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2023年もユーロに逆風か【フィスコ・コラム】

今年20年ぶりの安値水準に落ち込んだユーロ・ドル。終盤に大底を打ったものの、来年もさえない値動きが続きそうです。ユーロ圏経済が不透明感を深めるなか、金融引き締めへの思惑はやや後退。スペインの総選挙など、政治情勢も不安要因として注目されます。

2022年のユーロ・ドルは欧州中銀(ECB)の米連邦準備制度理事会(FRB)対比で遅れた金融引き締めや域内経済の減速懸念から、序盤から想定通りに軟調地合いとなりました。そこへウクライナ情勢の悪化が加わり、1.14ドル台から値を下げる展開になりました。また、天然ガスの供給不安が増し、ユーロはほぼ一貫して値を下げました。

後半に入ってもユーロへの下押し圧力は弱まらず、20年ぶりに1ユーロ=1ドルの等価(パリティ)を割り込みます。そこでいったん下げ止まりますが、欧米金利差やスタグフレーション懸念、天然ガス価格の高騰といったネガティブな要因を背景に、9月下旬には0.95ドル半ばまで軟化。米インフレピークアウトによりFRBが引き締め加速のスタンスを緩め、ようやく1.06ドル付近に戻しました。

ただ、2023年に足元の水準からさらに大きく戻すとは想定しにくい状況です。ECBは12月15日の理事会で0.50%の利上げを決定しましたが、来年は燃料費や食料品の高騰でECBは引き締めを続けざるをえず、その影響で経済の大幅な収縮は必至でしょう。もしくは、ECBは今年ハト派からタカ派に転じたばかりですが、スタグフレーションを回避しようと再びハト派的な政策転換を強いられる可能性があり、これにより、ユーロ買いが後退する可能性があります。

域内のインフレは最悪期を脱した可能性もありますが、景況感指数はコロナ禍後の最低を記録しています。国際通貨基金(IMF)は直近の世界経済見通しで、ユーロ圏の際立った減速を予測しています。2023年の成長率は7月時点での+2.9%から+2.7%に下方修正されました。このうち、けん引役のドイツとイタリアはマイナスが見込まれています。交易関係の深い中国の減速も手痛い要因になります。

一方、来年は多くの選挙が予定されています。ロシア侵攻に警戒を強める北欧やポーランドでは議会選、チェコは大統領選、ドイツでも地方議会選があります。注目は12月のスペインの総選挙。その前哨戦となる地方議会選では2015年結党の右派ポピュリズム政党VOXの躍進が目立っています。来年5月の地方議会選でその傾向が鮮明になり、総選挙後はVOXの政権入りも予想されます。

今年9月に行われたイタリアの総選挙では欧州連合(EU)に懐疑的な右派連合政権が発足し、話題になりました。フランコ独裁時代を封印する意味で左派寄りだったスペインでその流れが押し寄せれば、ユーロ売りの材料になります。サッカーのワールドカップ・カタール大会は、ヨーロッパの強豪国が新興国に敗れる波乱が目立っています。決勝進出のフランスは域内の暗雲を振り払うことができるでしょうか。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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