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閉店が相次ぐ「ヴィレッジヴァンガード」株は買いか?客足が減った2つの要因。効率化で業績改善も魅力が失われる危険性=山口伸

ヴィレッジヴァンガード<2769>は「遊べる本屋」をコンセプトとしたエンターテイメント性のある雑貨屋として知られる。だが2010年代に入ってから規模縮小が続いており、一時は400店舗以上を展開していたものの現在では300店舗にまで減少している。なぜ客足は遠のいてしまったのだろうか。続く業績悪化とその理由についてまとめてみた。(山口伸)

プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。

「遊べる本屋」として展開

ヴィレッジヴァンガード(以下、ヴィレヴァン)は現在の代表取締役会長である菊地敬一氏が1986年に名古屋市でオープンした書店に始まる。

書店とはいえCDやアクセサリー類のほか物珍しい雑貨類も売っており、雑貨類は同社独自の名称として「SPICE」と呼ばれる。商品陳列のルールも無く店内は雑貨類で埋め尽くされているため、「遊べる本屋」というコンセプト通りレジャー目的で入店する客も多い。読者の中にも一度や二度、訪れた方はいることだろう。

現場の裁量が大きいのも特徴で、商品の半分は本部ではなく正社員である店長が決めて良いことになっている。棚づくりや手書きで書かれるPOPの作成も現場が行っているようだ。そのため店舗に統一感はなく、お店ごとに特色が出ている。店長の中にはファンとして働き始めた元バイトも多いという。

2000年に50店舗目をオープンした後、2004年には100店舗目を突破、そのわずか2年後には200店舗体制となった。エンターテイメント性のある雑貨屋は他に無く、その珍しさや面白さが集客に繋がった形だ。

2007年には中南米風の衣類や雑貨品を扱う「チチカカ」を買収し傘下に置いている。

しかし2010年代から客足が遠のく…

売上高だけをみると、2016年5月期まで成長していたように見える。

株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの連結売上高を振り返ると、2009年5月期に300億円を突破して以降、12年5月期には400億円を超えた。

「12年5月期〜16年5月期」における連結の業績は次の通りだ。

売上高:429億円 → 438億円 → 437億円 → 460億円 → 468億円
営業利益:34.0億円 → 25.3億円 → ▲3,700万円 → 7.6億円 → ▲2.7億円
店舗数(ヴィレヴァン):390 → 393 → 403 → 388 → 389

売上高は伸び続けているものの、14/3期以降は営業利益が落ち込んでいることが分かる。当時は主力のヴィレヴァンのほかチチカカ事業を展開していたが、ヴィレヴァンに関してはこの間、規模は拡大していても既存店売上高は減少し続けていたのだ。

2008年5月期の決算まで「既存店売上高の88か月連続増収」を謳っていたものの2010年代から前年割れするようになり、店舗数は増えても利益が減り続けてしまった。

その後は拡大路線を止め、セールや値下げでなんとか営業利益の黒字化を達成したが、13年5月期は46億円もの棚卸資産評価損を計上し、最終利益はマイナス38.3億円となっている。

一方のチチカカ事業も同時期に不調となった。チチカカは中南米をモチーフとしたエスニックな衣類や雑貨を扱うアパレル店であり、買収以降は店舗数・売上高がともに伸び続けていた。しかし円安による商品の仕入コストの膨らみにより、15年5月期と16年5月期は営業利益が赤字となってしまった。

ヴィレヴァンとのシナジーが得られなかったことも業績悪化の要因の1つであろう。一見、両者は似た者同士に見えるが、小売店/アパレル店と取り扱う商品も業態も異なる。仕入れの共通化もできない。

結局、約130店舗を展開していたチチカカ事業は2016年にネクスグループへ売却され、ヴィレヴァンの連結売上高は16年5期の468億円から17年5期の358億円と大幅に縮小した。

Next: なぜファンの心は離れた?客足が減った2つの要因



客足が遠のいた2つの要因

本業のヴィレヴァンに話を戻そう。客足が遠のいてしまった要因として、2点が考えられる。

<要因その1:飽きられた>

1つ目は単純に飽きられてしまった点だ。

本もCDも雑貨も扱う楽しい雑貨屋は当時としては珍しく、2000年代は話題性が客を呼んで店舗数を増やした。珍しい物見たさで寄る客も多かったわけだが、何度も通ううちに飽きられてしまったのではないだろうか。

特に拡大当時はイオンモールなどいわゆる普通の商業施設にも出店していた。頻繁に見掛けるようになるとエンターテイメント性や珍しさといった店舗の魅力は失われる。そういった意味で400店舗という規模は同業態として適正な規模ではなかったと考えられる。

<要因その2:暇つぶし需要の減少>

2点目として考えられるのは、暇つぶし需要の減少である。

ヴィレヴァンの来客目的として商業施設に訪れた際の暇つぶしがある。暇つぶしで入ってみたものの面白そうな商品を見つけてしまい、ついでに買ってしまう客が売上に貢献する形だ。

だがヴィレヴァンの既存店売上高が減少し始めた時期は、ちょうどスマホの普及率が増加した時期と重なる。2010年にわずか4%だったスマホの普及率は翌年に21%となり、15年には半分を超えた。商業施設にいる消費者がスマホを持つようになったことで、ヴィレヴァンに対する興味が失われてしまったのではないだろうか。

ちなみに他社記事で同社の幹部はスマホやSNSによる暇つぶし需要の減少について語っている。
※参考:その街のファンが店長になり、現場発想で客を呼び込む…「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードの運営哲学 – XD:クロスディー(2019年12月17日配信)

そしてチチカカの売却以降、ヴィレヴァンは不採算店の閉店を続け、年々会社規模は縮小し続けた。

直近の業績は…

それでは近年の推移をみてみよう。「2019年5月期〜23年5月期」までの全社業績と店舗数は次の通りである。

売上高:339億円 → 293億円 → 283億円 → 268億円 → 253億円
店舗数:346 → 343 → 334 → 318 → 307

ヴィレッジヴァンガードコーポレーション<2769> 業績(SBI証券提供)

直近の5年間で店舗数は約40店舗減少し売上高も縮小した。既定路線だった不採算店閉鎖のほか、コロナ禍による時短営業・休業の影響が縮小の要因である。

一方で営業利益は21年5月期から、最終利益は22年5月期から黒字化に成功しており、在庫や仕入のコントロールが上手くいったようだ。他にも期間限定のPOPUP店やオンライン販売がある程度売上に貢献している。

Next: 再び躍進するか?今後はDXで効率化を図るが…



今後はDXで効率化

近年、高利益体質を目指すべく、ヴィレヴァンは在庫管理システムやAIの導入といったDX関連の施策を進めてきた。また、仕入面では本部による仕入比率を増やしており、商品選びの点で効率化を図ろうとする動きがみられる。

こうした動きが黒字化という数字にも現れた形だ。

ヴィレッジヴァンガードコーポレーション<2769> 月足(SBI証券提供)

効率化は確かに業績回復に貢献することだろう。だが雑多な陳列や店舗ごとの特色といったヴィレヴァン本来の魅力が失われ、今後は似たような店舗が増えるかもしれない。

チェーンとして展開する以上、やはり効率化は避けられないようだ。

【関連】株価ピークから8割減「バルミューダ」株は買いか?スマホ事業失敗だけじゃない赤字転落の理由。唯一の活路とは=山口伸

image by: retirementbonus / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年1月12日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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