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新規上場「オリオンビール」は買いか?業績好調の理由と投資リスクを長期投資のプロが解説=佐々木悠

オリオンビールがついに株式市場に上場します。沖縄県内で「最も良い働き口」と言われるほど、地域に深く根差した企業であるオリオンビール。日本で最も平均年収が低い沖縄県において、正社員の働き口として「オリオンビール」の名が挙がるほど、その存在感は際立っています。

今回は、オリオンビールのIPO(新規株式公開)について、その詳細、企業の強みや課題、そして投資の是非について徹底的に分析します。沖縄の雄が描く未来とはどのようなものなのでしょうか。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)

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プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。

オリオンビールIPOの基本概要

オリオンビールは、2025年9月25日にプライム市場への上場を予定しています。

IPOとしては比較的大規模な案件と言えるでしょう。

IPOの目的と背景

今回のオリオンビールのIPOは、いくつか特徴的な目的と背景があります。

<既存株主の現金化(イグジット案件)が中心>

今回のIPOは、新規の資金調達を目的とした「公募」ではなく、既存株主であるファンドの「売出し」が主な目的となっています。

現在の株主構成を見ると、野村(約40%)とアメリカのカーライル(約38%)のファンド系グループが主要株主です。
両ファンドは合わせて約75%の株式を保有しており、そのうち約53%を売り出す予定です。

これは、ファンドが出資した企業を成長させ、株式市場で売却して利益を得る「イグジット案件」に該当します。そのため、今回のIPOによってオリオンビールに直接資金が入ることはありません。

<オリオンビール側の戦略的メリット>

直接的な資金調達ではないものの、オリオンビール側にも上場によるメリットがあります。

また、オリオンビールは沖縄に本社を置く製造業としては初の株式上場となります。当初は2024年の上場を予定していましたが、1年後ろ倒しになった経緯があります。

オリオンビールの歴史と沖縄での存在感

オリオンビールは、沖縄の歴史と深く結びつき、県民にとって特別な存在です。

<創業背景:沖縄復興への強い意思>

オリオンビールは1957年に設立されました。この年はまだ沖縄がアメリカの統治下にあった時代です。

第二次世界大戦の沖縄戦からの復興を目指し、第二次産業である製造業を興すという強い意思が背景にありました。名水がよく湧き出る場所として、現在の名護市に「沖縄ビール株式会社」として設立。社名「オリオンビール」は、県民からの公募によって決定されたものです。

<地域に根差した成長戦略>

1959年にビール生産を開始しましたが、当初は他の日本の大手ビール会社の勢力が強く、苦戦を強いられました。

製品をドイツ風から沖縄の気候に合わせたアメリカ風のビールに切り替え、県内全域での積極的な営業活動を展開した結果、沖縄県に深く根付いていきました。

当時のアメリカ軍関係者からの需要も一因と考えられます。1966年には台湾への輸出を開始し、初の海外展開を実現。沖縄返還後の1976年には米国向け輸出も行っています。

<主な事業内容と収益源>

現在のオリオンビールの事業は、大きく分けて2つあります。

1. 酒類飲料事業

主力製品は「オリオンドラフトビール」。発泡酒やチューハイなども販売しています。

特筆すべきは、「オリオンロゴのブランドライセンス収入」です。オリオンTシャツなどのライセンス供与によって、約30億円もの収入を得ており、これは全売上(288億円)の10%以上を占める重要な収益源です。人気キャラクターとのコラボなど、今後の成長も期待されます。

2. 観光ホテル事業
「オリオンホテル モトブリゾート&スパ」などを運営しています。最近オープンした観光施設「ジャングリア沖縄」への土地賃貸も行っており、これが売上の約21%を占めます。

沖縄県内での圧倒的なシェアとブランド力

オリオンビールは、自社製品に加えて、アサヒビールの主力製品(スーパードライなど)の代理販売も行っています。これらを合計した沖縄県内のビール販売シェアは、なんと約84%に達し、「無類の強さ」を発揮しています。

沖縄県民だけでなく、沖縄に観光に来た人々も「沖縄といえばオリオンビール」として消費する、「沖縄の思い出」と結びついた特別なブランドとしての地位を確立しています。

Next: IPOの狙いは?業績好調、高い営業利益率を維持できている理由は…



経営環境の変化とファンド参入の役割

現在の株主構成に至る背景には、オリオンビールを取り巻く経営環境の変化がありました。

<ファンド参入の背景:株主の高齢化と国内市場の縮小>

<ファンドによる事業基盤の強化>

ファンド(野村とカーライル)の参入により、株主の集約化が図られるとともに、営業・マーケティングの強化や海外展開の積極化が進められました。その結果、事業基盤の強化が図られ、直近の業績回復につながったと考えられます。

直近の業績と高い収益性

オリオンビールは、コロナ禍からのV字回復を遂げ、高い収益性を維持しています。

<売上・利益の好調な回復>

コロナ禍の影響で、2021年3月期、2022年3月期には沖縄県への観光客減少により業績が大きく落ち込みました。

しかし、2023年以降は観光客の回復と共に業績も回復し、2025年3月期の売上高は288億円、営業利益は34億円と、現在好調を維持しています。

<際立つ高い営業利益率>

国内大手ビール会社5社(サントリー、アサヒ、キリン、サッポロ、オリオンビール)と比較すると、オリオンビールの売上高は288億円と、サントリーの3兆5,000億円やアサヒの3兆円などと比べると規模は小さいです。

しかし、2024年度の営業利益率は11.81%と、国内大手企業よりも高い水準を維持しています。過去の年度を見ても、常に10%を超えている点は魅力です。

この高い利益率の背景には、原価率の低さがあります。アサヒビールの原価率が約62%であるのに対し、オリオンビールは約50%と低いのが特徴です。

この低原価率の一因として、沖縄県産の大麦を原料に採用する「地産地消」の取り組みが挙げられます。地元で比較的安価に原材料を調達できることが、高い利益率につながっている可能性があります。

Next: 新規上場オリオンビールは買いか?長期投資家が持つべき視点



今後の成長戦略とリスク要因

<中長期経営方針:5つの柱>

オリオンビールは、今後の成長に向けて5つの中長期経営方針を掲げています。

  1. 沖縄県内での圧倒的シェアの確立(継続)
  2. 県民と観光客の両方からの需要を継続して取り込む。

  3. 沖縄県外でのパートナーシップ強化
  4. アサヒビールや県外の卸売業者との連携を強化し、県外での売上を伸ばす。

  5. 海外での独自ポジション確立
  6. 代理店との関係強化、製品のプレミアム化、製品ポートフォリオの拡充を通じて海外展開を推進。

  7. ブランドライセンス事業の強化
  8. 「ちいかわ」などの人気キャラクターとのコラボレーションも視野に入れ、ライセンス収入のさらなる拡大を目指す。

  9. 観光ホテル事業を通じた沖縄体験の提供
  10. 近鉄グループやテーマパーク「ジャングリア」との連携を強化し、観光客に「沖縄での特別な体験」とともにオリオンビールを提供する。

<成長ドライバー:観光客数の増加とEC・海外事業の伸長>

<潜在的リスク要因>

一方で、投資判断においては以下のリスクも考慮する必要があります。

オリオンビールIPOへの投資判断

オリオンビールへの投資はありなのか、総合的に判断してみましょう。

<魅力的な配当政策と株主優待>

Next: 「沖縄の顔」オリオンビールの成長は続く?プロの投資判断は…



<総合的な投資判断>

オリオンビールは、ビール市場全体が大きく伸びる市場ではない中で、沖縄という観光地の優位性と観光客数の増加を背景に、今後の成長が期待されます。沖縄県内での圧倒的な市場ポジションと「沖縄の顔」としてのブランド力、そして高い営業利益率は同社の大きな強みです。

これらの強みに加え、高い配当利回りを期待して、配当目的で投資を検討するのであれば「あり」と言えるでしょう。

ただし、県外・海外・EC事業が今後どれだけ業績に貢献するか、そして2026年10月に迫る酒税減税措置の廃止が財務に与える影響については、引き続き注意深く見ていく必要があります。

まとめ

オリオンビールのIPOは、沖縄経済を支える地域密着型企業の新たな挑戦です。沖縄独自のブランド力と観光客増加の恩恵を背景に、高い配当利回りが期待できる点は魅力的です。一方で、酒税減税措置の廃止や国内ビール市場の競争激化といったリスク要因も存在します。

投資を検討される方は、これらの情報を踏まえ、ご自身の投資戦略と照らし合わせて慎重に判断することをお勧めします。申込期間は2025年9月9日から9月12日までです。


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image by:Mirko Kuzmanovic / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年9月9日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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