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実は3種類ある「高配当銘柄」それぞれ売り時はいつ?三菱UFJ・日本製鉄・USSの事例で解説=佐々木悠

株式投資は難しいものです。銘柄選定・買うタイミング・企業の成長性、考えるべき事が数限りなく存在します。その中でも特に難しいのは株の売り時です。いま売って良いのか?売ったあとにもっと上がるんじゃないか?損切りはしたくない…けどエイッ、など感情によって売買判断を行いがちです。今回は高配当銘柄に含み益が出ている場合の売り時を、具体的な銘柄を挙げながら考えていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)

プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。

高配当銘柄は3つに分類できる

まずは高配当銘柄の定義を考えます。

高配当銘柄とは配当利回りが高い銘柄のことを言います。明確な線引きはありませんが、TOPIXの平均配当利回りである2.5%を基準にすると、最低3.5%以上、5%を超えると理想的、といったところでしょうか。

配当は企業活動によって得た、当期純利益が主な原資です。毎年安定した配当を出すためには安定した事業を運営する必要があります。業界で言えばリース・銀行などの金融株。あるいは携帯事業など情報通信株も高配当銘柄が多いです。

今回は高配当銘柄、と一言で分類せず、3つに分けて考えます。

  1. 成熟高配当銘柄
  2. 成長高配当銘柄
  3. 瞬間的高配当銘柄

それぞれの特徴を考えます。

<成熟高配当銘柄>

リース・銀行などの金融株や情報通信株が成熟高配当銘柄に該当します。安定した収益基盤があり、株価の動きも緩やかな上昇・ボックス圏で上下することが多いです。

一方でこれらの業界は基本的に成熟した企業が多く、業績や配当の成長期待が高いわけではありません。

金融・情報通信業界ともに平均PERは10倍前後ですから、市場の評価も決して高くはありません。逆に言えば、市場から評価されず株価が安いことの裏返しとして「高配当」になっていると言えます。

大きな株価上昇は狙わずに、じっくりと長い目線で投資することが目的となるでしょう。

<成長高配当銘柄>

「成熟高配当銘柄」の業績や配当の成長があまり期待できないのに対し、「成長高配当銘柄」はそれが期待できます。

そもそも、配当が増える根本的な要因は企業利益の拡大です。今後成長していく企業の利益が増えるから、配当金も増える。至極真っ当な理由で配当が増える企業こそ、成長高配当銘柄であり、高配当銘柄という分類の中では最も理想的な銘柄だといえます。

<瞬間的高配当銘柄>

最も注意すべきは瞬間的高配当銘柄です。バブル的な業績拡大に伴って、配当金が急騰している企業です。23年3月現在の市況では、海運株や鉄鋼株がこれらに該当します。

まず前提として、こういった一時的な業績拡大要因で高配当株になっている企業を高配当株と認識すべきではありません。鉄鋼株の場合、インフレが落ち着いた時には、業績下降、配当金は減配されることが想像できます。

単純に配当利回りだけを見ると瞬間的高配当株へ投資しがちです。配当金や業績の推移などを見ながら、瞬間的高配当銘柄ではないかを確認しましょう。

ケース1 成熟高配当銘柄の売り時=三菱UFJ

ではここからが本題です。それぞれの高配当銘柄の売り時を考えます。

現在最も売買で迷うのは、銀行株ではないでしょうか?

今回は三菱UFJ<8306>を題材にして考えます。過去10年間の配当は減配は無く、過去10年の年間平均8.8%ずつ増配しています。非常に安定的な株主還元です。

出典:IRバンクより作成

一方で、株価は10年に1度か2度の水準で高値圏に突入しています。

三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306> 月足(SBI証券提供)

この、上昇基調の銀行株を売るべきでしょうか?私は、売っても良いと考えます。

理由は株価が示す通り、マイナス金利を導入した2016年以降、久しぶりの上昇基調であり、今後数年分の配当金を回収するチャンスであると考えるからです。

仮に、2021年前後の株価である1株600円でUFJを保有していたとしましょう。

22年3月現在は1株950円前後ですから、含み益は60%近くになります。

そして1株600円で購入した場合の現在の配当利回りは4.6%です。

つまり、現在の株価水準で売ることができれば7~8年分の配当金を前倒しで受け取る計算になります(今後増配が無いと仮定。税金は考慮しない)。

このように成熟高配当銘柄の売り時は、外部環境(金利、景気など)により、今後数年分の配当金を譲渡益で得ることができる局面である、と考えることができます。また、業績が大きく成長しなければ株価は下落する可能性も高く、その際には再び買い戻すということもできます。これを繰り返せば、キャピタルゲインとインカムゲインの両方を取ることも可能かもしれません。

Next: 成長高配当銘柄の売り時は?ユー・エス・エスのケースで考察



ケース2 成長高配当銘柄の売り時=USS

成長高配当銘柄の一例としてユー・エス・エス<4732>を取り上げます。

ユー・エス・エスは中古車オークションの運営会社で、業界においては独占的な地位を有します。

この会社は業績の拡大に伴って配当金が増加しています。

出典:IRバンクより作成

さらに株価も右肩上がりです。

ユー・エス・エス<4732> 月足(SBI証券提供)

このように成長高配当銘柄は業績拡大に伴い、増配と株式の譲渡益の両方を狙えることが魅力です。銀行などの成熟配当銘柄に比べると利益成長に対する期待値が大きいのです。

こういった、成長高配当企業は基本的に継続保有することを推奨します。企業の成長に伴いあなたの配当収入を増やしてくれるでしょう。

しかし、理想の銘柄郡ではありますが、そもそもどの企業が成長するのかを見極める能力が必要です。企業・業界の分析が行えるようになると、より高い精度で、成長高配当企業を発見できるかもしれません。

Next: 瞬間的高配当銘柄の売り時は?日本製鉄のケースで考察



ケース3 瞬間的高配当銘柄の売り時=日本製鉄

多くの企業が原材料高による悪影響を受けている中、日本製鉄<5401>など鉄鋼株にはバブルが来ています。需要高に伴って業績拡大。同時に配当金も急騰しています。

出典:IRバンクより作成

それに伴い、株価も上昇を続けています。

日本製鐵<5401> 月足(SBI証券提供)

先ほど瞬間的配当銘柄は「高配当銘柄と認識すべきではない」と申し上げました。

このケースはあくまで、一時的に高配当になっているだけであると考えて良いでしょう。基本的に継続保有ではなく、いつ売り抜けるのかを考えるべきです。少なくとも、長期に渡り配当金を出し続ける可能性は低いと考えるため、配当目的で長く保有する企業ではありません。景気バブルがきている今こそ売り時かもしれません。

そして最も良くない行為は、今から瞬間的高配当銘柄を追いかけることです。明日はまたまったく別の業界がバブルになるかもしれません。次のチャンスを狙って情報収集を続けましょう。

+α 権利確定日を待たずに(権利落前)に売るべきか 

配当金や株主優待を受け取るためには権利付き最終日までに買い付け、大引け時点での保有が必要です。しかし権利付き最終日の翌日、権利落ち日は新株や配当に相当する分、株価が下落するとされています。

出典:日本経済新聞

多くの方が「権利落ち日の下落が気になるが、配当や優待が欲しい。権利日は跨いだ方が良いの?」と悩んでいるのではないでしょうか?

正直に申し上げますと、この悩みに対する絶対的な答えは存在しません。権利落ち日に下落する可能性が高いという事実はありますが、権利落ちの幅やその後の株価変動は結局のところ予測できず、そこまで気にする必要がないものかもしれません。

むしろ、権利確定日に向かって異様な株価上昇が起こった場合などは売りを考えても良いでしょう。

Next: 高配当銘柄の売り時は結局いつ?企業の業績拡大を見極めよう



企業の業績拡大を見極めることで売り時を見極める

高配当銘柄の売り時についてまとめます。

現在の局面で言えば、例えば銀行株の一部を売却して、ほかの利回りが高い配当株に乗り換えを行うのが理想的であると思います。

これを繰り返せば理論上はただ配当株を長期保有するよりも、早いスピードで資産を増大させることができるためです。

最後に高配当株の売り判断に必要な物差しを考えます。

それは株価上昇が一時的な要因によるものなのか?業績によるものなのか?を考えることです。当然、企業の本質的な活動である業績の拡大によるものが一番大切な要素です。

これを見極めるためにも、企業分析・業界分析の知識が必要です。この知識は簡単に身につくものではありません。つばめ投資顧問では今後も高配当銘柄や企業分析の情報発信を行います。企業分析レポートを見ながら、分析能力向上の一助になれば幸いです。


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image by:18percentgrey / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2023年3月14日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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