マネーボイス メニュー

studio 55 / Shutterstock.com

英国EU離脱ショックとリーマン・ショック、たった1つの大きな違い=久保田博幸

6月23日の英国の国民投票により、EUからの離脱が決まった。開票時間に市場が開いていた東京市場では、日経平均が1000円以上も下落し、ドル円は一時99円台まで下落するなど、ややパニック的な動きとなった。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

※『牛さん熊さんの本日の債券』は、毎営業日の朝と夕方に発行いたします。また、昼にコラムの配信も行ないます。興味のある方はぜひこの機会に定期購読を。

英国EU離脱ショックが「リーマン・ショックの再来」にならない理由

パニックに陥った東京市場

6月23日の英国の国民投票により、EUからの離脱が決まった。開票時間に市場が開いていた東京市場では、日経平均が1000円以上も下落し、ドル円は一時99円台まで下落するなど、ややパニック的な動きとなった。

【関連】英国EU離脱がバリュー株投資家にとって千載一遇のチャンスとなる理由=栫井駿介

24日の欧米市場でもリスク回避の動きが強まり、ダウ平均は610ドル安となるなどしたが、肝心のロンドン株式市場はいったん急落したものの、英国の通貨ポンドも急落したことで輸出株などが買われて、こちらは下げ幅を縮小させていた。

2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻し、大規模金融機関が破綻したことで金融市場は極度の不安に陥り、これはリーマン・ショックと呼ばれた。巨大金融機関の破綻がもたらす影響を懸念した米政府は金融機関を破綻させない方針に転じ、FRBは9月16日に米国の大手保険会社AIGに対して緊急融資を行うことを表明した。しかし、緊急経済安定化法案が9月29日に下院で否決され、これは金融市場に再び大きなショックを与えることとなり、29日のダウ平均株価は終値で777ドル安と史上最大の下げ幅を記録した。

英国のEU離脱について、事前の世論調査ではかなり拮抗していた。ただし、2014年におけるスコットランド独立の有無を決める住民投票おいても結果として反対派が勝利していたことで、これも踏まえ今回の国民投票も離脱は回避されるとの楽観的な見通しが多かった。このため、開票途中で離脱派の優位が伝えられたことで、市場はパニック的な様相を強めたのである。

ただし、英国の国民投票結果により、金融市場に直接何かしらの影響があったわけではない。必死で作り上げたEUという組織の崩壊の兆しに歴史の変化を感じ、先行きの不透明感を強め、急激なリスク回避の動きが起きたものと思われる。

これに対してリーマン・ブラザーズの破綻は金融市場において直接的な影響を与えることとなった。大手金融機関の破綻は金融システムそのものの危機となったのである。

例えば日本でもリーマン・ブラザーズ証券の破綻の際に、「正確な財務状況が確認されるまで既往契約に基づく決済を停止する」旨が発表され、約定済みの国債取引が一切履行されないという非常事態が発生したのである。

Next: 英国EU離脱が金融システムと世界経済に与える影響はどの程度?



英国EU離脱が金融システムと世界経済に与える影響

今回の英国のEUからの離脱により、英国の金融機関にも何らかの影響は出たとしても、金融システムを揺るがすほどのものになるとは思えない。英国国民投票で予想外の結果が出たことで、米国の大統領選挙でも予想外というか、なってほしくない候補が大統領になってしまうかも…との懸念も出たようだが、これも選挙結果を見るまでは当然わからない。

英国のEU離脱により世界経済にも影響が出るのではとの懸念もある。伊勢志摩サミットの首脳宣言でも「成長に向けたさらなる深刻なリスク」と明記されていた。ところが肝心の英国の株式市場を見ると懸念などより、ポンド安による輸出企業への恩恵が意識されて、下げ幅を大きく縮小させていたのである。むしろ急激な円高も加わって日本経済への影響の方が大きいのではないかとも思われるぐらいである。

英国のEU離脱により、たとえば英国の信用が大きく低下し、英国債が売られるようなこともなく、むしろ英国債は買い進まれていた。このあたり2010年のギリシャ・ショックとも異なるところである。

金融システムへの直接的な打撃、もしくは国の信認の急低下といった事態は金融市場を直撃し、世界的な金融経済リスクを生じさせる。しかし、今回の英国のEU離脱については、その懸念が全くないわけではないものの、ショックの質が異なるように思われるのである。

【関連】イギリス国民を「EU離脱」に追い込んだ、欧州連合とECBの自業自得=矢口新

牛さん熊さんの本日の債券』2016年6月27日号より
※記事タイトル・リード文・本文見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

牛さん熊さんの本日の債券

[月額1,100円(税込) 毎週月・火・水・木・金曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
金融サイトの草分け的な存在となっている「債券ディーリングルーム」の人気コンテンツ、「牛さん熊さんの本日の債券」がメルマガとなりました。毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを会話形式にてお伝えします。さらっと読めて、しっかりわかるとの評判をいただいている「牛さん熊さんの本日の債券」をこの機会にぜひ御購読いただければと思います。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。