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イギリス国民を「EU離脱」に追い込んだ、欧州連合とECBの自業自得=矢口新

BBCによると、国民投票に登録した有権者数は4649万9537人と過去最高だった。結果は、約52%の人々がEU離脱を支持した。

英政府やメディア、国際機関、欧州各国政府、企業などによる「景気減速、失業、給与下落、資産価値減少、格下げなど、EU離脱は英国のためにならない」という大合唱にも関わらず、どうして英国民は国を二分するほどにEU(欧州連合)政府に対して懐疑的になったのだろうか?

私は、これまでにEU政府やECB(欧州中央銀行)が行ってきたことに大きな原因があると見ている。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

多くのエコノミストが押し黙る「イギリスEU離脱」の本質

英国人がEU離脱を望んだ3つの理由

EU離脱を望む英国人が抱く懸念を、主に英文で書かれた情報をもとに、私が勝手に推測すると、

  1. EU政府が官僚的で、必ずしも英国の国益に沿った政策を行わない
  2. 欧州の統合はもはや現実的ではなくなった
  3. 移民、難民問題

の順になる。

英国人にとっては、これらの懸念が、「景気減速、失業、給与下落、資産価値減少、格下げ」などといった、明日からの生活を脅かすような懸念をも上回ったことになる。順に解説しよう。

(1)EUは英国の国益に沿った政策を行わない

この(1)の懸念は正しい。EU政府が官僚的で、EU各国に適切な政策を採らないのは、米国発のサブプライムショックのときに顕著となった。

当時、米FRBは住宅価格バブル崩壊翌月に利下げを行い、英BOEはその翌月に利下げを行った。FRBの利下げペースは下図に見られるように急速なもので、同中央銀行の危機感を如実に反映している。その危機感は、1年余り後のリーマンショックを防げなかったことからも、それでも足りないほどに適切なものだったと言える。

主要中銀の政策金利の推移

主要中銀の政策金利の推移

リーマンショックが起きた時には、FRBはすでに政策金利を3.25%ポイント引き下げており、BOEでも0.75%引き下げていた。BOJは横ばい。ところが、ECBは何と利上げしていたのだ。

欧州にも住宅バブルの崩壊があった。英国やアイルランド、スペインなどだ。それで、英国は利下げしたが、ユーロ圏のアイルランドやスペインは逆に利上げされたのだ。このことの帰結の一例として、ユーロ圏主要国の失業率の推移を挙げよう。独仏と、後にPIIGSと揶揄されるようになった、ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの7カ国だ。

ユーロ圏主要国の失業率の推移

ユーロ圏主要国の失業率の推移

ご覧のように、2007年まではアイルランドの失業率だけが5%以下と最も低かった。当時のアイルランドは他の経済指標も良く、ユーロ圏随一の経済優等生の1つだった。ところが、サブプライム、リーマンショック後には、一時14.7%にまで急上昇する。

利上げとは、経済引き締めの一手段だ。景気悪化時に引き締めると、景気はさらに悪化することになるという、今さらながらの生きた証明となった。では、ECBは経済音痴なのだろうか?

私はそうは思わない。政治や政策は優先順位だ。何かを優先すれば、どこかが後回しになる。あるいは、ある集団や部門を優先し、他に逆効果になることを行えば、そこが犠牲にもなる。

はっきりと述べよう。ECBはドイツを優先し、ドイツのインフレ懸念のために利上げしたのだ。

Next: 英国人にEU離脱を決意させた、ECBの恥知らずな「ドイツびいき」

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