飲食料品の消費税を2年間限定でゼロにするという高市首相の「悲願」は、なぜ失敗が約束されているのでしょうか。間接税の本質、直間比率、欧州各国の税制との比較──どの角度から見ても、今回の減税策には「そもそも論」が決定的に欠けています。(『高野孟のTHE JOURNAL』高野孟)
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年8月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
「そもそも論」を欠いた消費減税は必ず失敗に終わる。高市の「学力不足」が招く一知半解の連鎖
高市早苗首相が推進する政策のどれもに共通するのは「そもそも論」の欠如である。
例えば、「国家情報局」を作るのはいいが、その場合の「情報」とはインフォメーションではなくてインテリジェンスであり、その主な仕事は、国家が戦略的判断を誤らないようにするための叡智と深慮遠謀に裏付けられた選択肢の提示であって、そういうものが警察官僚の溜まり場に過ぎない内閣情報調査室の看板を架け替えただけで出現する訳がない。そもそも、学校教育がインフォメーションの詰め込み中心の発展途上国型を抜け出しておらず、大学・大学院でも「自分の頭で考える」という意味での先進国型のインテリジェンス訓練など行われていないこの国では、まずそこから改革を始めなければならないはずで、今から始めても100年かかるような話である。
それほどの一大事とは露知らず、ただ維新との政策合意に書いてあるからと法案をデッチ上げた高市も酷いが、スパイ防止の名の下で国民監視が強まるのではなどと見当違いの批判をしただけでこれを通してしまった野党も、罪深い。
消費減税は景気対策にはならない
飲食料品の消費税を2年間限定でゼロに減税するというのも、高市が「私自身の悲願」と見栄を切った割には中身がデタラメで、まず大前提として、法人税・所得税などの直接税は景気変動の影響が大きいが、消費税・付加価値税のような間接税はその影響が少ないからこそ福祉などの安定した財源に好適とされているわけで、消費税を短期間に上げ下げして景気対策に用いるのは(イギリスで13カ月、ドイツで6カ月などの前例はあるものの)賢明とは言えない。
しかも日本の場合は、意図的に円安に誘導してトヨタをはじめ輸出企業の見せかけの利益を膨らませて株価を釣り上げるというアベノミクス以来の詐術が今も踏襲されていて、それをそのままにして消費税だけを下げるのはポピュリスト手法そのもので、効果は限られている。初めから設計がチグハグなのである。
逆に、そこに本気で手を着けるなら、長期的・構造的な国民負担のあり方の問題として、今のように国際的に見て「中負担・中福祉」だと言いながら実際は「かなり高負担・かなり低福祉」で、誰も安心して医療・介護などのサービスを受けられるという実感を持てない現状をどう変革するのかを、正面切って大議論に乗せなければならない。
そうすると、第1に、現在の国民負担率、すなわち税(対国民所得で27.8%)と社会保険料(18.7%)の負担を合わせて46.5%で、先進国の中ではやや低めではあるけれども、財政赤字で将来の負担に先送りしている分が10.3%あり、それを足すと56.8%で、例えば財政赤字なしで世界有数の「高福祉」水準を実現しているスウェーデンの56.4%より負担が重い(だから「かなり高負担」)。なのに、スウェーデンとは比べ物にならない欠陥だらけの医療・福祉しか提供されていない(だから「かなり低福祉」)。
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消費税20%、食料品等は恒久的に5%が妥当
第2に、そのうち税で徴収する分を、直接税と間接税にどう割り振るかの「直間比率」の問題があり、日本は現在67:33であるのに対し、イギリス56:44、ドイツ53:47、フランス55:45など欧州の先進国はだいたい五分五分に近い(米国はそも「低負担・低福祉」の例外国家なので参考にならない)。
これは、上述のように間接税の方が景気変動の影響を受けにくいことに加えて、産業構造と税制とをマッチさせるというヨリ本質的な問題と関連する。大規模製造業が経済成長の推進力となる産業社会においては、例えば、全国に8カ所ほども大工場を持ち10万人近い従業員を抱える製鉄大企業があったとして、国税当局はその本社経理部を1カ所押さえるだけで、年々売上ベースが拡大することによる法人税の膨張と、それに伴って年々10%を超えるかという賃上げを享受する従業員10万人分の所得税の上昇を、きれいに徴収することができた。
ところが、情報サービス産業の時代となると、中小企業・ベンチャー企業こそがイノベーションの最先端であり、米シリコンバレーのIT業界でよく目撃されることであるけれども、ある小さなベンチャー企業が開発したソフトウェアが突然世界的なブームに乗って爆発的な大儲け。ナスダックに上場して社員一同、持ち株制で配られていた株券を高値で売り飛ばして大金持ちになり、即、会社は解散。税務署が会社単位で捕捉しようとしても到底追いつかないといったことが日常茶飯となる。そのため、消費の現場で網をかける方が効率的に徴税できることになるのである。
間接税が税収の半分ほどを占めるようになると、飲食料品などの無税化もしくは軽減税率の設定が必要となる。イギリスは消費税・付加価値税率が20%で食料品等は0%、ドイツは19%:7%、フランスは20%:5.5%、イタリアは22%:4%、スウェーデンは25%:12%などで、総じて税率を思い切って20~25%にするけれども食料品などは低く抑えるというメリハリが効いている。アジアでは、韓国、台湾、タイは全体税率10、5、7%で、食料品などはゼロ。煮え切らずに中途半端なのが中国と日本で、それぞれ13%:9%、10%:8%。今回日本は、この8%を1%にし2年後に8%に戻そうという混濁的な行動に出ようとしている訳である。
この日本の中途半端さの根源は、戦後シャウプ勧告に基づく産業社会時代の直接税中心の税制が、情報サービス社会になっても生き残り(第3次産業従事者が5割を超えたのが1975年)、産業構造上、経済実態とミスマッチを起こして税収を確保するのが難しくなってきたために、おずおずと消費税に手を出して、小出しに増税(3→5→8→10%)して足らざる分を補うという弥縫的な姿勢をとってきたためで、見直すなら思いっきり見直さなければならない。
なお、所得税の累進性に対し、消費税の逆進性を理由にその廃止もしくは縮小を唱える向きがある。確かに、消費税は金持ちにも貧しい者にも同じ率でかかるので、貧しい者には相対的には負担が大きくなるが、例えば金持ちは2000万円のベンツを買って200万円の消費税を払うが、田舎暮らしの私にとってはベンツは(田んぼの畦道のようなところに入っていけないので)全くの役立たずで、100万円台の軽四輪を買って10万円台の消費税を払うので、絶対額で見ると結果的な累進性が働いていると言えないこともない。
だからイギリスのように、消費税の全体税率を20%程度にまで上げ、食料品など生活必需品をきっぱりと0~5%にするのは、それなりの合理性があることなのである。
結局、そう言っては悪いが、高市には基礎的な「学力」が欠如しているので、自分が扱っている案件が、歴史的・構造的・国際比較論的に、そもそもどういう問題なのかを丸で理解できていない。そのため何をやってもデタラメ、チグハグ、モタモタ、ドタバタになってしまうのである。この様子を見ただけでも「米議会立法調査員」とかの肩書きが嘘だと知れるのではないか。
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