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イギリス国民を「EU離脱」に追い込んだ、欧州連合とECBの自業自得=矢口新

欧州統一国家は夢物語

次に、冒頭で挙げた(2)の「欧州の統合はもはや現実的ではなくなった」ことを解説するために、先の同じグラフをもう一度引用する。

ユーロ圏主要国の財政収支

ユーロ圏主要国の財政収支

欧州連合は、将来的に1つの国に統合することを目的として設立された。当初の鉄鋼、石炭生産の統合から始まり、シェンゲン協定による国境検査なしの自由な往来、ユーロによる通貨・金融政策の統一と発展してきた。

そして、残るは財政と社会保障費などの統一となった。そのための財政赤字幅がGDP比3%以内という規制なのだ。

ところが、サブプライムショック、リーマンショックに起因するPIIGS危機以降、強硬に反対する国が出てきた。言うまでもなく、ドイツだ。それは財政収支のグラフを見せれば、すべての人を納得させられる。失業率のグラフでもいい。

過去は過去、今となっては、ドイツに統合のメリットはない

それでも、ここ2、3年は、ドイツを除く諸国にも、多少の立ち直りが見られている。何故か?ECBがデフレ脱却のためには何でもするという規模の金融緩和政策を採っているからだ。ここまですると、機能しても不思議ではない。

ここでの問題は、どの国に対して最も機能するかだ。ドイツでないことを願いたい。ドイツが先に立ち直り、インフレ懸念が出てくると、他国の経済状態に関わらず、ECBの金融緩和は終了しかねない

欧州が今後も統一に向けて進むには、フランスが赤字なら、ドイツにも赤字になってもらわないと困るのだ。しかし、ドイツがECBを、あるいはEU政府を、事実上コントロールしている状態では、政治、政策の優先順位は常にドイツ寄りとなる。

もはや、2007年以前の状態に戻ると想定するのは現実的だとは言えない。

痛みを承知でEUを「損切り」した英国人

また、(3)の移民・難民問題は、英国の問題というより、欧州大陸の問題で、英国は巻き込まれたくないというのが率直なところだ。一般的に解説されている様に、英国人にとって移民が職を奪うというのが大問題なのなら、「景気減速、失業、給与下落、資産価値減少」などという脅しに屈していたはずだ。

離脱を決めた英国人が持つ、「当面の景気減速、失業、給与下落、資産価値減少」などは受け入れるしかない、という覚悟はどこからくるのか?独立した政治、政策に加え、生活の不安よりも、身の安全を重視したと考える方が自然だ。

また、欧州大陸では難民の急増や相次ぐテロ以降、シェンゲン協定が形骸化し、移動の自由も脅かされている。つまり、欧州統合はどこから見ても、現実的ではなくなった。英国人は痛みを承知で、損切りしたのだ。

Next: 欧州統合なしで、統一通貨ユーロは存続できるのか?

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