に記載されない。いわゆる当局が把握できない「シャドーバンキング」といってもいい側面がある。
極端な例で言えば、クレジットカードやローンで目一杯お金を借りてる人間が、さらにBNPL払いで債務を増やしまくっていくことがあり得る(BNPL払いの与信枠はクレジットカードの与信枠の対象とは相互にまったく関係ない)。
そう、十数年前のサブプライムローンショック(あるいはリーマンショック)で見た悪夢の再現となる可能性。
「フィンテック」とか「BNPL払い」と言えば聞こえはいいけど、それは60日限定で、利息は店側が負担する消費者金融そのもの。しかも、当局がその残高を捕捉したりコントロールすることは、現状の法規制ではできない。
Amazonに置かれるであろう「BNPLボタン」。これが、いつかくる将来の経済混乱を呼び寄せるボタン(利益を与えてくれるけど、実は一定回数押されるとガラガラ経済崩れる自爆ボタンみたいな)なのかもね。頭の隅っこに入れておいて。
Next: 負の影響はいつ現れるか?BNPLが開ける「パンドラの箱」
サラ金貸付を証券化、いつかどこかで聞いたスキーム
アファームの裏にいるのが、マルケタという会社 。ここがクラウドでシステムを組み、アファームなどのBNPLプロバイダにシステムを提供しています。クラウドサービスであることを生かして自由なシステム構築ができるのが魅力。サービスプロバイダ側は従来のカード会社とは違って、ブランドごとのリスクを把握したりして柔軟に与信を行うなどの運営ができます。
さらにアファームは、一定の債務が溜まったら、それを証券化して(どっかで聞いた話だな)機関投資家に売ります。利回りが良ければ、機関投資家は買うでしょう(ただし、不払いリスクはアファームではなく機関投資家が負うことになります)。
BNPL払いの隆盛は間違いなく、当局が把握できない「ハイリスクハイリターン」なBNPL払い担保証券の誕生と成長を意味します。
カードの限度額を超えても利用できるサラ金貸付を証券化していると言ってもいい。パンドラの箱を開けてしまったんだ、と。
もちろん、消費者は最初は忠実に期限を守るし、支払いも行うだろう。でも「証券化」される貸付について、アファームなどが「自分にはリスクがないから」とゆるゆるで与信を続けたら?
楽しみ…じゃなかった怖いですね。まあ負の部分が顕在化するのは、早くてもアマゾンがシステムを実装してから10数ヶ月後、数年は先のことだろうけれど。
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8/31~9/1にかけて、ついに覆された「月末安・月初高」のアノマリー。メルマガ内ではかなり以前からウォッチしていました。市場のホットな話題をタイムリーに解説中です。
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- NY雑観。消費者信頼感指数の悪化が影を落とす。月末売りも出た。DXを買う動きはある。(9/1)
- さらに続き(9/1)
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- ローソク足を「合成する」(8/4)
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- 中国のゲーム直撃弾とタンピン族と経済への悪影響と。(8/3)
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- K時回復(8/1)
- 最高値圏で週足包み足(8/1)
『新天地の株式投資日記』2021年8月31日号より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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