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潰れる会社と生き残る会社 三菱自動車と東芝、オリンパスの「差」=山崎和邦

三菱自動車が揺れている。市場では「まさか」と思われるような大企業でも破綻したり、上場廃止になる。今回は、その「まさか」の部類に入る会社のさまざまな事例を比較してみよう。(山崎和邦)

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不正企業の「後始末」に原理原則は存在するか?しないか?

企業はいつか破綻するもの

会社というものは世に280万社くらいあるが、いつかは破綻するものだという前提で市場では見られているといっても過言ではない。

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特に第2市場を見ればそう言える。第2市場全体の平均BPSは解散価値より低い。マトモな事業を遂行している企業の価値が解散価値より安いとは奇妙な現象である。これは、「もしかしたら解散する(破綻する)」という含みをもって評価されていることを意味する。

市場では、「まさか」と思われるような大企業でも破綻したり、上場廃止になる。今回は、その「まさか」の部類に入るさまざまな会社の事例を比較してみよう。

三菱自動車の上場廃止はあるか?

不祥事や粉飾決算では、普通はストップ安の比例配分が続いたあとで売買株数が完全合致でのヨリツキを買えばストップ高をするか大幅高するという、的中率8~9割の経験則がある。

では、なぜ売り方は、そんな安値を売るのか?それは、投信や年金に組み入れられた分は説明責任が果たせないから先を争ってでも売らざるを得ないからだ。または、上場廃止になるという恐怖心に駆られた者が先を争って売るからである。

言動一致をもって読者諸賢とお付き合いしてきた筆者としては、三菱自動車の完全合致(4月22日金曜日のヨリ)を買った。ところで、三菱自動車の場合は売買株数が完全合致で503円で寄ったのにそれを挟んで揉みあっていて、ストップ高も大幅高もしない気配だった。「短期の勝負事で仕掛けた買いは想定通りにならなければ即刻ウリだ」という原理原則、「鉄火場の掟」がある。そこで、様子を見ていたが20分以内に成り行きで売った。買値と同値段で売れたから、手数料損で済んだ。この原理原則を守らず翌々日まで持ったら買値から92円安まであった。

考える必要なく市場の出した答えが厳存するのだが、敢えてここで、本稿テーマに沿って「何故に的中率8~9割の経験則が的中しなかったのか」に思いを巡らせばこうなろう。

同社は、25年も前から燃費を虚偽表示してきたという。また、同社は2000年、2004年に欠陥車のリコールを隠すという悪事をなした。

これらは、ミスや欠陥でなく意図して行った悪事だから、もはや「実業」の企業でなく「虚業」である。市場はこれを許さなかったのだ。しかも、粉飾決算という一部の経営幹部が為した悪事と違って、メーカーたる企業の技術上の問題である。

もっとも、そんな悪事を意図して為す企業は上場企業にふさわしくない、よって上場廃止すべきだという判断は東証の決定如何だろう。同社は、10株を1株に統合したものだから元来27日の411円は41円、すでに破綻価格である。

Next: 潰れない東芝/オリンパス復活の背景/西武鉄道そしてJAL



潰れない東芝

さて次は東芝の問題であるが、これは技術や現場に問題があったわけではない。粉飾決算という、経営幹部の為した悪事である。その幹部が辞めて再建の道筋が立てば、原子力については世界レベルの企業だから、多分、経産省は福島の後始末にも尽力させたいであろう。将来の原発再稼働にも役立たせたいはずだ。

だから、「組織ぐるみの大粉飾決算」であっても、新聞もテレビもそうは表現せず、単なる「不適切会計」で押し切った。ここにはなんとか東芝を「生き残らせたい」という意図が透けて見える。

ゲスの勘繰りとしておいてもらいたいが、あのとき、新聞にもテレビにも強烈な言論統制が敷かれていたに違いない。そうでなければ、あんな大規模な組織ぐるみの大粉飾決算を軽く「不適切会計」と言いこなすことはできない。報道の監督官庁は総務省だ。

もちろん、上場廃止もしない。これを決めるのは東証である。その監督官庁は金融庁だ。従ってこうなる。経産省と総務省と東証と金融庁とが「握っている」に違いない。

以上は筆者個人の「ゲスの勘繰り」としておこう。本稿の内容についての責任は全て私・山﨑和邦にある。

オリンパス復活の背景

次にオリンパスの大粉飾決算である。これは上部3人が懲役2年6月(執行猶予付き)になってコトは済んだ。残ったのは英国子会社の買収を手伝ったとされた容疑者の無罪判決だけである。無論、上場廃止にもならない。

幹部が大粉飾をしたということは上場廃止に該当するが、上場廃止にならなかった。決めるのは東証である。

株価は事件前の2倍以上に上昇した。事件の最中の安値を買えば10倍になった。これも、決算の粉飾はあっても内視鏡の技術は世界一だし、世界シェアの7割を占めるという事実は何ら変わらない。市場はそれを多として株価は蘇った。

西武鉄道そしてJAL~上場廃止と再上場

西武鉄道は上場廃止になった。株主構成の大幅な虚偽報告を長期間していたからである。堤社長は、「すべては自分が命じてやらせたことだから自分一人を取り調べればコトは済むはずだ、社員を拘束してくれるな」と言って一人でコトの顛末を明らかにし、上場廃止の罪を負い、さすがに西武のドンだと却って再評価された。

鉄道事業は勿論、平常通りに進んでいた。市場はこれを良しとして、株主構成を改めて再上場し株価も立派に蘇った。

運輸省天アマ下り幹部の放漫経営と言われてもやむを得ない日本航空は、経営破綻して上場廃止に追い込まれた。比例配分ストップ安が続いて完全合致で寄り付いたときはタダの6円だった。

原理原則に従った言動一致を身上とする筆者は完全合致の日にヨリで50万株を買った。50万株と言っても300万円にすぎない。直後に想定通りの動きをしなかったから諦めて後場のヨリで投げた。後場ヨリは10円だったから6円で買った50万株は10円で売れて191万円の利益を得た。これは、想定通りでなかったから投機の鉄火場の掟に従って投げたのに儲かったという、いわばマグレの利益で不浄のカネである。

当社は運輸省アマ下りの幹部による放漫経営であってビジネスモデルに間違いはなかった。そこで国のカネを注入して稲盛さんを投入して再建させた。社員が一丸となって立派に再建させて再上場を果たし、今は稲盛勢は引き上げて独立した経営を続けている。市場は事前にこれを読んで投機参加者に対し「まぐれの利益」をもたらしたのかもしれない。

Next: シャープとエルピーダメモリの違い/「後始末」の種々相



シャープとエルピーダメモリの違い

シャープとエルピーダメモリの違いはどこにあったか。エルピーダは破綻の寸前に公募増資をした。その時から公募増資引き受け株の信用つなぎ売りは禁止されてできなくなった。これを決めたのは東証である。破綻に任せたのは、敢えて言えば、時の政権が市場経済に疎かったからだ。無論、筆者は民主党の元経産相枝野氏を指して言っている。

その前、2020年ころ日興証券が80億円(だったと記憶するが)の粉飾決算をしても、一課長代理のミスだったとして不問に付された。人の会社の上場の適否を審査する総合証券が、自社の決算に大粉飾をして上場廃止を免れるという理屈は通りにくい。

これもまた筆者の“ゲスの勘繰り”だが、当時、同社は米資本と提携する段取りが進んでいたからだろうと筆者は邪推する。決めるのは東証である。その故か否かは知らないが、その直後に西室社長が東証社長を辞めた。

「後始末」の種々相

斯様に思いを巡らせると、西武鉄道のように正々堂々と社長が名乗り出てストレートに上場廃止して、筋を通して数年を待たずに再上場を果たし立派な株価形成している企業と、日興証券のように上場廃止しない理由の説明もなく闇から闇に葬られて居残る企業と、東芝のように国ぐるみで守り通す企業と、日本航空のように国のカネを投じて一流経営者を投入して短期で再建させる企業と、種々のケースがある。

そのビジネスモデルを国家が必要とする企業(日本航空)、その技術水準を国が必要とする企業(東芝)、国際的な企業提携のために上場廃止できない企業(日興証券)、何万人の失業者を輩出しても破綻させた企業(エルピーダ)、海外資本との提携が実現するまで粘って粘って頑張りぬかせた企業(シャープ)、社長がギャンブルで100億円をスってしまっても不問に付した企業(大王製紙)等々、種々相があって、そこに原理原則はないように見える。

日本長期信用銀行の破綻の場合は、最高裁まで行ったが経営者を罪に問えないという判決だった。当時の会計基準が不明確なため、最高裁は経営者に責任を問わなかった。経営者が地位を守るために赤字決算を子会社に移転させる「トバシ」(山一證券、オリンパス)のケースは、山一は大蔵省が自主廃業を薦め(実際は「強制」※後述)、オリンパスは3人を執行猶予付きの懲役2年6月にした。

当事者も観念してこれをすぐに飲んだばかりか、判決に対して被告が反省文を朗読したのはお笑いだった(筆者はその場で傍聴していた)。刑法の罪刑法定主義の論理を会計の世界に厳格に適用すれば不特定多数の株主の利益を損ねるから、経営者の粉飾決算の責任を問うことは難しい。

また、監査法人は多額の監査料を受け取ってカンサする商売だから、監査法人のトップにも責任を問わねばならない。ここに焦点を当てた良書が『粉飾決算 ―問われる監査と内部統制』(浜田康著・日本経済新聞社 2016年)である。

Next: 「後始末」に原理原則は存在せず、市場の鉄槌と報償あるのみ



「後始末」に原理原則は存在せず、市場の鉄槌と報償あるのみ

粉飾の罪、虚偽報告、破綻、これらは多種多様であって、その始末には原理原則はない、と言ったが、多少でもお灸を据えたり、努力に報いたりした形跡を見い出すならば、それは市場が鉄槌を下し、かと思えば市場が報いるという現象であろう。

鉄槌は今時の三菱自動車がその好例であろう。27日の420円は10株統合前に戻せば実質42円の「額面割れ」で既に破綻価格である。

それと市場が与える報償、一旦罰してから報いた例では、市場が潔さを愛でた西武鉄道、市場が全社一丸となった再建努力を賞した日本航空、また技術レベルの高さを認めて生かせたオリンパスとなろう。原発技術の蓄積と未来に期待した東芝もそうである。2月12日に155円まで下がったものが4月25日には256円、2か月で65%上昇という戻りを示した。

※前ページで少し触れた山一は1965年にも第1次破綻を来した。時の大蔵大臣は田中角栄、銀行には中山素平、日銀総裁は宇佐美洵と錚々たる人物が揃っていて、一挙に日銀特融を決して報道管制を敷くと同時に山一破綻と日銀特融のニュースを同時に並べて発表させて無用な混乱を避けさせた。

その前に山一の山瀬将軍と謡われた兜町の寵児・山瀬正則株式部長は寂しく一人で退社していった。そのもっと前に東京大学卒のインテリ株屋と言われた太田修山一社長は青酸カリ自殺している。この会社には筆者が言う「滅びのDNA」が根深く伏在した。

山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)、近著3刷重版「賢者の投資、愚者の投資」(日本実業出版)等。

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