記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年7月18日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
PB目標は「破棄」、消費増税は最低でも「凍結」が正しい政策だ
「プライマリーバランス黒字化目標」の愚
最近、ある方(ブログには何度か名前が登場した方)と知り合い、6月1日の安倍総理の「消費税増税延期」会見の裏幕を知ることができました。
実際には、ある人物が動き、総理を動かしたようです。4月には、すでに増税延期と財政拡大路線への転換が官邸では「規定事実」化し、一部の国会議員たちも相談(消費税増税を延期するか否か、ではなく、延期発表までのプロセスについて)を受けていました。
その国会議員の一人から、三橋は「増税延期でほぼ間違いない(但し、衆院は解散しない)」とお聞きし、講演などでは「増税は延期される可能性が高いです」と語っていました。
ちなみに「ある方」「ある人物」が誰かは、さすがにオープンなメディアで語る気はありませんので、ご容赦くださいませ。
それはともかく、安倍総理が参院選後の7月12日に、閣僚に対し「10兆円を超す経済対策」をまとめるように指示しました。ところが、相変わらず「2020年度 PB黒字化」という目標は破棄していません。
そもそも、2020年度PB黒字化などという愚かしい目標を閣議決定したのは、2010年の菅内閣でございます。安倍政権は、本来は「目標破棄」を強行するべきだったのですが、結局、2015年6月に「目標踏襲」の結論を出してしまいました。
もっとも、先月、6月2日に閣議決定された「骨太の方針2016」には、2020年度PB黒字化目標は相変わらず残っていますが、これまでの骨太の方針に書かれていた「短期の目標」は全て消えていました。
PB目標については「2020年度」のみを残し、消費税再増税については2019年10月まで延期し、今後、三年強で財政出動を拡大し、デフレ脱却を目指すというスキームなのだと思います。
もちろん、PB目標については「破棄」、消費税増税については、最低でも「凍結」が正しいです。三橋はその旨を今後も主張、提言していくつもりなのですが、そもそもなぜ菅内閣は2010年に「PB目標」などという愚かな目標を設定したのでしょうか。
Next: 安倍総理は「国際合意による財政出動」へと大転換できるか?
2010年のG20
実は、2010年のG20において、リーマンショック後の各国の財政出動、及び財政赤字の拡大を受け、「財政再建」の方向性で合意がなされたのです。G20の首脳宣言では、「2013年までに財政赤字半減」という数値目標が宣言されました。
その後、日本のみならず、各国は「財政拡大」ではなく「財政再建」路線を突き進み、今や需要不足が世界的に慢性化してしまいました。G20の合意を受け、菅内閣は「2020年までにPB黒字化」を閣議決定し、現在に至る緊縮財政路線が始まったのです。
今回の安倍政権の財政拡大への路線転換(まだ転換していませんが)は、5月26日、27日のG7合意を背景にしています。つまりは、「国際合意による財政出動」というレトリックを、安倍政権は活用することが可能なのです。
しかも、参議院選挙で勝利し、自民党が参院で単独過半数を獲得しました(平野達男氏が自民党に入党したため)。
政権基盤は盤石で、財政出動の国際合意もある。冗談でも何でもなく、今回の「財政出動への転換」が、日本がデフレから脱却し、発展途上国化を免れるためのラストチャンスかも知れません。
『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/7/18号より
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