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日経平均は反発、英中銀サプライズで下げ止まりもなお不安くすぶる

 日経平均は反発。64.34円高の26238.32円(出来高概算6億6829万株)で前場の取引を終えている。

 28日の米株式市場でダウ平均は548.75ドル高(+1.88%)と7日ぶり大幅反発。英国中銀が長期国債市場に介入し同国政府が提示した大型減税計画による影響を警戒した金融市場の混乱を鎮静化させたため、安心感から買いが先行。米国内の長期金利も連れる形で大幅低下したため買戻しが加速し終日堅調に推移した。ナスダック総合指数は+2.05%と大幅続伸。本日は権利落ち日で配当落ち分の220円程度の下押し圧力があるが、地合いの好転を背景に日経平均は106.52円高からスタート。ただ、26450.59円まで上昇した後は買い一巡で伸び悩んだ。しばらく高値圏での推移が続いていたが、軟調なダウ平均先物の動きを受けて、前引けにかけて大きく失速した。

 個別では主力処でファーストリテ、ソフトバンクG、任天堂、OLC、HOYAなどが上昇。グロース株ではサイボウズやインフォマートなど中小型株で上昇しているものもあるが、リクルートHDやメルカリなどは鈍い動き。業績上振れ観測のあったNRIが買われ、新型コロナ経口薬で進展が確認され、目標株価の引き上げも観測された塩野義が大幅に上昇。欧州関連の一角として直近の下落がきつかったアシックスは急反発。東証スタンダード市場では八十二銀行との経営統合を発表した長野銀行が急伸。

 一方、配当落ちに伴う処分売りで郵船と商船三井が急落。前日の米ハイテク株高にもかかわらず、レーザーテック、東エレクの半導体関連のほか、ソニーG、日本電産、ファナック、キーエンス、村田製、TDKなどが下落。ダイキン、信越化の値がさ株も軟調。トヨタ自、デンソー、ホンダの自動車関連のほか、日本製鉄、三井住友、三菱商事、コマツ、IHIなどの市況関連株の多くも下落。西松屋チェは小幅な増配や自社株買いが好感されず、業績予想の下方修正を受けて急落している。

 セクターでは医薬品、繊維製品、その他製品が上昇率上位となった一方、海運、鉄鋼、銀行が下落率上位となった。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体55%、対して値下がり銘柄は42%となっている。

 本日の日経平均は地合いの好転を追い風に反発。ただ、前引けにかけて急速に失速しているほか、下向きの5日移動平均線には届いておらず、まだ自律反発の域を出ていないと言わざるを得ない。

 前日の米株式市場は久々の値幅を伴った反発となり、ようやく下げ止まり感が出てきた。発端は英イングランド銀行によるポジティブサプライズともいえる動きだった。英中央銀行は長期国債の無制限購入のほか、10月3日に予定されていた保有国債の売却、いわゆる量的引き締め(QT)の開始を同月31日まで遅らせることを明らかにした。これを受けて、英国債利回りの急伸が止み、一昨日まで4%近辺で推移していた米10年債利回りも3.7%台前半まで急低下。直近、株式市場の下落に繋がっていたグローバルな金利上昇に歯止めがかかり、金利低下を好感する形で株式の買い戻しにつながった。

 しかし、市場の疑心暗鬼は止んでいない。英国債利回りの急伸が止み、英通貨ポンド売りも一旦は止んだが、ポンド通貨の持続的な買戻しには至っていない。対ドルで1ポンド=1ドルのパリティ(等価)が近づくまでに下落していたポンドは、前日、1.09ドルまで一時上昇したが、足元では1.07ドル台にまで再び下落してきている。

 実際、いったんは通貨安・債券安の動きに歯止めをかけた今回の緊急対応策は手放しで評価できるものではない。英中央銀行がインフレ抑制のために利上げを行う傍ら、トラス新政権が財源の裏付けに乏しい大規模な財政政策を打ち出したことはインフレに拍車をかけかねない政策であり、マクロ経済政策として整合性に欠いている。今回、英中央銀行は長期国債の購入とQTの延長により財政政策へ合わせる動きを取ったが、利上げ継続の方針に変わりはない。長期国債買い入れはあくまで一時的な措置であり、QTも中止されたわけではなく、1カ月程延長されただけ。長期国債の買い入れもマーケットへの資金供給を通じて最終的にはインフレ促進に繋がりかねず、依然としてマクロ経済政策の不整合性を解消できていない。再び、ポンド売りが強まり危機的様相を帯びる可能性もゼロではないと言える。

 仮にグローバルな金利上昇を通じた株価バリュエーションであるPERへの低下圧力が前日をピークに止んだとしても、企業業績悪化懸念は拭えておらず、一株当たり利益(EPS)の低下圧力を通じた株価の下押し圧力は残る。先日の米物流大手フェデックスの業績下方修正に続き、前日の米アップルの最新スマートフォンの増産計画撤回を背景に大手優良企業でも景気後退を避けることはできないとの懸念が強まっている。7-9月期決算の発表が始まる10月下旬までは、これまでのような企業業績に関するネガティブな報道が相次ぐ可能性があり、EPSへの低下圧力はまだ止んでいないと考えるべきだろう。

 一方、27日に発表されたS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)で住宅価格のピークアウト観測が強まっており、コア消費者物価指数(CPI)の減速が視野に入りつつある。こうした中、需給面では、米株式市場を中心に直近の下落で全体ではショート(売り持ち高)に傾いている分、ちょっとした好材料をきっかけに買い戻しが加速して上昇転換する可能性も否定できない。しかし、それでも後追いでインフレ抑制に躍起になっている米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げ転換を示唆するまでは、景気減速下での利上げ進行という負の構図に変化はなく、株式市場にはEPSの低下を通じた株価下落圧力が残る点には留意しておきたい。
(仲村幸浩)

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