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南ア通貨は最安値更新中【フィスコ・コラム】

南アフリカ通貨ランドの下落に歯止めがかかりません。国内経済の減速懸念や中央銀行の金融引き締め休止観測に加え、外交の不透明感が背景にあります。中国やブラジルなどと形成するBRICSの首脳会合開催をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)脱退の可能性も注目材料です。

ドル・ランド相場は5月に入って心理的節目の1ドル=19ランドを上回り(ドル高・ランド安)、12日には19ランド半ばまで値を切り下げ、2020年4月の過去最安値を更新。その後もランド売りは止まらず、足元は20ランドを目指す展開です。米金融引き締め長期化観測でドル買いが強まるなか、対ロ武器供与疑惑で対米貿易特恵待遇のアフリカ成長機会法への影響が懸念されたことも大きな要因です。

昨年12月にロシアの貨物船が南部ケープタウン郊外の港に入り、武器や弾薬を積み込んだ後ロシアに向かったとの駐南ア米国大使による証言が今月上旬に報じられ、国際社会で問題視されました。しかし、南ア政府は大使の発言に対し証拠がないなどとして強く抗議。同大使も謝罪しています。もっとも、運び出された積み荷が南ア政府の承認を受けたかどうかについては不明のようです。

武器供与疑惑は一服したものの、南アに対する欧米の不信感は収まっていません。BRICSを構成するブラジル、ロシア、インド、中国、南アの5カ国は今年8月、南ア国内で4年ぶりの対面形式による首脳会議を開催する予定です。19カ国の新規加盟が認められれば、計24カ国が参加する歴史的な会合になります。そこにプーチン・ロシア大統領が出席するか注目されています。

プーチン氏はウクライナ侵攻でICCから逮捕状が出され、加盟国の南アを訪れれば逮捕の可能性があります。ラマポーザ氏はその問題で、ICCの脱退を目指すと述べています。南ア大統領府はその直後にラマポーザ氏の発言を撤回しており、プーチン氏を直接迎え入れるかどうかはなお協議中です。アフリカ諸国をはじめ「グローバルサウス」が反欧米色を強めており、当面は南アの対応に目が離せません。

米ゴールドマン・サックス証券が20年ほど前に投資家向けのレポートで5カ国の頭文字をつなぎ合わせて呼んでいた当時とは異なり、BRICSは今や世界経済をけん引する存在です。国内総生産(GDP)の規模をみても、先進7カ国(G7)に肩を並べています。さらに勢力を拡大できれば新興国による経済グループにとどまらず、国際政治でも発言力を強め、「BRICS対G7」の構図が定着するかもしれません。

南アでは電力の供給不安で国内経済の不透明感が高まり、南ア準備銀行(中銀)は引き締め政策を後退させています。格下げリスクも根強く、ランドへの下押し圧力は当面続くでしょう。国際政治での立ち回りは、その浮沈を決める重要な要因となりそうです。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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