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いまや老後資金は1億円必要……ただし会社員なら「何とかなる」理由=塚崎公義

「老後資金は1億円必要だ」と言われます。これを聞いて不安になる方がいるかもしれませんが、サラリーマンであれば何とかなります。貯金が1億円必要なわけではないのです。(経済評論家 塚崎公義)

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プロフィール:塚崎公義(つかさき きみよし)
経済評論家、元大学教授。東京大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)、久留米大学商学部教授を経て2022年に定年退職。現在は経済評論家として執筆活動を行う。著書に『よくわかる日本経済入門』『大学の常識は、世間の非常識』『老後破産しないためのお金の教科書』など。

老後資金は1億円必要だが、貯金が1億円必要なわけではない

「老後資金は1億円必要だ」と言われます。

夫婦の1ヶ月の生活費が25万円だとすると、1年で300万円です。60歳で定年を迎え、93歳まで生きると「1億円必要だ」という計算なのでしょう。

60歳女性の平均余命(28年)より少し長生きすると、本当に1億円かかるのですね。平均余命より長生きするかも知れませんし、医学の進歩で平均寿命が伸びるかも知れません。妻が夫より若ければ、夫が定年になってから33年間妻が生きる可能性は結構高いかも知れません。
※参考:主な年齢の平均余命 – 厚生労働省

「自分は1億円も持っていない」と心配になった人もいるでしょうが、大丈夫です。

今の高齢者たちの多くは何とか暮らしていますが、彼らが現役だった頃に貯金を1億円持っていたわけではありませんから。

サラリーマンは年金が比較的充実している

サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む、以下同様)は、公的年金が充実しています。

標準的な夫婦で老後に毎月22万円程度を受け取れますから、贅沢は無理でも、何とか生活はできるでしょう。

60歳で定年を迎え、65歳の年金受け取り開始まで何とか働いて生活費を稼げば、その後は年金で暮らせる、というわけですね。公的年金は、どれだけ長生きしても支払ってもらえますし、インフレになっても原則としてインフレ分だけ支給額が増えますから、老後資金の非常に心強い柱だと言えるでしょう。

「今の若い人は老後に年金が受け取れない」などと言う人もいますが、年金の専門家の中にはそう言っている人はほとんどいないので、安心しましょう。

もちろん、現役時代に老後資金を蓄えてあれば、その分だけ安心ですし、老後にささやかな贅沢を楽しむことができるでしょうが、老後の蓄えがなければダメだ、というわけではなさそうです。

「年金だけでは老後資金が2,000万円足りない」という話が一時期話題になりました。

しかし、それは誤解です。「今の高齢者は老後の蓄えを取り崩してささやかな贅沢を楽しんでいる。その取り崩し額は2,000万円程度だ」という話なので、これも安心しましょう。

Next: 定年直前で資産ゼロでも、家があれば何とかなる?



定年直前で資産ゼロでも家があれば何とかなる

サラリーマンには、退職金が出ますから、現役時代に老後の蓄えが無くても、何とかなる場合も多いでしょう。退職金の代わりに企業年金がもらえる場合もあるでしょうが、支給されるタイミングだけの問題ですから、同じことですね。

個人差は非常に大きいでしょうが、遺産も受け取れるかも知れません。平均的な日本の高齢者は結構な額の金融資産を持っていますし、「長生きしてしまったら老後資金が底を突いてしまうかも知れない」という不安から質素に暮らし、結局それほど長生きせずに遺産を残す、という人も多いようですから。

もっとも、家が無いと苦しいかも知れません。

老後も借家に住むとなると、長生きをした場合に延々と家賃を払い続けなければいけませんし、インフレが来て家賃水準が上がっていくリスクもあるでしょう。

現役世代にとって自宅に住むべきか借家に住むべきか、というのは専門家の意見がわかれる所ですが、筆者としては「老後は自宅に住む方が圧倒的に安心で、そのためには、現役の時に家を確保しておくべきだ」と考えています。

早めに家を買って、定年までに住宅ローンを払い終えておければ老後が安心ですからね。

足りなければ働いて生活を見直して、それでも足りなければ節約しよう

老後資金が足りないと感じている人も多いと思いますが、「足りないから節約しよう」と考える前に、働いて稼ぐことと、生活を見直すことを考えてみましょう。

今の高齢者は、元気な人が多いので、働ける間は働いて稼げば良いのです。

働くことは、収入の面のみならず、社会との接点が持てますし、世の中に必要とされているという自己肯定感も持てるかも知れません。

ひと昔前までは、高齢者は仕事を見つけるのが大変でしたが、今は少子高齢化による労働力不足の時代ですから、高齢者でも探せば仕事が見つかるはずです。

配偶者も、子育てが一段落したら働いて稼げば良いのです。できれば厚生年金に加入するような働き方を選びたいですね。厚生年金保険料を支払う必要が出てきますが、老後に厚生年金が受け取れるのは安心材料として大きいですから。

生活の見直しも、ぜひ試みましょう。ケチケチするというのではなく、大きな支出項目について、本当に必要なのか、じっくり考えてみるのです。

たとえば、自動車は必要でしょうか。田舎では必要でしょうが、都会なら公共交通機関を使えば良いのではありませんか?

筆者は自動車を持っていません。自動車にかかる費用を計算すると、とても大きな費用なので、自動車を手放しました。タクシー代は相当大胆に使っていますが、それでも費用は減っています。

費用面以外にも、駅まで歩く、駅の中を歩く、ということで運動になります。もしかして、スポーツジムの年会費も不要になるかも知れません(笑)。

子育て中は郊外の大きな家に住んでいたとしても、老夫婦2人になったら都心の小さなマンションに引っ越しませんか。買い物等が便利ですし、掃除も戸締りも楽ですし、一戸建てより暖かいので老夫婦には良いかも知れませんよ。

そうした工夫をしても、なお老後資金が足りない場合には、仕方ないのでビールを発泡酒に変える必要がありますが、可能であれば生活の潤いは残したいですからね。

(筆者注:本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があります。)

Image by:polkadot_photo / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年9月20日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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