AI半導体市場の拡大を背景に、日本の半導体関連企業へ改めて注目が集まっています。半導体というと、NVIDIAやTSMCといった海外企業を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実際に半導体を製造するためには、さまざまな高機能材料や製造装置が欠かせません。この分野では、日本企業が世界的に高い競争力を持っています。
なかでも、いま注目したい企業の1つがレゾナック・ホールディングス<4004>です。レゾナックは、旧昭和電工と旧日立化成の統合によって誕生した企業です。現在はAI半導体の進化に欠かせない「後工程材料」の分野で、多数の世界トップクラス製品を持つ企業へと変貌しつつあります。一方、全社の業績を見ると、その強さがまだ十分に数字へ表れているとは言い切れません。不採算事業の整理や事業ポートフォリオの転換が続いており、株価も業績以上に期待が先行しているように見える部分があります。
今回は、レゾナックが注目される理由を、次の3つのポイントから詳しく分析します。
- AI半導体の進化を幅広く支える「製品力」
- 大規模な経営統合を前に進める「経営変革力」
- 業界を巻き込む「共創リーダーシップ」
(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
レゾナックはどのように誕生したのか
レゾナックの母体は昭和電工です。
昭和電工は2019年、日立製作所の子会社だった日立化成に対してTOB(株式公開買い付け)を実施しました。
その後、両社の統合が進められ、現在のレゾナックが誕生しました。
この買収が大きな注目を集めた理由は、当時の企業規模にあります。
動画内で紹介した当時の数字では、昭和電工の時価総額が約4,500億円だったのに対し、日立化成は約8,500億円でした。
つまり、時価総額で下回る昭和電工が、より大きな日立化成を買収した「小が大をのむ」M&Aだったのです。
当時の両社を比較すると、売上高と営業利益では昭和電工が上回る一方、従業員数と時価総額では日立化成の方が大きいという違いがありました。
単純に数字だけを並べれば、日立化成は昭和電工に比べて経営効率が低かったようにも見えます。
ただし、両社は手掛ける事業の性質が異なります。
そのため、売上高や従業員数だけを横並びにして優劣を判断することはできません。
むしろ重要なのは、両社の技術領域が補完関係にあったことです。
昭和電工は、原料に近い川上側の素材や汎用化学品を得意としていました。
一方、日立化成は川下側の応用化学品、特に複数の材料を組み合わせ、顧客が求める機能を実現する技術に強みを持っていました。
昭和電工にとって、汎用品を中心とする従来の事業構成のまま、自社だけで新たな成長分野を切り開くことは容易ではありません。
そこで日立化成を買収し、川上の素材技術と川下の応用技術を組み合わせることで、高付加価値分野へ進もうとしたのです。
この統合の成果が、足元のAI半導体需要の拡大によって見え始めています。
強み1:AI半導体の進化を幅広く支える「製品力」
<世界シェア1位・2位の製品を多数保有>
レゾナックの第1の強みは、AI半導体の技術進化を支える幅広い製品群です。
日本企業はもともと半導体材料に強く、世界でも限られた企業しか製造できない材料を数多く供給しています。
そのなかでもレゾナックは、世界シェア1位または2位の製品を10品目ほど持つとされ、特に半導体の後工程で存在感を示しています。
代表的な製品として次のような材料があります。
- パッケージ基板に使われる銅張積層板
- 半導体チップの熱を効率よく逃がす放熱材料
- メモリーを縦に積み重ねる際などに使われる絶縁フィルム
AI半導体は、高度な演算を行うほど大量の熱を発生します。
また、一つのチップの微細化だけで性能を高めることが難しくなり、複数のチップやメモリーを組み合わせる構造が増えています。
その結果、材料には「接着する」「絶縁する」「反りを抑える」「熱を逃がす」といった複数の役割が求められます。
レゾナックは、こうした課題に対応する材料を幅広く持っているのです。
<昭和電工と日立化成の技術が補完関係にあった>
レゾナックがこれほど多くの高機能材料を持てるようになった背景には、旧昭和電工と旧日立化成の異なる強みがあります。
旧昭和電工は、原料に近い素材をつくる「川上」の技術を得意としていました。
これに対し、旧日立化成は、有機材料と無機材料を組み合わせ、顧客が求める特性を持たせる「川下」の応用技術に強みを持っていました。
両社が統合したことで、材料の上流から顧客に近い応用領域まで、技術や情報を共有できるようになりました。
たとえば、顧客から新しい機能を持つ材料を求められたとき、既存製品を売るだけではなく、素材の段階までさかのぼって設計し直すことができます。
複数の材料や技術を組み合わせ、より高機能な製品を一から開発する選択肢も増えました。
もちろん、2019年の時点で現在ほど大きなAI半導体市場が短期間に立ち上がることを、完全に予測できていたわけではないでしょう。
ただし、化学メーカーは10年、20年先に必要とされる材料を想定しながら研究開発を続けます。
両社が長期的な技術開発を進めていたところへ、想定以上に早く巨大なAI市場が現れました。
さらに半導体には極めて純度の高い材料が必要であり、その要求に応えられる技術を持っていたことが追い風となっています。
統合による技術の組み合わせと、AI半導体市場の急成長がかみ合った結果、レゾナックは多数の世界トップクラス製品を持つ企業になったのです。
<「単品の強さ」ではなく「提案の幅」が競争力>
レゾナックの強みは、世界シェアの高い製品を持つことだけではありません。
半導体の高度化によって発生する課題は、一つの材料だけで解決できるとは限りません。
たとえば、放熱性を高めようとすると、接着性や絶縁性、材料の反りなど、別の問題が生じる可能性があります。
レゾナックは後工程に使われる多様な材料を持っているため、「この材料と別の材料を組み合わせれば、問題を解決できるのではないか」「材料だけではなく、パッケージング技術も含めて設計すればよいのではないか」といった幅広い提案ができます。
競合企業は、個々の製品分野には存在します。
しかし、後工程で必要となる多くの材料を一社でそろえ、それらを横断して提案できる企業は多くありません。
顧客にとっても、複数の課題を一社へ相談できることには利点があります。
NVIDIAなどのチップメーカー、TSMCなどの半導体受託製造企業、さらに自社設計のAI半導体を開発するMicrosoftやGoogleのようなハイパースケーラーに対し、レゾナックの総合的な提案力が生きる可能性があります。
Next: まだまだ成長する?期待される3つの物理的な理由
<高成長が期待される3つの物理的な理由>
レゾナックの半導体材料が将来どの程度成長するかを、正確に定量化することは簡単ではありません。
ただし、AI半導体の構造変化を考えると、材料の使用量が増えると考えられる物理的な理由があります。
第一に、AI半導体の高性能化に伴ってパッケージ基板が大型化しています。
搭載するチップや機能が増え、基板の面積が大きくなれば、パッケージ基板用材料の使用量も増えます。
第二に、高性能な半導体ほど発熱量が大きくなります。
発生した熱を外へ逃がすため、より広い面積で、より高性能な放熱材料が必要になります。
第三に、AIの学習や推論ではHBM(広帯域メモリー)の重要性が高まっています。
HBMはメモリーを縦方向に積み重ねて性能を高めるため、それぞれの層の間に絶縁材料などが必要です。
積層数や生産量が増えれば、関連材料の需要拡大も期待できます。
このように、単に「AI半導体市場が伸びるから材料も伸びる」と考えるだけではなく、半導体の構造がどのように変わり、そのどこにレゾナックの材料が使われるかを確認することが重要です。
半導体材料は伸びているのに、全社業績が目立たない理由
世界シェアの高い製品を多数持っているのであれば、レゾナックの売上高や利益は大きく伸びていてもよさそうです。
しかし、全社業績の推移だけを見ると、成長がまだ明確に表れていないように見えます。
出典:マネックス証券
これには理由があります。
経営統合後のレゾナックは、汎用化学品などの不採算・低収益事業を売却し、固定資産の整理や減損処理も進めてきました。
成長分野が伸びる一方で、事業売却によって売上高が減り、特別損失も発生したため、全社の数字では成長が見えにくかったのです。
一方、半導体・電子材料分野の利益は2022年12月期の約440億円から直近では約1,080億円へと、2倍以上に増えていました。
全社ではケミカル事業の赤字などが重荷となるものの、中心となる半導体・電子材料事業は成長していることが分かります。
収益性も高く、半導体・電子材料事業のEBITDAマージンは約30%、コア営業利益率は約20%です。
つまり、レゾナックは「優良事業がすでに高い利益を生んでいる一方、低収益事業や事業再編の費用が全社業績を覆い隠している」状態だと考えられます。
今後、不採算事業の整理が進み、減損や事業売却に伴う一時的な損失が減れば、半導体材料事業の成長が全社業績へ表れやすくなる可能性があります。
ただし、世界シェア1位の製品であっても、市場そのものが小さければ業績への貢献は限られます。
AI半導体向け後工程材料は、まさに市場が立ち上がりつつある段階です。
将来性を見るうえでは、各製品のシェアだけでなく、市場規模と需要の伸びを継続的に確認する必要があります。
強み2:大規模な統合を進める「経営変革力」
レゾナックの第2の強みは、経営を変える力です。
「小が大をのむ」大型買収では、買収契約を結ぶこと以上に、統合後の企業運営が難しくなります。
規模も歴史も違う会社同士では、企業文化、評価制度、意思決定の方法、仕事の進め方などに大きな差があるからです。
どれほど事業上の相乗効果が期待できても、組織が分断されたままでは技術や人材を十分に生かせません。
レゾナックは、この難しい統合を比較的うまく進めているように見えます。
その客観的な手掛かりとして動画で取り上げたのが、社員口コミサイト「OpenWork」の評価です。
レゾナックは数ある企業の上位2%に入る評価を得ていました。
さらに、退職者を含む総合評価だけでなく、現職社員からの評価も高いことが示されていました。
口コミはあくまで個々の社員の主観であり、これだけで企業価値を判断することはできませんが、それでも2023年以降のレゾナックに対する口コミからは、経営改革を進めながらも、現場の意見を尊重しようとする文化がうかがえます。
<「昭和型」の組織からフラットな組織へ>
旧昭和電工は、その歴史の長さもあって、かつては典型的な日本の伝統的大企業、いわゆる「JTC(Japanese Traditional Company)」に近い文化を持っていたといわれます。
たとえば、1つの稟議を通すために何人もの承認が必要になる、役職名で相手を呼ぶ、階層的な組織構造が強く、部門や役職を越えた意思疎通が難しい、といった特徴です。
レゾナックは、評価制度を変える、社員同士を「さん」付けで呼ぶ、服装をカジュアルにするなど、一つひとつは小さく見える改革を重ねてきました。
目的は、単に職場をくだけた雰囲気にすることではありません。
役職や旧所属会社の壁を越え、社員がよりフラットに意見を交換できる組織をつくることです。
将来必要となる材料を開発するためには、営業力だけでは不十分です。
10年、20年先の変化を読み、さまざまな立場の人が想像力やアイデアを出し合う必要があります。
レゾナックが進める組織改革は、研究開発型企業として人材の力を引き出すための変革だと考えられます。
<現場を尊重しながら、重要な意思決定は速く>
現場の意見を尊重するだけでは、改革が遅くなる可能性もあります。
特に不採算事業の売却には痛みが伴い、全員の合意を待っていては判断が遅れかねません。
この点でレゾナックは、現場を生かす経営と、トップによる迅速な意思決定を使い分けています。
高橋秀仁社長の元、すでに17前後の事業売却を進めてきました。
会社のロードマップや進むべき方向に関わる重要事項は、最終的に社長自らが判断し、スピード感を持って実行しているということです。
汎用化学品など収益性の低い事業を早期に切り離し、将来の収益源となる分野へ研究開発費を振り向けることで、事業ポートフォリオを変えようとしています。
社員が意見を出しやすい組織をつくりながら、撤退や資源配分では経営トップが決断する。
このバランスが、レゾナックの変革力を支えていると考えられます。
強み3:業界を巻き込む「共創リーダーシップ」
レゾナックの第3の強みが、他社と「共に創る」共創リーダーシップです。
AI半導体メーカーの要求は、技術的に厳しいだけでなく、変化のスピードも非常に速くなっています。
顧客から具体的な要求を突然受けてから研究を始めたのでは、開発競争に間に合わない可能性があります。
そこでレゾナックは、半導体メーカーや材料・装置メーカーが早い段階から相談し、共同で技術開発や実証実験を進められる仕組みをつくっています。
その中心にあるのが、半導体後工程のコンソーシアムです。
コンソーシアムとは、共通の目的を持つ企業などが集まった企業連合を意味します。
Next: なぜ半導体の「後工程」が重要なのか?レゾナックが選ばれる理由
<なぜ半導体の「後工程」が重要なのか>
半導体の製造工程は、大きく「前工程」と「後工程」に分けられます。
前工程では、ウエハー上に微細な回路を形成します。
これまでは回路の線幅を小さくし、一つのチップにより多くの回路を載せることで性能を高めてきました。いわゆる「ムーアの法則」が示してきた進化です。
しかし、微細化は物理的・経済的な限界に近づいています。
さらに小さな回路をつくるには、莫大な研究開発費や設備投資が必要になり、費用対効果が悪くなっています。
そこで重要性を増しているのが後工程です。
従来の後工程は、完成したチップを組み立てて最終製品にする工程と考えられていました。
現在は、複数の異なるチップをレゴブロックのように組み合わせ、全体として一つの高性能な半導体をつくる「先端パッケージング」の技術が注目されています。
複数のチップを組み合わせる際には、接着、絶縁、放熱、反りの抑制など、さまざまな課題が生じます。
これらを一社の材料や技術だけですべて解決することは難しく、材料メーカー、装置メーカーなどが協力する必要があります。
日本には後工程の各分野で強みを持つ企業が多くあります。
レゾナックは、それらの企業をまとめ、業界全体の技術力を高める旗振り役を担おうとしているのです。
<JOINT2:2.5次元・3次元実装の技術を開発>
「JOINT2」は、次世代半導体パッケージの技術開発を共同で進めるためのコンソーシアムです。
複数のチップを平面に広く並べると、チップ間の距離が長くなり、データ伝送の効率が悪くなる問題があります。
そこで、チップを平面だけでなく縦方向にも積み上げる2.5次元実装や3次元実装が重要になります。
JOINT2では、こうした先端パッケージングに必要な材料、装置、製造技術を参加企業が持ち寄り、共同で開発と評価を進めます。
<JOINT3:パネルレベルパッケージの量産技術を開発>
「JOINT3」では、より大きな四角形のパネルを使った半導体パッケージの量産技術開発が進められています。
一般的なウエハーは円形です。
円形のウエハーから四角いチップやパッケージを切り出すと、周辺に利用できない部分が発生します。
これを四角いパネルに置き換えられれば、面積を効率よく使い、一度により多くの製品をつくれる可能性があります。
ただし、円形のウエハーは圧力などを均一にかけやすいという利点があります。
単純に四角形へ変えればよいわけではなく、反りや均一性、製造装置などの課題を解決しなければなりません。
JOINT3は、こうした量産上の課題を複数企業で解決しようとする取り組みです。
このほか、米国にも「US-JOINT」と呼ばれる実証・共創の場を設けています。
顧客に近い場所でニーズを把握し、日本企業の技術を組み合わせて解決策を提案する狙いがあります。
<他社と協力すると、利益を分けることにならないか>
共創には疑問もあります。
優れた技術を一社で独占できれば、その会社がより大きな利益を得られるかもしれません。
他社と共同開発をすれば、自社だけで得られたはずの利益や情報を分けることになる可能性もあります。
ただし、現在の先端半導体が抱える課題は、一社だけでは解決しにくくなっています。
レゾナックは約10の強い製品群を持つとされますが、それでも必要なすべての材料・装置・製造技術を自社だけでカバーできるわけではありません。
コンソーシアムには、レゾナックにない技術を持つ企業が参加します。
各社の役割が補完関係にあるため、自社の利益を単に他社へ譲る構造とは限りません。
一社では実現できない技術を各社が協力して完成させ、市場そのものを拡大し、参加企業全体が利益を得る。
その中心でレゾナックが顧客との接点や技術情報を得られるのであれば、長期的には大きな競争力になる可能性があります。
<共創が必ず勝つとは限らない>
もっとも、コンソーシアムに参加していることだけで、将来の成長が約束されるわけではありません。
特定の技術課題を一社で素早く解決できるのであれば、その分野に特化した企業の方が強い場合もあります。
反対に、材料、装置、製造工程など複数の領域をまたぐ複雑な課題であれば、幅広い企業が参加するコンソーシアムが有利になるでしょう。
最終的には、TSMCなどの顧客が次世代チップにどの材料や製造方法を採用するかによって勝敗が決まります。
コンソーシアムに参加していない企業や、別の企業連合との競争も考えなければなりません。
レゾナックを見る際は、共創の枠組みそのものを評価するだけでなく、実際にどの技術が採用され、量産と売上につながったかを確認する必要があります。
Next: レゾナックは買いか?株価が急上昇したワケ
株価はなぜ急上昇したのか
レゾナックの株価は年初から急上昇していました。
前年4月の安値と比べると一時は10倍近く、その後の水準でも約6倍に達するほどの大きな上昇でした。
レゾナック・ホールディングス<4004> 日足(SBI証券提供)
背景として考えられるのは、次のような変化です。
- AI半導体の性能向上には後工程が重要だという認識が広がった
- レゾナックが後工程材料の総合力を持つ企業として評価され始めた
- 不採算事業の整理と半導体・電子材料への集中が進んだ
- コンソーシアムの活動など、統合後の成果が見え始めた
- ハイパースケーラー各社が独自のAI半導体を開発する流れが強まった
特に、MicrosoftやGoogleなどが自社の用途に適した半導体を開発するようになれば、チップの種類や要求性能はさらに多様化します。
複雑な要求を一社だけで解決できない場合、レゾナックを中心とする企業連合が相談先として頼られる場面が増える可能性があります。
一方で、足元の業績が株価と同じ勢いで急成長したわけではありません。
したがって、株価上昇には将来への期待が相当程度織り込まれていると考えるべきでしょう。
また、レゾナックは「この一製品が伸びたから株価が上がった」と説明しやすい企業ではありません。
多数の材料、顧客への提案力、コンソーシアムにおける立場などを合わせた「総合力」が評価されている可能性があります。
しかし、総合力に対する評価が短期間で急激に高まった理由は、業績だけでは説明し切れない部分もあります。
株価の上昇要因を一つに絞らず、市場の期待が実際の受注や利益へ結び付くかを慎重に見ていく必要があります。
<レゾナックを分析する際に確認したいポイント>
ここまでの分析から、今後レゾナックを見るうえでは、次の点が重要になります。
<1.半導体・電子材料事業の成長>
全社売上高だけでなく、半導体・電子材料事業の売上高、利益、利益率を確認する必要があります。
AI半導体向け需要の拡大が、実際に事業数字へどの程度反映されるかが重要です。
<2.不採算・低収益事業の整理>
事業売却や固定資産の整理が一巡すれば、特別損失が減り、収益構造が分かりやすくなる可能性があります。
半導体材料の成長が全社利益へ表れやすくなるかに注目です。
<3.研究開発投資の成果>
低収益事業から成長事業へ経営資源を移し、新製品や採用案件を生み出せるかが問われます。
研究開発費を増やすだけでなく、それが量産や利益につながっているかを確認したいところです。
<4.JOINT2・JOINT3・US-JOINTの具体的な成果>
コンソーシアムの参加企業数や活動内容だけでなく、顧客との共同開発、採用、量産化など、具体的な成果を見る必要があります。
<5.競合企業との技術競争>
一社に特化した競合と、複数企業による共創のどちらが有利になるかは、解決すべき課題によって変わります。
顧客が最終的にどの材料と製造技術を選ぶかが重要です。
<6.株価に織り込まれた期待>
株価が大幅に上昇した局面では、優れた企業であることと、割安な株式であることを分けて考えなければなりません。
将来の利益成長がどこまで株価に織り込まれているかを確認する必要があります。
まとめ:レゾナックは「大化けの手前」にいるのか
レゾナックの魅力は、単一のヒット製品に依存するのではなく、AI半導体の後工程を支える幅広い材料と提案力を持っていることです。
旧昭和電工の川上側の素材技術と、旧日立化成の川下側の応用技術を組み合わせ、多数の世界トップクラス製品を育ててきました。
さらに、社員の力を引き出す組織改革、不採算事業を整理するトップの決断力、業界全体を巻き込むコンソーシアム運営が、その製品力を支えています。
AI半導体の大型化、発熱量の増加、HBMの積層化、先端パッケージングの進展を考えれば、同社の材料使用量が増えていく方向性には一定の説得力があります。
一方で、現時点では半導体材料事業の成長が全社業績へ完全に表れているわけではありません。
共創の取り組みが、どれほどの受注・量産・利益につながるかも、まだ継続的な確認が必要です。
株価はすでに大きく上昇しており、将来への期待が先行している可能性にも注意しなければなりません。
レゾナックは、優れた材料を持つだけでなく、企業統合と業界連携によって「総合力」をつくろうとしている企業です。
その総合力が本格的な利益成長に結び付けば、大きく変わる可能性があります。
ただし、その可能性と投資判断は別です。
今後も事業別の利益、不採算事業の整理、次世代技術の採用実績、株価水準を一つずつ確認しながら、企業価値を見極めていくことが大切です。
皆さんは、レゾナックの製品力や共創戦略をどのように評価しますか。
ぜひ、それぞれの視点で考えてみてください。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2026年7月30日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。