中米の国エルサルバドルがビットコインを法定通貨として認定、どんどんビットコインを買い増ししています。しかし、法定通貨化したその日にビットコインは10%の下落となってしまいました。通常なら「買い」は相場上昇要因ですが、なぜビットコインは急落したのでしょうか?(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
エルサルバドルがビットコインを法定通貨とした日、ビットコインは10%下落
相場では、時に「名前」を材料にすることがあります。昨日のビットコイン下落は、その一例です。
ビットコインは昨日、一時前日比17%ほど下落。引け値でも10%値を下げました。日本円で1ビットコイン=約517.3万円となっています。
急落のきっかけは、中米の国エルサルバドル。世界で初めてビットコインを法定通貨として認め、エルサルバドル自身もビットコインを購入しました。
このニュース自体、ビットコインの売り買いに大きな影響を与えるものではありません。しかも、エルサルバドルは数回に分けてビットコインを買っています。
「買い」は基本的に相場上昇要因となるはずです。
エルサルバドルが「弱いロング(買い手)」となった2つの根拠
ちなみに、エルサルバドルは直近、合わせて550ビットコイン(約28億円)を購入した模様です。
なぜエルサルバドルは買い続けているのにビットコインは急落したのか。理由を付けるならば、根拠は主に2つです。
1つは、エルサルバドルはビットコインを「買った」ので、その瞬間から潜在的な「売り手」扱いされた点です。買い持ち(ロング)ポジション保有者が増えると、段々「ロングはいつ売るのか」が気になります。
2つ目が冒頭の「名前」です。エルサルバドルという経済規模の小さな国がビットコインを初めて法定通貨としたうえに自身も保有者となった点を、市場が心配した形です。エルサルバドルを「弱いロング」に認定した、とも言えます。
対照的に、電気自動車メーカーのテスラがビットコインを保有したと発表したとき、相場は急騰しました。テスラCEOイーロン・マスク氏のツイートに市場は右往左往します。テスラは「強いロング(買い手)」と見なされたとも言います。
実際、4-6月期決算資料によると、テスラは13億ドル(約1,400億円)のビットコインを保有しています。エルサルバドルの50倍です。
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エルサルバドルではビットコインの急落を支えきれない
さて、ビットコインを法定通貨としたエルサルバドルは、今後も購入を続ける可能性があります。てことで、参考となる数値を以下に。
エルサルバドルの外貨準備高:29.15億ドル(約3,200億円 ※外務省より)
エルサルバドルGDP(国内総生産):約270億ドル(約3兆円)
ビットコインの流通残高:100兆円弱(1,880万ビットコイン)
日本の外貨準備高:約1.4兆ドル(150兆円強 ※財務省より)
これらの数値を眺めると、ビットコインが急落した場合、エルサルバドルが買い支えられる外貨準備の水準は少ないことが分かります。
加えて、ビットコイン下落がそのままエルサルバドルの国家財政にも直接影響を与えそうです。
しかも「弱いロング」のレッテルを早くも市場は貼ってしまいました。中途半端にエルサルバドルがビットコインの押し目買い、ナンピン(難平:評価損を抱えた資産の平均保有単価を下げるため、相場下落時に更に買い増すこと)をすれば、余計にイジメやすくなってしまいます。
エルサルバドルでは米ドルが主な通貨として流通しています。そのため、不測の事態に伴うハイパーインフレ等も起きる可能性は低そうです。
しかし、ビットコインという値動きの荒い通貨に、好むと好まざるとに関係なく「投資家」としてエルサルバドルは首を突っ込み、「弱いロング」と化してしまいました。
エルサルバドルがムキになってナンピンしないことを願うばかりです。
今回のまとめ
・エルサルバドルがビットコインを法定通貨とした日、ビットコインは10%下落
・エルサルバドルは「弱いロング」と化したようです
・ムキになってナンピンしなければ良いのですけど
『徒然なる古今東西』(2021年9月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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