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トランプと習近平の密約「米国発の円高シナリオ」を加速させる3要因=斎藤満

18日から始まる日米経済対話、米国側からはペンス副大統領が来日し、麻生副総理と会談が予定されていますが、アメリカはここで為替を「利用」してくる可能性が高いでしょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年4月17日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「貿易不均衡是正」だけではない、トランプが円高を望む真の理由

円高の主因は「北」ではなく「為替報告書」

今の為替市場にはある種の動揺が見られます。先週、トランプ大統領の「ドル高は米国経済に負担」との発言を受けて、ドル円が一時108.73円まで下げましたが、テクニカル的には「半値戻し」が達成されたとして、ドルの底入れ反発が見られ、すぐに109円台に戻りました。

ところが、米国の「為替報告書」をきっかけに、再び円高の動きが進み、ドル円は108.6円まで下げました。

週末の北朝鮮「太陽節(金日成主席の生誕105年祝賀)」に、北がICBMの発射か核実験を行う可能性があり、これを「レッド・ライン」超え、と米国が見た場合には武力行使も――といった地政学リスクが意識されたことも、円を買い戻す要因とされました。

しかし、それもさることながら、日米経済対話を前に、米国が「為替報告書」で日本に圧力をかけたことが大きな円高材料になったと見られます。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

「日米経済対話」で為替を武器にするアメリカ

今週18日から、日米経済対話が始まります。すでに米国側からはペンス副大統領が韓国に入っていますが、18日には来日して麻生副総理と会談が予定されています。

この日米経済対話では、財政政策、金融政策なども含めた広範な経済政策が議論されますが、これを直前にした14日、米国財務省は半期に一度の「為替報告書」を提出、日本に対して明確な注文を付けました。

この為替報告書を巡っては、中国が「為替操作国」に認定されるかどうかに関心が持たれましたが、その裏で、日本が前回に引き続き「監視対象」の6カ国(地域)にリストアップされた点は見逃せません。

それだけでなく、為替報告書は日本に対して、「円はドルに対して過去20年の平均に比べ20%安い」と評価、円安ドル高を強くけん制しています。

さらに、日本に対する巨額の貿易赤字を問題視していることを明記し、日米経済対話を前に、為替の円安と貿易赤字削減に向けて、日本に圧力をかけてきました。そして日本の為替介入にも強い警戒感を示しています。

これに対し、日本の財務省は「日本の為替政策に影響があるとは考えていない」と能天気ですが、米国が今回の日米経済対話で為替を「利用」してくる可能性は高まってきました。

Next: 日本は為す術なし?アメリカと中国による「仕組まれた円高」



アメリカと中国による「仕組まれた円高」

18日にはペンス副大統領とともに、ウィルバー・ロス商務長官も来日します。

つまり、為替に関わる金融政策が初めて日米対話の議論対象になる可能性があり、日米の経済協力全般の議論と並行して、ロス長官と通商問題も議論されます。

言い換えれば、トランプ大統領は日本の為替、対米貿易黒字に対して不満があり、今回の「対話」を契機に、改善を求めていると言えます。

その中で、今回は特に為替を利用してくる可能性があります。

過去20年平均に比べて20%の円安」との評価は、かなり具体的なシグナルです。米国からすると、為替を円高に誘導することで、2つの目的を有利にします。

1つは言うまでもなく、日米間の貿易不均衡是正です。円高にしてどれだけ不均衡が是正されるか不透明ながら、ドル安にして米製造業を楽にする面はあります。

もう1つが、米国のインフラ投資計画や中国の金融危機におけるファイナンスを考えたとき、もう少し円高にした方が有利になるという面です。

中国が売却した米国債を日本に買わせろ

米国のインフラ投資計画については、まだ具体策が提示されていませんが、民間資金を導入したいとしているものの、投資家にどんなインセンティブを付与するか苦慮しています。最悪の場合は日銀の米国債購入の道を考えています。

その前に、お隣中国の5月金融危機も懸念されています。中国は為替介入なしに人民元を安定させるため、金利を高めにして「引き締め」的な金融政策をとっています。さらに、北京などでは不動産バブルを回避するために、住宅向け貸し出しの規制を強化しています。このため、中小金融機関の経営が不安定になったと言われます。

米国はこれを先取りして、米国資本による不良債権ビジネスに参画できるようにし、さらに米中首脳会談を機に、米国資本が中国の銀行に投資しやすくなりました。

中国の金融危機は、ある意味では米国の商機になりますが、いずれにしても資金が必要になります。その場合、中国政府や企業が米国債を売却して、資金手当てをする可能性があります。

そこで中国がアウトライトで米国債を大量に売ると、長期金利の上昇につながりかねず、米国は中国が保有する米国債を、相対で日本に引き取らせたい、と考えています。民間資金でも良いのですが、ここでも日銀の購入が想定されているようです。

Next: 「中国の金融危機回避」を想定した円高誘導シナリオが発動か?



中国の金融危機回避を想定した円高誘導シナリオ

もっとも政府も日銀も、日銀による外債購入は為替操作につながるとして否定しています。しかし円高になり、米国が望めば話は別です。

このため、以前から密かに、日銀による米国債の購入が日米中国の間で議論されていたと言われます。その際に、必要なら円高に誘導するシナリオがありました。

今米国のインフラ投資にはまだ時間がありますが、当面中国の金融危機回避を想定した円高誘導シナリオが利用される可能性があります。

米国も、北朝鮮への中国の働きに期待する分、経済協力は惜しまないでしょう。

円が必要以上に安すぎるとの前提のもと、1.日米通商問題2.中国の金融危機回避3.北朝鮮の暴発封印などの視点から、米国発の円高シナリオが利用される可能性を考えておいたほうが良いかもしれません。
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・見えてきたトランプ大統領の本性(4/14)
・トランプ政策下の金利高ドル高見通しは修正(4/12)
・米中首脳会談で習主席は窮地に(4/10)
・日銀理論の破たんを示す需給ギャップのプラス化(4/7)
・天下分け目の米中首脳会談(4/5)
・年金不安のデフレ圧力(4/3)


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年4月17日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年4月17日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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