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沖縄海底ケーブルに中国盗聴器?通信・情報網を制する者が勝つ「現代の戦争」で日本は戦えるか=原彰宏

今年2月、米国本土上空などに中国の無人偵察気球が複数飛来したニュースがありました。このときに米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を機に、キューバを拠点とする中国のスパイ活動の活発化が物議をかもしていました。そして、日本近海においても、光ファイバー海底ケーブルに「中国製の盗聴装置」が仕掛けられていたことが、このほど通信会社関係者らの証言でわかったと報じられています。安全保障は軍事面だけの問題ではない、むしろ実弾を使う以外の、情報争奪合戦とか情報操縦とか、あるいは経済の根幹に関わる部分での戦いのほうが、遥かに重要になってくるのですね。それが「現代の戦争」なのでしょう…。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年6月28日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

戦場の生々しい映像が世界に届くワケ

ロシアによるウクライナ侵攻により、両国は長期間の戦争状態になりました。いまだに終息の目処がたっていない状況で、戦況は悪化していると言わざるを得ません。

そんな中で、ウクライナ市民は、常にネットで海外と情報交換できる状況にあります。

一般市民がスマートフォンで撮影したと思われる生々しい動画を、全世界の人々は見ることができるのです。

なぜ戦場と化したウクライナで、ウクライナ政府はおろか、ウクライナ軍兵士や一般民間人が、大容量の通信基盤を必要とする動画を世界中に配信できるのでしょうか。

その答えは「衛星通信」にあります。

電気自動車(EV)で知られる米テスラCEOのイーロン・マスク氏が設立した米SpaceX(スペースX)が構築した、人工衛星による通信網「スターリンク」を利用できるようにしたのです。

無償で、ウクライナ上空に通信衛星を飛ばしたのですね。

戦況の進展によってはロシアが、ウクライナ国内からインターネットにアクセスするためのインフラを破壊する可能性があったなかで、フョードロフ副首相は2022年2月26日、Twitterを使ってイーロン・マスク氏に、スペースXが構築中の人工衛星群によるインターネットシステム「スターリンク」のサービス開始を要請し、イーロン・マスク氏はすぐに了承したことで、ウクライナ全土でのサービスを開放したのでした。

有事には外部との接触・情報が命

テスラ社の「スターリンク」は、高度数百~千数百kmの地球低軌道に多数の通信衛星を打ち上げ、地球上のどこでもブロードバンドのインターネットアクセスを提供するサービスです。

有事のための衛星通信網……本来、日本も安全保障を考えるのなら、米国から大量のトマホークミサイルを購入するのではなく、イーロン・マスク氏に接触して衛星通信網確保の約束を取り付けておくべきではないでしょうかね。

通常(有事でない普段とでも言うのでしょうか)の国際的なネット情報は、この衛星通信ではなく「海底ケーブル」を通じて行われています。

国際通信の「99%」が、海底ケーブル経由となっているのです。

衛星通信は気象条件と局の数によってスピードが左右されてしまいますが、海底ケーブルは安定した通信量が確保できるのが、一番大きなメリットとされています。

通信距離も衛星までの距離を考えると、海底ケーブルのほうが短いそうです。それだけ大容量のデータ情報を送ることができるというのですね。

いつもみなさんが“当たり前”のように使っているスマホ情報のほとんどが、SNSに動画サイト閲覧、メールやクラウドサービス、社会どこでもつながるWi-Fi、国際電話に至るまですべて、世界中に張りめぐらされた海底ケーブルのおかげだというのですね。

Next: 海底ケーブルを制する者は世界を制する。いま制しているのは…?



海底ケーブルを制する者は世界を制する

現在、世界中に4,000本以上、総延長140万キロ、なんと地球約35周分もの海底ケーブルが張り巡らされています。日本とつながるものだけでも、およそ30本はあります。

通信衛星は地上から3万6,000km上空にあり、例えば東京・ロサンゼルス間だと片道7万2,000kmになりますが、海底ケーブルだと9,000kmで到達できます。もちろん、海底ケーブルの方は、天候の影響も受けません。

海底ケーブルは、漁船の底引き網に絡まれないように8,000メートルの深海に張り巡らされています。深海の水圧に耐えれるのはもちろん、サメなどの生物に噛じられても切れないように、頑丈に作られているそうですよ。

海底ケーブルは、実はデータ通信のみに使われてるだけではなく、津波や地震を観測するのにも使われています。海底で地震の観測データは光のスピードで送られてくるので、地震の揺れや津波よりも速く地上に届くのですね。

スマホやパソコンと携帯の電波やWi-Fiでつながるネットですが、私たちの手元は無線ですが、建物や携帯の基地局から先は、なんと有線のケーブルでつながれているのですね。

海底ケーブルがなければ、速度の遅延なく動画投稿サイトを見たり、クラウドに写真を保存したりといった当たり前の生活ができなくなってしまいます。

どれだけ海底ケーブルは重要か。基地局がどうというレベルの話ではなく、世界の会社がしのぎを削ってその開発に乗り出しています。

光ファイバー……実際にデータが行き来する線ですが、なんと髪の毛の細さだというから驚きです。これが1本で1秒あたりDVDにして1万3,300枚分のデータを送信することができるのです。その容量は、この20年で100倍にまで増えたといいます。

その技術は世界の中でも日本企業のレベルの高さが目立っています。アメリカ、フランスの企業とともに、日本のNECがトップ3を形成し、3社のシェア合計は9割を占めています。

海底ケーブルを制すれば世界を制する……今回のテーマ「海底ケーブルと経済安全保障」の意味が、だんだんとおわかりいただけたでしょうか。

光ファイバー海底ケーブルに中国製盗聴装置?

今年2月、米国本土上空などに中国の無人偵察気球が複数飛来したニュースがありました。このときに、6月8日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道を機に、米本土に近いキューバを拠点とする中国のスパイ活動の活発化が物議をかもしていました。

そして、日本近海においても光ファイバー海底ケーブルに中国製盗聴装置が仕掛けられていたことが、このほど通信会社関係者らの証言でわかったと報じているのです。

海底ケーブルに中国盗聴器?

まさに、米中対立「深海版」とでも言うのでしょうかね。

沖縄近海の光ファイバー海底ケーブルから中国製盗聴装置が発見されたことは、沖縄で1955年から発行されている在沖縄米軍を対象とした情報誌「This week on OKINAWA」6月4日号が、日本の一部通信会社関係者の証言をもとに報じたとあります。

通常、光ファイバーケーブルを通じて光信号を盗聴することは技術的に困難だとされているのですが、海底ケーブルの場合は、一定区間ごとに光信号の増幅装置が設置されており、発見された中国製盗聴装置は、この増幅装置を標的として仕掛けられていたというのです。

海底ケーブルの、一種の“ウィークポイント”ということですね。

この増幅装置から漏れる電磁波を盗聴し、情報を解析していたようだというのです。

沖縄における主要な通信網としては、NTTをはじめ、AU、KDDI、AT&T、さらに米軍による光ファイバー海底ケーブルがあげられ、沖縄ではこれによって日本本土をはじめ、他のアジア諸国・地域、グアム、ハワイ、オーストラリアなどと情報通信を行っている、いわば世界の「重要拠点」とも言える場所に当たります。

各国の諜報機関の盗聴合戦、かつては電話線だったのが、いまや海底ケーブルになったということでしょうか。

そういえば、南シナ海あたりで、中国のものと思われる船がずっと漂流していたなんてニュースがありましたが、あれって、海に潜って海底ケーブルに何か仕掛けをしていたなんてことはないでしょうね。

Next: 米中対立は上空でも海底でも…情報網を制するのが「現代の戦争」か



米中対立は上空でも海底でも…

先程の「米国本土上空などに中国の無人偵察気球が複数飛来していた」という話ですが、中国側は気象観測目的の民間の気球だと主張しましたが、撃墜後に調査した米国は、複数のアンテナや、センサーを動かすために必要な電力を供給するためのソーラーパネルが搭載されていたことを確認したそうです。

米政府高官は「携帯電話などの位置を特定し、データを収集する能力がある」などと指摘しているそうですよ。

日本近海の光ファイバー海底ケーブルに盗聴器らしきものが仕掛けられたのは、約5年前の2018年ころからだそうです。

経済安全保障の問題といえば、通信基地局のファーウェイが記憶に新しいですよね。

地上から海底へ…。

まさに経済安全保障の問題は、深海にまで及んでいるということです。そのうち制空権がどうとか宇宙がどうとか、はたまた北極圏をどこが制するとか、そういうのが問題になって来るのでしょうね。

海底ケーブルの総点検が必要か

海底ケーブル総延長が140万キロだと述べました。

NECをはじめ、米サブコムと仏アルカテルの3社が海底ケーブルの9割を担っていますが、話題の中国ファーウェイは5万キロほどに過ぎないそうです。

しかし中国は、この海底ケーブルの敷設も、現代版のシルクロード経済圏構想「一帯一路」計画の一部と見ているようですよ。

こういった海底ケーブルの経済安全保障の事例を、NHKwebサイト「知られざる海の底」という記事でいくつか紹介しています。
※参考:知られざる海底ケーブルの世界 – NHK(2023年6月20日配信)

以下は、ここからの抜粋です。

2015年にアメリカの新聞がロシアのスパイ船と潜水艦がアメリカの沖合に現れて海底ケーブルを探しているんじゃないか、いざというときには切られるかもしれないという記事を掲載しました。それ以降、数多くの海底ケーブルが結ばれている台湾の有事の懸念が高まり、地政学的なリスクが意識されるようになってきました。

2019年、アメリカのロサンゼルスと香港を結ぶ海底ケーブルの運用開始を目前に、トランプ政権が突如、安全保障を理由に、設置許可の取り下げを検討。結局、計画は変更され、香港ではなくアメリカとフィリピン・台湾を結ぶことになった。中国が香港への関与を強めようとする中、アメリカ当局が情報漏えいのリスクを懸念したとみられる。

2021年、世界銀行が主導したミクロネシア、キリバス、ナウルを結ぶ海底ケーブル事業に、中国のファーウェイと関係の深い企業が最安値で入札。アメリカとオーストラリア両政府が介入し、入札が取り消しに。結局、日米豪による連携支援プロジェクトとして敷設されることに。米軍基地もあるグアムとケーブルが接続して情報が漏えいすることを懸念したとみられる。

情報網を制するのが「現代の戦争」

この海底ケーブル建設を巡る記事もご紹介します。

世界では今、海底ケーブルの建設が相次いでいます。アメリカのグーグルは日本とカナダの間を結ぶ「Topaz(トパーズ)」を今年開通する予定です。またNTTと三井物産などは、去年、アメリカの西海岸と千葉・三重を結ぶ「JUNO(ジュノ)」を建設・運営する新会社を設立。2024年開通予定で、総延長は1万キロメートル。太平洋最大規模になる予定です。

そのグーグルとNTT、2つのビッグプロジェクトのシステム開発を受注しているのがNECです。主にアジア太平洋地域を中心に50年以上の海底ケーブル事業に携わっていて、世界シェアは3割ほど。この市場では世界3強の一角を担っています。

出典:“海底ケーブル”切断のリスクは? 専門家は日本の対策は不十分と指摘【WBS】(テレ東BIZ) – Yahoo!ニュース(2023年5月29日配信)

また経済安全保障の観点から政府も動いています。政府は2024年度にも、民間と共同で日本の国内外を結ぶ海底ケーブルの増設に乗り出します。

日欧間など海外との新ルート開通や、海外からのケーブルと日本の通信網をつなげる国内拠点の新設などを念頭に置き、政府はこうした民間事業を資金面から支援するとしています。

災害や地政学リスクに強い分散型の通信網づくりを進め、経済安全保障の強化につなげると報じています。

安全保障は軍事面だけの問題ではない、むしろ実弾を使う以外の、情報争奪合戦とか情報操縦とか、あるいは経済の根幹に関わる部分での戦いのほうが、遥かに重要になってくるのですね。

それが「現代の戦争」なのでしょう…。

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年6月28日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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  • らぽ~る・マガジン第585号「海底ケーブルに中国盗聴器?」(6/26)
  • らぽ~る・マガジン第584号「分厚い中間層を復活させる『骨太の方針』って一体何よ…」(6/19)
  • らぽ~る・マガジン第583号「「森林環境税」が住民税に上乗せされて取られるのをご存知ですか…」(6/12)
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らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』(2023年6月28日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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