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中国を敵に回さないアメリカ=佐藤健志

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年6月22日号より
※本記事の本文見出しはMONEY VOICE編集部によるものです

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現実の世界でも、アメリカは中国を敵に回さないかもしれない

じつは私、ゲームはほとんどやりません。
十年以上前、『I HAVE NO MOUTH, AND I MUST SCREAM』(おれには口がない、それでもおれは叫ぶ)というSF系のゲームを、ちょっとやってみたことがあるくらいです。

しかるに最近、ブログ(http://kenjisato1966.com)の読者より、あるゲームについて教えられました。
題名は『HOMEFRONT』(ホームフロント)。
日本語に訳せば「国内戦線」です。

2011年に発売された、近未来ものの戦記FPSゲームとか。
FPSは「ファーストパーソン・シューティング」、ないし「ファーストパーソン・シューター」の略。

ゲーム内の主人公の視点が、そのままゲームをプレイする人間の視点になる形で、戦闘や格闘を繰り広げるものを指します。
一人称で展開されるから、「ファーストパーソン」というわけですね。

さほど高い評価は得られなかったという話ですが、今年5月には続編『HOMEFRONT:THE REVOLUTION』(国内戦線:革命)が発売されましたので、けっこう人気があるのでしょう。
公式サイトはこちらをどうぞ。
http://www.spike-chunsoft.co.jp/hfr/

さて。
『ホームフロント』で注目されるのは、シナリオをジョン・ミリアスが担当していること。
映画監督・脚本家として知られた人物です。

主な監督作品は『風とライオン』『ビッグ・ウェンズデー』『コナン・ザ・グレート』『若き勇者たち』など。
フランシス・コッポラ監督のベトナム戦争映画『地獄の黙示録』の脚本も、コッポラと共同で手がけました。

『地獄の黙示録』は撮影が難航したことでも有名ですが、コッポラはあるとき、ミリアスにたいして「未完成のままオレが死んじまったら、代わりに完成させてくれ」という旨を告げたとのこと。
信頼されていたんですね。

反共主義者との定評もあり、タカ派と言われています。

で、そのミリアスによる『ホームフロント』の物語ですが。
基本の筋立ては以下の通り。

2013年、金正恩が朝鮮半島統一に成功し、「大朝鮮連邦」(GREATER KOREAN REPUBLIC, 略称GKR)を樹立する。
この功績で金正恩は、なんとノーベル平和賞を受賞。

これを受けてアメリカは、2014年に朝鮮半島から軍を撤収させます。
さらに自国の経済が悪化したせいもあって、2016年には日本を含めたアジア全域から軍を引き揚げました。

邪魔者がいなくなった大朝鮮連邦は、核テロの脅しをかけることで、2018年に日本を属領化。
2020年代初頭になると、アジアの多くの国を支配下に置くにいたります。
他方、アメリカは経済危機やら、新種の疫病の流行などで衰退一途。

そして2025年、大朝鮮連邦はアメリカに電磁パルス攻撃を実施したうえで、自国の「朝鮮人民軍」(KOREAN PEOPLE’S ARMY, 略称KPA)を侵攻させる!
アメリカの西半分は占領されたものの、自由を求める人々はレジスタンスとなって立ち上がった・・・

プレイヤーはレジスタンスの一員となって、KPAこと朝鮮人民軍と戦うわけです。

ここからすぐに連想されるのは、ミリアスが1984年に監督した映画『若き勇者たち』。
この映画、原題は『RED DAWN』(赤い夜明け)と言います。
ソ連(現ロシア)に占領されたアメリカで、若者たちがレジスタンスに立ち上がる話。
400万ドルの製作費にたいし、北米だけで3800万ドルの興行収入を挙げるヒットになりました。

いわば『ホームフロント』、21世紀版『若き勇者たち』とも評すべき作品なのですが・・・

何か気づかれた点はないでしょうか?
そうです。

ミリアスはなぜ、敵勢力を中国にしなかったのでしょう。
大朝鮮連邦が本当に誕生し、アジアに覇権を確立しようとしたら、中国が放置しておくとは信じがたい。

しかも大朝鮮連邦、日本を属領化する前に、特殊部隊を使って中国の原子力施設を破壊したことになっている!
だったら同国との全面衝突は、いよいよ不可避だと思うのですが。

調べてみたら、面白い経緯が分かりました。
『ホームフロント』の敵勢力は、当初、中国に設定されていたのです。
それが諸般の事情で、大朝鮮連邦に変更されたとのこと。
制作会社の重役ダニー・ビルソンは、変更理由を以下のように語ったと報じられます。

Next: なぜアメリカは中国を敵に回したくないのか?



1)中国とアメリカは友好的な間柄である。アメリカ人が買う物は、何から何まで中国でつくられている。だから中国を敵勢力にしても、あまり怖さが感じられない。
2)中国を敵勢力にしたまま発売すると、制作会社の重役たちは全員、ずっと同国に入国できなくなる恐れがあると忠告された。
http://news.livedoor.com/article/detail/5271520/

二つの説明は、どうも矛盾している気がするのですが、それは脇に置きましょう。
『ホームフロント』の筋立ては、「中国は敵に回さない」という判断の産物だったのです。

ところがお立ち会い。
『若き勇者たち』は2012年、映画でもリメイク版がつくられました。
監督はミリアスから、ダン・ブラッドリーに交代。
2013年には『レッド・ドーン』という題名で、日本でも公開されています。

で、今度はどの国がアメリカを占領するかというと・・・

やはり、当初は中国だったんですね。
「アメリカ政府が財政破綻に陥ったせいで、債権を保持していた中国が施政権を獲得する」という設定になっていたそうです。
けれども仕上げの段階になって、またもや北朝鮮に変更されることに。
財政破綻をめぐるくだりも、キレイに消えてしまいました。
http://www.vulture.com/2011/12/red-dawn-china-invades-america-because-of-debt.html#

こちらでも、「中国は敵に回さない」という判断がなされたわけです。
ただし400万ドルの予算で、3800万ドルの北米興収を稼ぎ出したオリジナル版とは対照的に、『レッド・ドーン』は6500万ドルの予算をかけたにもかかわらず、世界全体で4800万ドルの興収しか挙げられない結果となりました。

それはともかく。
ご存知のとおり、本年6月16日には、上海でディズニーランドがオープンしています。
片や6月9日には、尖閣諸島周辺の接続水域に中国海軍のフリゲート艦が進入。
6月15日には、やはり中国海軍の情報収集艦が、鹿児島県沖の領海を侵犯しました。
アメリカの反応は抑制的と伝えられます。

『ホームフロント』や『レッド・ドーン』のたどった経緯を踏まえるとき、なかなか意味深長ではないでしょうか?
現実の世界でも、アメリカは中国を敵に回さないかも知れませんよ。
ではでは♪

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